「あつい…」
蒸した部屋の中でポツリと独り言を洩らした。動いていなくても自然に汗が垂れてくる。こんな日に外に出たらきっと倒れてしまう。
「なまえ」
「あ…ソニックさん」
窓から声をかけられる。
いつもなら突然の訪問に少しだけ嬉しくなるけれど、今日は少し憂鬱になった。
こんなに暑い日でもソニックさんは忍者の技を極めるために修行をするつもりなのでしょう。
私はできれば今日はお断りしたい…です。
言い訳をぐるぐる考えるけれど全く思いつかない。そして無言の私と同じようにソニックさんも一向に何も話しかけてこないので、不思議に思いチラリと窓辺を見た。なぜか目を丸くして固まっているから私も呆気にとられてしまう。
「? ソニックさん?」
「お前、その恰好」
「え… なにか変でしたか…?」
「いや…その」
暑いから涼しげなワンピースを着ていたんだけど。
やっぱり似合わなかったんだろうか。
よく考えたら丈も少し短い。これをソニックさんに見られているのはちょっと困るかも。
さっきまで平気だったのに、なんだか突然これを着てるのが恥ずかしくなってきた。
「あ、あの、私やっぱり着替えてきます。修行ですよね、忍者服に…」
「そのままでいい」
くるりと後ろに向けた背中越しに小さな声が聞こえて足を止めた。
「でも修行が」
「日が落ちて涼しくなってからやればいい」
おそるおそる振り返ると、ソニックさんは窓辺でそっぽを向いていたけれど、これはこのスカートが変じゃないってことでいいんだろうか。
それはとても嬉しい、かもしれない。
「あの、暑いので冷たいお茶を入れてきます」
「あぁ」
「ソニックさんも休んでいってください」
「そのつもりだ」
歩くたびにひらりと揺れるスカートに少しだけ胸が高まる。
修行の時間になるまで、あなたが見初めてくれたこのスカートを大いに楽しもうと思った。
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