今日もなまえとの修行場所へ向かう。
通り慣れた建物の屋根や木の上を音速で駆けると、いつもより体が軽い気がした。なまえに稽古をつけてやってる気でいたが、意外と俺の力にもなっているのかもしれない。
この調子ならサイタマと再戦していい結果が出せるのでは。


色々考えていたら、草原の真ん中でボケッと突っ立ってるなまえを見つけた。
ちゃんと遅れずに来れたようだな。木の上から声をかける。


「おいなまえ」


振り向いて少しだけ驚いた顔をしたあと、いつものように「あーソニックさん」と間抜けな返事を


「ん?なぁに?」
「!?」



突然普段の三倍の微笑みを向けられ面食らった。しかもやけに馴れ馴れしい。一体どうしたというんだ。


肝心のなまえはというと、俺の困惑など気にもとめる様子なくこっちを見て笑っている。



「どうしたの?迷子?」


…迷子?


「お前何を言って…」



ふと木の幹に触れている自分の手が視界に入った。
なんか小さい。


「…………」



下を見る。
足も、小さい。しかも短い。



俺の体は今一体どうなっているんだ?
嫌な予感がして、じんわりと冷や汗が頬を伝う。
小さな手足。そしてなまえの俺を見たときのこの反応。


震える手で刀を取った。よく磨かれた刀身を鞘からほんの少し出して自分の顔を写してみる。


お…幼い…


縮んでるっっ!!!
ご丁寧に刀まで!!


「わーカッコイイ刀だね。忍者みたい」


黙れなまえ!



クソッどうなってる!一体いつから小さくなってた!?なぜ今の今まで気付かなかった!
家で気付いていればこんな所までのこのこ出て来なかったのに!


やばい…どうする…


膝から崩れ落ちそうになるのをどうにか堪えて思考を巡らす。



「んー、そういえば」
「…!?」


なんだ?なまえ、何を言い出す。今俺はお前のアホな話に付き合っている暇はないんだ。


「あなたはどうして私の名前を知ってたの?」
「!? いや、いつもここに来てるのを見てて…」


なにを言ってるんだ俺は。


「えっ じゃあソニックさんのことも知ってる?よく私と一緒にいる人」
「まぁ…」
「すごい…見られてたなんて全然気付かなかった」



忍者として子供の気配に気付かなかった事に少なからず動揺しているようだ。気付いてなくて当たり前だが。子供が見ていた事なんか一日たりとも無いのだから。


なまえのプライドらしき物を咄嗟の嘘で傷付けてしまった事に軽く罪悪感を覚えるも、すぐに自分の現状の事で頭がいっぱいになる。


そもそもなぜ小さくなったんだ。戻る方法はあるのか?



「そのソニックさんが来ないんだ。どこにいったか知らないかな?」
「俺が知るわけないだろ」
「もしかして突然来れなくなったのかな。私今日携帯忘れて来たの」


こいつ普段はたいして喋らないくせにペチャクチャと…少し静かにしてろ


「取りに帰ろうかな。キミも一緒に行こう。私が家まで送るよ」
「そんなことしなくていい」


言いながら何気なく木から飛び降りる。


「あっ危ない」



なまえが着地地点に駆け込んできて、抱きかかえるようにキャッチされた。



突然のことに呆気にとられていたが、顔のすぐ近くでフゥと一息つく音が聞こえて一気に現実に引き戻される。



よく考えたらなんだこの状況は。なぜ俺がなまえに抱かれている。
細い腕が体にガッシリと回されて、顔どころか全身が近い。というかくっついている。
顔が熱を帯びるのがハッキリ分かった。
 


「大丈夫?あんな高い所から飛び降りたら危ないよ」
「なっ なななな」


いつも見下ろしていたなまえの顔を今は見上げている。いつもソニックさんソニックさんとおどおど俺の後をついて回っているのに、こんなシッカリした表情もできるのかと一瞬見とれた。



「……ほんとに大丈夫?」
「は…はなせ!」
「わっ だから危ないってば」



腕から抜け出そうとするが、なまえの力に全く適わない。
俺の目標はサイタマを倒すことなのに、この体だとなまえにすら勝てないのか。一生戻れなかったらどうなるんだ?成長して元の実力に戻るまであと何年かかる


サァッと青ざめた所で突然ボフンと煙に包まれ、難なくアッサリ元に戻った。




「きゃっ 重っ」
「っ!!」



突然元に戻った俺の重さに耐えきれず、なまえがひっくり返る。俺もバランスをとれずなまえにのしかかるような形で倒れ込んだ。



「イタタ」
「……一体何だったんだ」
「あれ?ソニックさんいつ来たんですか?」



…この馬鹿はあの子供がそのまま俺になった事に気付いてないのか?



「あ…あの…」
「ん?」


ハッ
この体勢


俺がなまえを押し倒したようになっているし、なまえの手は俺の背に回されたままだし、これではまるで…



「すっすみません」
「いや、悪い」



慌てて体を離す。よく考えたらさっきまであの腕の中に抱かれていたわけで。体が縮んだ原因はさっぱり分からないし、なまえともあんなに密着してしまったし、とにかく落ち着け冷静になれ。




「あの、さっきまでここに忍者みたいな男の子がいたんですけど、ソニックさん見ませんでしたか」
「さ…さぁな」

「一人じゃ危ないから家まで送ろうと思ったんですけど、帰っちゃったんでしょうか」
「大丈夫だろ…」
「だといいんですけど」


相槌をうつのが辛い。この話はもう止めろ。



「名前も聞き忘れちゃいました。また会えるでしょうか」
「それは二度とごめんだ」
「ソニックさん?」
「……………」




元に戻って改めて感じた事は、やはりこいつを見上げるより、こいつに見上げられたほうが気分が良いということ。
不思議そうな顔をしているなまえの髪をくしゃりと撫でた。


謎は残るがもう済んだ事だ。俺はサイタマの強さに追い付くために一秒も無駄にできないのだから。



「遅くなったが修行を始めるぞ」
「はい」







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