寒くも暑くもないポカポカした陽気。うとうとしてきたから、太陽の光で温められた畳の上に寝転がる。息を吸ったら畳の甘い匂いがした。どこか懐かしい、ほっとする感覚に浸っているうちにいつのまにか眠りに落ちていた。
…………
「なまえ」
返事がないからどうせまたいつもの部屋で昼寝でもしてるんだろう。
せっかく食べたがっていた菓子を手土産に持ってきてやったのに。今すぐ叩き起こして茶を入れさせてやる。
「おいなまえ」
半開きのふすまをスパンと勢いよく開けたら、見覚えのある長髪男が寝ているなまえの体にマントらしき物をかけようとしていた。
「き 貴様、なまえに何をしている」
わなわなと震える声で、むりやり笑顔をつくって話しかける。
「お前こそ…なまえに何の用があってここに来たんだ?」
向こうも口角をヒクつかせながら強張った笑みを向けてくる。
「今質問しているのは俺だろう」
「……こんな所で寝て風邪をひいてはいけないからこれを羽織らせようとしただけだ」
手に持ったマントが得意気に揺れる。
それはお前が着ていたやつだろう。そんなもの羽織らせられるか。イライラする。
なまえが昼寝のときはなぁ…
部屋の中を見渡すと、あった。部屋の奥に置いてあるブランケット。
「フンッ。なまえが昼寝のときはいつもこの布を使うんだ。そんな物は必要ない。とっとと失せろ」
ムカッ
「こんな日にそれをかけても暑くて寝苦しくなるだけだろう。適度な厚さで抜群の通気性があるこっちのマントのほうがいい」
イラッ
「そんな小汚い物をなまえにかけれらるか。こっちだ」
カチーン
「なんだと?こっちのほうがいいに決まってる」
「違うこっちだ」
「こっちだ。どけろ」
「お前がどけろ」
「「こ っ ち だ」」
ムムム………
「表に出ろ!!!」
「上等だ!!!二度となまえに近付けないようにしてやる!!!」
妙な爆発音や地響きの振動で目を覚ました。外が騒がしいけど怪人でも出たのだろうか。
寝ぼけまなこでしばらくぼーっとしていたが、意識がハッキリしていくにつれて、床の上がごちゃごちゃしている事に気付いた。
「なんかいっぱいある…。寝る前に片付けたはずなのに」
お気に入りのブランケット、何でここに。これは…フラッシュのマント?うちに遊びに来たんだろうか。あと紙袋が二つ。中身は…
「わぁ!ずっと食べたかったお菓子!こっちも!」
きょろきょろと辺りを見回すも、自分以外に人がいる様子はない。
食べていいのかなぁ。持ってきてくれた人の真意を確認してからのほうがいいかなぁ。でもやっぱり美味しそう。
ここにあったって事はきっと私にくれるって事だよね。
「食べちゃえ。お茶入れてこよっと」
台所まで駆けていく時にふとマントの中身の人がどこに消えたのか気になったけど、その謎はお菓子を食べた後にゆっくり考えることにした。
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