いつもの通り道。なんの変哲もない住宅街。でも私は気付いてしまったの。普通じゃありえない異様な光景に。



やっぱり。また干してある。



ニンニンって書いてある変なTシャツ。
上を見上げたとき、ベランダに干してあるあのシャツが視界に入って盛大に吹き出したのが始まり。それからというものこの道を通るたびに毎回Tシャツの有無を確認してしまう。

今日はニンニンT有りです。お疲れ様でした。

でもあんなTシャツどこで買ったんだろ。どんな人が着てるのかな。ダメだ、ニンニンTの存在を思い出しただけで笑ってしまう。









ややっ、また干してある。


どんだけヘビーローテーションしてるんだよ。
あ、でも実際はそんなに着てなくて、ニンニンTが私の印象に強く残りすぎて頻繁に干してあるように感じてるだけかもしれない。
4時44分をいっぱい見てるって勘違いするのと同じで。

とりあえず手帳に印をつけよう。今日もニンニンT、有りっと。
こうして見ると週2から週3ペースで印が…って、やっぱりいっぱい着てる!!









ふー、折りたたみの傘持ってきてて良かったー。突然降り出すんだもん。あ…ニンニンT干しっぱなしだ…

早く取り込まないと濡れちゃうよ。教えたほうがいいかな。でも留守かもしれない。いや、そもそも突然知らない人が家訪ねてきたらヤバいでしょ。どんな人が住んでるかも分からないし。帰ろう。

雨風に吹かれて揺れるニンニンTを見るとなんだか物悲しい気持ちになったけど、私にはどうすることもできなかった。










最近ずっと雨。どんよりジメジメして憂鬱な気分になる。いつもの道を通るけど、ベランダに洗濯物を干してる所なんて一つもなくて。そんなの当たり前だけど。
ニンニンT大丈夫かなぁ。部屋干しで元気にやってるかな。
パラパラと傘にあたる雨音を聞きながら家に帰った。











今日も雨かぁ。部屋の窓から外を眺める。こんな日は家でのんびりパソコンだよね。



Google
[ニンニンT メーカー]


そんなの調べてどうするのよ私!
いやでもメーカーを調べて店舗を割り出せれば…。割り出して何をするわけでもないけど。



[検索結果0]


そっか。いいけどねべつに。うん。
ていうか今更だけどこれってストーカーなんじゃ。人様のベランダを観察して検索までして。ニンニンTの持ち主が気付いたら絶対気持ち悪がるよね。通報…とかされちゃったら。


突然家のチャイムが鳴って、ドアを開けたら刑事さんが立ってる所を想像する。「署まで」とか言われたらどうしよう。新聞にも載っちゃう?
ストーカー女逮捕!毎日ベランダのTシャツを確認!

嫌あああ生きて行けない!最悪な状況になる前に、こんな馬鹿なことから足を洗ったほうがいいのかも。












晴れてる。
今日で最後にしよう。最後に一回だけあの道を通って、ニンニンTがあっても無くてもこれで終わり。


この道に通い詰めて長かったなぁ。ちょっとした思い出の地だよ。そしてTシャツの結果は…



干してない…か。


そうだよね。そんなにうまく行くわけないもんね。寂しいけどこれでおしまい。
ニンニンT無しです!お疲れ様でした!



さて、帰ろ…ハッ!!



ぜぜぜ前方から歩いてくるあの人!!着てる!?えっ?えぇ??


思わずベランダと前方の人を交互に見てしまう。


ちょ、ちょっと待って!干してないって、まさか着用中!?嘘でしょ!?あの人が部屋の住人!?でもきっとそうだよ。あんな特殊なTシャツを好んで着る人がそう何人もいるはずないもん。
あいつだぁぁぁぁ



どんどんこっちに歩いてくる。そりゃそうだ。この建物に住んでるんだから。
立ち止まってたら怪しくなってしまうから震える足に鞭打って私も歩き出す。不自然にならないように、自然に、自然に。



綺麗な人。女の人かなって思ったけど、近付いたら男の人だって分かった。この人がニンニンTの持ち主だったんだ。



もうすぐすれ違っちゃう。
私があのベランダを観察してたってバレてないかな。怒られたらどうしよう。とにかく目を合わせないように、自然に。


緊張で心臓がありえないくらいバクバクいってる。




あと少し… 来る!




「っ!」




……………


…………………



すれ違った…!すれ違ったよ!良かったぁーなんともなかった!
時間的には一瞬だけど、私にはすっごく長く感じてしまった。





「おい」
「はいぃ!?」



話しかけられた!何何何!?やっぱりバレてたの!?



「落としたぞ」
「えっ…あっ…」



鞄につけてたキーホルダー、取れちゃったんだ。なぜこのタイミングで?ビックリしたよ。


キーホルダーを差し出される。この人の表情から親切心が伝わってくる。それなのに私はあなたの着ているTシャツになんて失礼な態度を。

あれだけ下から見上げていたニンニンTが、今私の目の前で綺麗な男の人に着られている。見れば見るほど変な、いや珍しいTシャツだなぁって。
最後の日に着用姿が見れて良かったよ。



「ありがとうございます、ニンニンさん」
「は?」


あっ つい口が!
自分でも顔が赤くなるのが分かった。涙も出そう。



「すいませんなんでもないです!ごめんなさい!失礼しましたー!」



奪うようにキーホルダーを取って全力で逃げた。
恥ずかしい!初対面なのに!親切にしてもらったのに!もう二度とあそこには近づけない!
一生顔向けできないです。


















今日も大丈夫っぽい。



無礼な不審者に成り下がった私は通報される不安に怯えながら暮らしてます。毎日ニュース番組と新聞をチェックして私っぽい情報が載ってないか調べています。

でもあれからだいぶ日にちが経ってるし、警察の人が私を捜してる様子もないし、案外通報されてないのかな。親切なニンニンTの人。元気にしてるだろうか。


色々考えながら再び新聞に目をおろす。




街で暴れた忍者男、逮捕。




…………この写真の人って…


 

「捕まってるー!!」




やっぱりニンニンTを着る人は変な人なんだ。
そう実感した昼下がりでした。





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