「明日仕が終わったら友達と飲みに行くんだ。楽しみ」と昨日言われた。

家にいないから来るなという事だろう。
ここ数日毎日のように会っていたから変な感じはするが、なまえにもなまえの生活がある。アイツがどこで何をしていようが俺の知ったことではない。


と一日中考えて、日付が変わり、気がつけば深夜。



限界だ。飲みに行くって、友達ってどんな奴だ。まさか男…だが俺が知る限りなまえに男の影はなかったはず…。いや待て、飲んでいて変な輩に目を付けられるということも…


いても立ってもいられず、急いでなまえの住むマンションへ向かってしまった。




窓をそっと明けると、暗い部屋の中に月明かりが差し込んで、床に脱ぎ散らかされた上着が見えた。
一応帰ってきてはいるようだ。


というかあれはなまえがいつも着ているコート。格別に似合っているやつ。床に置いてシワになったらどうするつもりだ。
思わずハンガーにかけなおして寝室へ向かう。


中に入ると服のままベッドで寝ているなまえを見つけた。心なしか楽しそうな顔でぐっすり眠っている。近付くと酒の匂いがした。いつもは石鹸か何かのいい匂いがするのに。そして妙に色っぽい気がする。酒を飲むとこうなるのかと驚いた。


こんななまえは初めて見た。思えば何度も会っているが酒を飲んだ姿は見たことがない。もし二人で飲んだら、酔ったなまえはどんな様子なのか。


寝顔を見ながらそんな事を考えるうち、無意識に頬に手を伸ばしていた。


ゆっくりと撫でると柔らかい感触がして指先からゾクゾクと熱くなる。
手の横にある唇が目に入った。
目の前で無防備に眠っているなまえ。

今なら俺のものに…


「ん…」
ビクゥ!!



咄嗟に手を引っ込めると、同時に寝返りをうたれて頬も唇も壁のほうを向いてしまった。



「…………」



一瞬呆気にとられ、すぐに罪悪感が襲ってきた。
俺は何を考えている。寝ているなまえに手を出していいわけがない。
今日はこれ以上ここにいるのはよそう。

フラフラと寝室を後にして窓へ向かった。









あーよく寝た!昨日は楽しかったなーと大きな伸びをする。
昨日友人と過ごしたことを改めて思い返しながら起きていくと、テーブルに水のペットボトルが置いてあった。


自分で買った記憶はない。帰ってきた時も置いてなかった気がする。となるといつも私の部屋に勝手に入ってくるソニックがやったのかな。

いや、絶対ソニックしかいない。
飲みに行くって話したから気遣って持ってきてくれたんだ。


嬉しい気持ちで胸がいっぱいになりながら、有り難く水を飲んだ。


彼の苦悩は知る由もない。







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