三回目に会ったのは、暗くて肌寒い夜。
俺ほどではないが、やはり速い女だった。
夜の町を駆けながら考える。
弱い奴ばかり相手にしていたから体がなまってきていた所だったのだ。ちょうどいい運動になった。殺せない事もなかったが、あのしょぼくれた女があんなに粘るとは思わなかったし、充分楽しめたので逃がしておいた。
あぁやって必死に抵抗されたほうが気分がいい。
ふと遠くの屋根に人影を見かけた。
黒い人にやられた傷が痛い。
眠ったのか気を失ったのか分からないけど、気が付いたら日は沈んでいて夜になっていた。とりあえず生きてて良かった。あんなに必死になったのは久しぶりだ。
頭のおかしい人。
私が死んでも構わない感じで攻撃してきてた。でも本気じゃなくて、私をからかうような、遊んでる感じだった。あんな変な人に絡まれるなんて本当にツイてない。
屋根の上にあがると夜風が傷にしみた。
でも星空がキレイで、こんな怪我してなければ軽く散歩に行っていただろう。もったいない。それでも眺めているだけで少しだけ疲れが取れてく気がした。
「おい」
「えっ!?」
聞き覚えのある声が後ろから。おそるおそる振り返ったらやっぱり頭のおかしい黒い人が立っていた。
「やはりのろま女か。なぜいつも俺の前に現れる?」
…あなたが勝手に現れるんじゃないですか。
「今は無理ですよ」
「見ればわかる」
「トドメをさしに来たんですか」
「弱い奴に興味はない」
「…………」
じゃあ何しに来たんだろう。せっかくいい気分になってたのに。
「お前、上ばかり見てるな」
「……好きだから」
「!?」
「空を見てるのが」
「………」
「………」
「虹を追っかけてたのは?」
「うっ」
他人に指摘されると恥ずかしい!かなり恥ずかしい!何やってるの私!黒い人はニヤニヤしてるし最低!
「あれは…なんとなく触りたくてです」
「は?届くわけないだろ」
「それでも触りたいんです」
突然黒い人が横に来て、乱暴に私の手首を掴んだと思ったら腕を高く持ち上げられた。
「痛っ」
昨日やられた傷が痛みだす。いきなり何…と持ち上げられた手を見たら月と指が重なって見えた。これ皆既日食のときにやったら指輪みたくなるんだよね。
「遠いぞ」
「遠いですね」
「届かないんですね」
「あぁ」
昨日酷い目に合わされた相手と間の抜けた会話をしながら、二人で空に手を伸ばしてた。
「のろま女」
「なまえです」
「そうか」
「あなたは?」
「音速のソニックだ」
「おん…!?」
どうしようやっぱり関わるのやめようかな。
「里のほうが星はよく見えたな」
「えっ、あ、私の里も。ここより星が綺麗に見えました」
「ここは空を見上げるより下を見おろすほうが見応えがある」
「下?」
「見せてやろう」
「へっ?」
いきなり抱きかかえられる。声をかける暇もなく、高く飛び上がられた。
ソニックさんにこの町の夜景の美しさを教えてもらったり、一緒に修行したり、なんでもない話をしたり、なぜかここから目まぐるしい日常が始まりました。
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