また幼い頃の夢を見た。忍者の修行が嫌で嫌でたまらなかった時、空を見上げたら大きな虹がかかっていて、虹の端っこに触りたくてひたすら追いかけたの。
あの時ほど何かに全力で夢中になって満たされた瞬間はない気がする。


目覚めた後は、捕まってこっぴどく叱られてボコボコにされた事を思い出すから最悪な気分になる。

いつもと変わり映えしない退屈な日常が始まる事に憂鬱さを感じながら布団から這い出た。
今日は雨。



  

私は馴染めない忍の里を飛び出してどうにか契約してくれる人を見つけてほそぼそやってる。


本当は戦うの嫌。怖いし。
のんびり飛んで走って風みたいになる瞬間が好き。
でも働かないと食べていけない。
空中散歩してる時が唯一嫌なこと忘れられる。





もやもや考えていたら、雨だと思っていた空が明るくなってきた。



「あっ 虹」


小さい頃は無理でも現役で忍者やってる今なら届く気がする。


走って走って追いかける。やっぱり届かない。



全力なのに。
また無理なのかと悲しくなりかけた瞬間、私をヒュンと黒い影が追い抜いた。


速い
同業者?誰?

 
目をパチクリさせていると、その黒い人は私のほうを振り返って勝ち誇った顔をした。

まるで「のろま」とでも言いたそうな。

初対面の人にあんに見下されたのは初めてで、とにかく驚いてどうしたらいいかわからない。


抜かし返してやったらカッコいいんだろうけど、そんな気力はないのです。
諦めて足を止めた。


なんなのあの人…


民家の屋根から地上に降りる。せっかくの空中散歩を邪魔されてしまった。今日は歩いて帰ろう。











けっこう速い女がいた。だが俺のほうが速い。
ほらな。俺にかかれば貴様を追い越す事など容易い。

勝ち誇った顔を向けると案の定驚いた顔をしていた。



俺に追い付こうとムキになってくるかと思ったら、ヒョイッと屋根から降りてとぼとぼ歩きだしてしまった。


そうじゃないだろ。そんな反応は期待してない。


せっかく俺の速さを実感したのに気分が悪い。
つまらない女だ。










「うわっすげぇ」
「あー、でかい虹だよなぁ」
「虹もそうだけど、屋根の上に人がいて、虹の下に二人で立ってた」
「誰もいねーじゃん」
「一瞬一瞬。どっちも消えたんだよ」
「マジ?ヒーローかな」








お互いの上に虹があった事なんて知らない。
私の退屈な日常がこの時から少しずつ変わり始める事も。









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