「おい、来たぞ」
偶然なまえのマンションの側を通りかかったから窓から部屋へ侵入する。べつに顔が見たいとか声が聞きたくなったわけではない。断じて違う。絶対に。
「なまえ?」
いない。電気は付いているのに声がしないし姿も…。
一体どこへ?
ふと奥の扉の向こうから水の流れ落ちる音がひっきりなしにしている事に気付いた。
あそこは脱衣所と風呂場。風呂に入っているのか?
………
風呂!!?
音がする扉をバッと凝視する。
今、扉の向こうで、なまえが風呂に…?
なまえの白い肌に石鹸のきめ細かな泡がまとわりついている様子が頭に浮かんだ。たくさん泡立てた石鹸を身体に乗せて丁寧に全身を洗っていくのだ。
「俺は何を考えて…ハッ!」
シャワーの音が止まった。
息を殺して次の展開を待っていると、浴室のドアが開けられ換気扇の音がここまで響いてきた。
ドクンと心臓が跳ねる。
今まさにそこの脱衣所に水滴を滴らせたなまえがいるという事だ。
バスタオルの布が擦れる音が聞こえる。そこの扉の向こうであの華奢な身体を柔らかいバスタオルで包み込み肌の水滴を拭き取るなまえが…
心臓がバクバクと早くなり汗が吹き出る。
このままここにいれば、風呂上がりのなまえと鉢合わせるのだろう。清めた身体に下着を着け、パジャマに着替えて、濡れた髪を拭きながら、頬を火照らし、俺に気がついたなまえは『あっソニック来てたんだぁ』と笑い…
「あっ、やだぁパンツ持ってくるの忘れたー」
!!!?
なん…だと…?
聞き間違いか?今、その、脱衣所から、変な台詞が…
「もー」と不満そうな声を出してドアに近付く気配がする。
下着無しだと!?待てなまえ!俺がここにいるのにっしっ下着を着けずに出てくるつもりか!?
ガタ、とドアに手をかける音がする。
まっ待て待て待て!!なまえ!!!
ガラッとドアが横にスライドした。
「あれー?窓開けてたっけ?」
ガシガシと頭を拭きながら窓へ近付く。こないだ新しく買ったワンピース型の部屋着。可愛くて着てるだけで気分が良くなるから、窓を閉め忘れたなんて些細な事は全然気にならない!
窓の側に立つと吹き込む夜風が涼しくて気持ち良かった。それに空が澄んでて月がとっても綺麗。しばらく窓辺で空を見上げていた。
「ハァッハァッハァッ……なまえ…!」
マンションの窓から死角になる位置で電信柱にもたれ掛かり、乱れた呼吸を整える。
顔が熱い。
心臓が物凄い早さで動いていて、全身から滝のような汗が流れている。
あんなに焦ったのは久しい。
なぜあの場から逃げ出したのか分からないが、とにかく必死に窓から飛び降りていた。
へなへなとその場にしゃがみこむ。
電柱の影に隠れながらなまえの部屋の窓に顔を向けると、窓辺でのんきに月を眺めているなまえが見えた。
なまえめ…よくもこの音速のソニックに恥を…
睨みつけると、まだ濡れている髪が風に揺れている姿に目を奪われた。月を見上げる視線が色っぽい。口から吐き出した息がほんのり白くて唾を飲んだ。
恥を……
「覚えていろおおお!!」
「? 今ソニックの声がしたような…あっパンツはかなきゃ」
月明かりを背にひたすら走った。
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