仕事終わりに友達と待ち合わせをしていたのに、待ちぼうけを食らってる。
来ないし、手袋忘れたから余計に寒いし、一人で外に立ってたら町の華やかなイルミネーションとそれを見てる仲良しさん達が楽しそうで悲しくなってきた。



「おい」
「?」


聞き慣れた声。振り向いたらいきなり缶を放り投げられた。


「えっ?わわわっ 熱っ!」


どうにかキャッチできたけど冷えきった手に温かい缶は熱い。


「もうっ!いきなり何するの!ソニック!」
「こんな町の中に一人か。寂しい女だ」


あんたも一人でしょう、とはあえて言わなかった。
いつから私が待ちぼうけしてるのに気付いたんろう。飲み物を奢ってくれるなんてけっこう優しい。


「いきなり投げないでよ。私運動神経悪いんだから」



私の文句は無視して、缶をあけて口に含んでいた。
流し込む喉が少し色っぽいような。やっぱり嘘。ソニックに見とれるなんて、なんか悔しい。飲んでる姿は普通です!


せっかく貰ったんだから冷めないうちに私も飲もうと思って気付いた。これココア?
横見たらソニックもココア。
てっきりコーヒーかと思ってた。ココアかぁ。珍し…


「ソニック、コーヒー飲めないの?」
「なっ!!」


急に血相かかえて…まさか図星…


「お前に合わせてやったんだ!!」
「私は飲めるもん。砂糖もミルク無しでもいけるよ。」
「フ…フン。そんな強がりを…」
「飲めます。あぁーでもコーヒー苦いよねぇー飲みにくいよねーココアのほうが美味しいよねー」
「だから… !」
「べつにいいじゃない。ココアだって… 」


はた、と気付いてしまった。
白熱してるうちにいつのまにか、顔のキョリ、近い。




ふいにソニックの唇が触れた。一瞬のキス。

本当に一瞬だった?そこだけ時間が切り取られたようで、私は本当にこの世界にいたのか覚えていなくて、記憶が曖昧で。



「今の………」
「なまえ」

「今の!!? ちょっとこんな所でいきなりっ」


ソニックがチラリと目線を横にする。私もソニックと同じ方向を見ると、周りの人達はイルミネーションに夢中で私とソニックの事なんて全く気付いてない…けどそういう問題じゃなくって!






「…甘い」


私がポツリと呟いた言葉に「悪かった」と返された。


「甘いのも好きだから、いい」
「そうか」



なんだよその真剣な顔。
ソニックの事、嫌じゃない。こうやって喋らない時間も心地良くて…







「なまえー!待たせてごめん!!」


ビクッと体が飛び跳ねる。
そうだ!私友達と待ち合わせしてたんだ!


「ねー、誰かと話してなかった?」
「や、えっと…その…」


あああソニックの事をなんて説明すれば!
戸惑いながら振り返ったら彼の姿は消えていた。



「いなくなっちゃった」



速い。いつも音速音速言ってるのは本当らしい。
ココア飲むの忘れてた。でも体は温まっている。




「結局誰だったの?」
「ええと、ヒーローみたいな人」










屋上の柵に頬杖をついて溜め息をついた。


まだ唇の感触を覚えている。
甘いのも好きだからいいと言われた瞬間を何度も頭の中でリピートする。


キラキラした町の中に歩いていくなまえを見届けながら、少しぬるくなった残りのココアを飲み干した。








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