崩壊


「ぐっ!」
 呻き声と共に落ちた、唾。それに気をよくした男はさらにその白い服に包まれた腹を蹴った。
 強く。何度も。
「げほっ、かはっ、」
 もはや声にすらならない悲鳴が晴賢から溢れる。ドン、一層強く足の先が腹にめり込み、晴賢は嘔吐いた。
「無様、ですね」
 すっと男が離れると、そこに吐瀉物が流れた。地面に突っ伏し、ぜえぜえと荒い息を吐きながら晴賢が睨み上げる。しかしその腕は縄に縛られ、さらに先刻痺れ薬を盛られているので、起き上がることすらままならない。
「ひと月は待ちましたよ。いくら同志の振りをしたって、貴方はすぐにそこまで信用しないと思いまして。まあ、ひと月もあれば充分だったわけですが」
 男は微笑みながら晴賢の頭を勢いよく踏みつけた。派手な音が立つが一切気に留める様子は無い。
「こうして貴方を好きに出来るのならそのくらい安いものです」
 ぐりぐりと踵を抉り込ませるようにして踏みにじると、晴賢の整えられた黒い髪が乱れた。
「何か言ってはどうです?」
 足を浮かし、地面につけてから、思い切り額を蹴り飛ばして仰向けにさせる。後頭部を地面に打ちつける晴賢だが所詮は土、衝撃が吸収されて大事に至ることはない。
 濁った、しかし血走った目が男を睨む。
「……何が目的だ。私から搾り取れるものなど何もないと、ひと月の間によく分かっただろう」
「領地や家になんて興味はありませんよ、晴賢殿」
 ただ、と男が笑う。
「見蕩れただけですよ」
 男は口角をつり上げながら、手にしていた刀を抜いた。ぐっと歯を食いしばった晴賢に微笑みかけながら、縛る縄を切ってしまわぬように注意して服を切り刻む。あらかた切り終えると刀を投げ捨て、手で裂いた。白く包まれていた肌が殆ど露になる。
「貴、様……!」
 憎悪と殺意を惜しまずに注いでくる晴賢を無視して、男は鞘だけを拾い上げた。
「さ、楽しみましょうか、坊ちゃん」
 何をする気だ――言葉を噛み殺して晴賢は男の動作を観察する。すると男は晴賢の膝を抱え、その中心に鐺を宛てがった。途端に全てを理解し、何よりも恐怖が晴賢の中に込み上げる。
「く、この! 止めろ!」
 足を動かして撥ね除けたいのだが、生憎身体は主人の命令を聞いてはくれない。
「あー、流石に太すぎですかねぇ」
 コツコツと排泄口に鐺を当てながら男がぼやく。――当たり前だ! 罵りたい晴賢ではあったが、今は下手に刺激するべきではないと本能が警鐘を鳴らしている。
「仕方ない」
 諦めたか、と若干の希望を持って晴賢が顔を上げようとしたのもつかの間。
「――自分ので抉じ開ければいいだけですね」
「な、う、むっ!?」
 何か言おうとした晴賢の口に男の逸物が捩じ込まれる。前髪を掴みながら腰を突き出しては、喉の奥に遠慮なく突き刺されるそれに再び吐き気が起こる。勿論、男が知ったことではない。
 いっそ歯を立ててしまおうか、とも晴賢は思ったが、苦しくてそれどころではない。
 やっと逸物が抜かれたとき、晴賢は胃液だけを吐き出した。
 瞳に涙が薄い膜を作る。
「ハハ、いい顔ですねぇ」
 男はもう一度移動し、晴賢の足を開かせ、腰を掴んで自らの方に引き寄せた。麻痺した胴体は人形のように従う。止めろ、嫌だ、止めてくれ。晴賢がそう願ったところで、どこにも届かない。
「一気に行きますからね。力抜かないと怪我しますよ」
 先端が菊に触れる。晴賢は首を振ろうとした。
「む、無理に決まっているだろ――ぐ、あああああああああっ!」
 透明なものと、赤いものと。二種類の水滴が身体の上下からそれぞれ落ちる。
 動かない身体を今の限界まで仰け反らせ、晴賢は口を何度も開け閉めした。声が出ない。呼吸すらも出来ない。白目を向いてしまいそうな衝撃が晴賢を貫いている。
「あれ、晴賢殿? 大丈夫ですか?」
 わざとらしく明るい声で尋ねながら男は腰を引き、再度自分の全てを突き入れる。数度繰り返すとその度にガクガクと力の抜けた四肢が揺れた。
「……う……」
「ああ、よかった。気を失ってはいなかったんですね。そうでなければ」
 男は腰を抱え直し、密着するように覆い被さりながら逸物を激しく晴賢の内蔵に突き刺した。言葉にならない呻きを上げる晴賢になどなど一切気を遣わず、ただただ腰を前後させる。
 パンパンと骨盤のぶつかる音と、ぐちゅりぐちゅりと、裂けた内部から流れる血が男と混ざって鳴らす音を、痛みに魘された頭で晴賢は聞いていた。
「……おっと」
 体内で熱が膨らむ。同じ男だ、放出されたものが何か分からないわけはない。注ぎ込まれる発芽しない種を晴賢は黙って受け入れた。抗議する気力などどこにも存在しない。
 ずるりと意外な程呆気なく男は出て行った。足を広げたまま投げ出し、晴賢はふうと息を吐く。涙が筋を作って、地面に染みた。
「何、終わったような顔してるんです?」
 前髪を掴んで無理矢理顔を上げさせ、男はその表情の消えた顔を覗き込んだ。理解が追いついていないようで、晴賢はぼんやりと男を見ている。男は、微笑みながら晴賢に鞘を見せた。
「……あ……」
 晴賢の目が白黒と点滅する。開ききったその目を見つめ、男は満足げに笑った。
「本題はこっちですよ」
「待……て……」
 頼むから、止めてくれ――。
 願いも涙も虚しく、男は笑顔のまま、鐺で門を抉じ開けた。
「ぐっ」
 歯を強く噛んだ晴賢を見据えた男は、先端程度なら平気か、と鞘を左右に何度か半回転させながら考える。傷を抉られた肉壁が新しい血を吐き出した。
「限界まで頑張って下さいね」
 今度はゆっくりと、少しずつ飲み込ませる。だが晴賢にとって激しい苦痛であることに変わりはない。
「ひぎ、ぃ、ああああ」
 金切り声にも近い音が絶えず晴賢の口から発せられる。
 先程男が入り込んでいたところを少し過ぎたあたりまで挿入したところで、男は一度押し込むのを止めた。代わりにぐるぐると回転させ、晴賢の様子を伺う。つま先までをピンと伸ばし、股は限度まで開いて、表情は仰け反っているせいで顎に邪魔され確認出来ない。
「もう少しいきましょうか」
 鞘を捻りながら、男はさらに押し込んだ。徐々に太くなる鞘が晴賢の直腸を満たしていく。薬の効果が薄れ、少しだけ動くようになった足をばたつかせながら、晴賢は首を左右に振った。
「……ふふ」
 男は満足げに笑い、鞘を引き抜き始めた。晴賢の顔に希望が灯る。――だが、これで終わるはずもない。
「うぐぁっ!?」
 赤く染まった鞘を挿入していた半ばまで引き抜くと、男はもう一度それを突き立てた。それも何度も、ぐりぐりと抉るように回しながら。
「……あ」
 男が軽く声を上げた。先程飲み込んでいた場所よりもさらに奥へ踏み込んでしまい、一層太い部分が晴賢の身を裂いた。かくりと晴賢の首が垂れる。目は開いているが、意識はない。
「こんなに早く壊すつもりはなかったのですがねぇ」
 男は鞘を全て抜き、晴賢の全身を見下ろした。呼吸以外で動かない身体の上に濡れた鞘を放り投げる。
「またお逢い出来たら、楽しみましょう。貴方が生きて帰れたら、ですが」
 せめてもの情けにと縄を切ってやり、男はそのまま姿を消した。
「……――」
 晴賢の唇が僅かに動いたが、音は出なかった。




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