七月某日のエトセトラ | ナノ

七月某日のエトセトラ


 宗茂がそこを訪れたとき、既に日は傾いていたが、隠居屋敷は妙に騒がしかった。
 普段ならば訪問を拒むはずの隆景も出てこない。勿論門番など他の人間は見かけたが、むしろ歓迎して通された。
 騒動は広間から起きているようだった。疲れ切った顔の隆景が出てきたが、宗茂を見るなり眉を上げて何か言おうとしたが、やがて溜め息を吐いた。
「……何があったのです?」
「宗茂殿、今回ほど貴方を有り難いと思ったことはありません」
「それは光栄ですが、だから何が起きて」
 宗茂の言葉を遮るように、隆景は開け放たれた障子の向こうを顎で示した。宗茂は目でそれを追う。
 珍しく酒を呷る元就と、それを止めようとする家族や家臣。元就の周囲にはもうかなり呑んだのであろう残骸が転がっていた。
「また随分と荒れておられますね」
「……小規模な一揆がございまして」
「一揆?」
「宗家が直接管理している場所ではなかったのですが、父上は民の不満が募っていたことに対して落ち込まれてしまい、あの様子です」
 室内から隆景を呼ぶ声がする。隆景は少しだけ疲れた顔を見せ、道連れとばかりに宗茂を招いた。
「父上、宗茂殿がお見えになりましたが」
「宗茂?」
 嬉しそうに声を弾ませた元就よりも早く、元春が駆け寄って宗茂の両肩を掴んだ。
「よく来たな!」
 後は任せた、と顔に書いてある。
 そんな元春を押しのけて、元就は立ち尽くしていた宗茂に抱きついた。
「宗茂!」
 怪しい呂律で、しかし愛おしそうに元就は呼ぶ。決して人前では見せない行動に内心驚いた宗茂だったが、それよりも異様だったのは周りの何ともしていない反応だった。当たり前のことであるかのように皆見ている。
 思い当たる理由は一つ。
「元就公、飲み過ぎでは?」
「ええ、そんなことないよ」
 元就はそう言うが、傍らの両川は「もっと言ってやれ」というような目で宗茂を見ている。
 堪え切れずに隆景が口を出した。
「父上、そろそろお止めになって下さい。いつも禁酒せよと仰っているのは父上の方ではありませぬか」
「んー……うるさい」
 元就は手にしていた徳利を隆景の口に突っ込み、殆ど残っていた酒を無理矢理流し込んだ。むう、とだの何だのと悲鳴を上げ損ねた隆景は成されるままに飲み干してしまう。若干青ざめた元春を、宗茂は横目にする。
「隆景!」
 ふらりと倒れそうになる隆景を元春が受け止めた。どうやら酒にはかなり弱いらしい。
 ふと宗茂が目線を部屋の奥に寄せると、同じようにして無理矢理呑まされたのだろう、赤い顔の長男が晴賢――厳島の合戦後、毛利に属していたのだった――に絡んでいるのが見えた。
 ああ、面倒そうだな――。
 他人事と思いながら宗茂は元就を強く抱き締めた。



 何とか元就を酒から引き剥がし、寝室まで連れてきた宗茂はにこにこと笑いながら元就の頭を撫でた。
「不貞腐れたにしても、いくら呑んだんですか」
「そんなに呑んでないよ……」
 宗茂の記憶では、元就は日頃禁酒を誓っているだけで然程弱かったわけではない。それこそ、口にしただけで回ってしまうような三男となどは比べるまでもない。
 それが今はくたりと力を抜いて宗茂の膝上に抱かれている。場所を変え、油断したせいもあるのかもしれない。相手が自分でなければこのような顔を見せたのだろうか、と宗茂は少々都合の良い方向に考える。
 元就の手が宗茂の頬をぺしゃりと叩いた。
「君は熱いねえ……」
「貴方の手の方が熱いですよ」
「そうかなぁ」
 お互いの胸板が擦れ合うほどの距離で囁く。意識か無意識にか、元就はより密着するように足を開き、宗茂の背に腕を回していた。
「そんなに近付かれると、別のところが熱くなってしまいます」
 にやりと口角を上げながら宗茂は元就の耳に吹き込んだ。元就はきょとんと目を丸くして、少し考えるように首をひねってから、眉を下げて笑った。
「そうなってしまったら責任を取らなくちゃいけないね」
「は――……」
 どうやら元就公は本当に酔っておられだ――宗茂は今更のように思い返した。平常ならばここまで積極的ではない。
 ならば今が好機、と考えてこその宗茂だ。餓鬼ではないが、据え膳を無視出来るほど大人ではない。
「では、そうして頂けますか?」
 元就の腰に手を回し、己の腰と触れるように引き寄せる。元就の足までもが宗茂の背に回り、股間同士さえ触れ合ってしまう。
「……熱いね」
 言葉通り、熱い吐息が洩れた。酒臭かった。
「元就公――」
 どうせ酔っているのだし、と宗茂があることを頼んでみると、元就は意外な程快く了承した。
 ――そして、今、元就は宗茂の性器を口の中に迎え入れている。
 元就はあまり口淫を好まない。機嫌がいいときくらいは舌で弄ぶこともあるが、精々その程度だ。理由を尋ねると、君のは顎が疲れるんだよ、と眉を垂れて俯いていた。
 酒はいいものだな、と宗茂は声にせず笑う。
 根元までとはいかないが、幹の半分くらいまでを呑み込み、元就は苦し気に涙を薄く浮かべた。それでも口内では舌を動かし本体を撫で、唇で根を扱く。それに疲れたら口を離し、舌だけで愛撫して、また口を開いた。
「ん……」
 鼻から抜ける息。亀頭までを銜えた元就は上目遣いに宗茂を見上げた。手を使わない、という条件をつけていたので両手が随分と暇そうだ。
「そのまま、ご自分で致して頂けませんか?」
 宗茂は女性受けのいい顔でにこりと微笑んだ。元就は驚いたような恥ずかしがっているような表情をしたが、四つん這いの体勢を崩さずに右手を自分の下腹部に伸ばした。
 どうやら今日は本当に快く承諾してくれるらしい。
「はっ……」
 赤い舌がちろりと覗く。顎を伝う唾液は淫焼けした剣に落ちた。
 初めは遠慮がちだった手は既に迷う事なく自分の雄を磨いている。先走りが溢れているのか、時折くつ、と音が鳴った。
 宗茂は余裕をもってその光景を見下ろした。
 別の男を銜えながら自らを以て愛撫し、唇も右手も同じように上下させ、酒と羞恥で赤くなった顔をこれまで何度も肉欲で繋がった相手に向けている。
 とろり、元就の先から少し白いものの混じった粘液が流れた。
「……元就公、こちらへ」
 手で誘導し、宗茂は元就をもう一度自分の膝に股がらせる。しかし今は、互いに服を一切着用していない。これが何を意味するか分からぬ元就ではない。
 宗茂の首を抱き締め、宗茂の指に門が解されるのを待った。暫く掻き回されていたかと思えば、二の指でぐいと門を広げられる。その隙間を切っ先が縫った。
「あっ……」
 元就が声を洩らす。だが、宗茂がしたのはそこまでだった。恨めし気に見下ろす元就に向かって宗茂はいつも通りの笑顔で応えた。
「もう、今日は随分と……無茶を言うね……っ」
 いくらか冴えてきた頭で元就は言う。
 それでも、ここまでしたのだからとことん甘やかしてやろう、という気が起きたのかどうか、顔を宗茂の肩に埋めると、ぐっと自分から腰を下ろした。
「あ、ああああっ」
 仰け反る喉仏。
 ぜえはあと呼吸を繰り返しながら元就は宗茂にしがみついた。先程まで元就が熱心に口淫していたせいで幹はやけにぬるついている。
 宗茂はまだ微笑んでいた。元就の目にちらりと火が灯る。隠居ではなく、策士の色だ。
「……さて、酔いは覚めてきたが……どうも最後まで何もしてくれないようだね?」
「分かりますか?」
「はあ……今日だけだよ?」
 口付けを交わす。元就の舌から自分の性器の味を知るとは妙な気分だ、と宗茂は珍しくぼんやりと考えた。
 舌を絡めたまま、元就はねちねちと腰を動かし始めた。喘ぎも何も二人の唾液に溶けていく。
 上手く自分の欲しいところへ宗茂を導き、鍛えられた腹に矢を擦り付ける姿はまるで、他人を使った自慰のようで――先に酔いしれたのはどちらか、もう分かったものではない。
 熱の持った身体を混ぜ合わせるように抱き合い、舌を吸い合い、体液を絡ませ合う。
 宗茂の腹に白い液体が飛び散った。震え、それでも唇は離さず、別のところではむしろ宗茂を締め付けて離さない元就の身体を、ぎゅうと抱き締める。
 やっと、舌が離れた。銀色の糸が落ちた。
「まだ解放しませんよ?」
 頭に低い声が響き、元就の頭はやっと覚醒した。



 たった徳利一つ分の酒といえども、侮ることは出来ない――元春は今それを痛感していた。なんとか隆景を別室まで運んだはいいが、服を掴んで離れない。完全に酔ってしまっているのだ。
「あーもう、何処にもいかねえって」
 そう言い聞かせるのだが、隆景は元春に寄り添って捕まえたままだ。
 元春は諦めて腰を落ち着けた。
「本ッ当に弱いのな、お前」
「……」
 斜になった隆景は蕩けた瞳で元春を見上げるだけだ。くるくると遊ぶ髪を元春が撫でる。
「変な顔してるぜ」
 にやにやと笑う元春は、これを素の隆景に見せてやったらどんな反応をするだろう、などと思っている。
 隆景はそんな元春をじっと見つめていたかと思うと、ふにゃりと子供のように微笑んだ。
「兄上は、いつでも格好いいですねぇ」
 隆景が酔っているのは、分かっている。誰の目にも明らかだ。だが元春は単純に喜んだ。
「えらく可愛いことを言ってくれるじゃねぇか」
 隆景の頭を抱き締め、わしゃわしゃと髪を掻き撫でる。素面であれば拒否され、あるいは一発頬に食らうところだ。より好きなのはどちらかと言うと隆景の方であるのに、どうもその対象である兄にさえ素直ではない。
 着物すらもまともに着ようとしない元春は、すっかり癖になったのか今も片乳を出している。無遠慮に頭を抱かれた隆景のちょうど目の前に、薄桃色の丸みが見えた。――ふっと欲しくなって、隆景はそれにかぶりついた。
「うおっ!?」
 我ながら色気皆無の悲鳴だとは思ったが、元春はただ純粋に驚いた。突然乳首に食らいつかれては堪らない。引き剥がそうと下を向くと、隆景は酒に蕩けた瞳のまま突起を舐めたり銜えたりしていた。
「あ、あのなあ……」
 日頃から、服を着て下さいと隆景に叱られている元春だったが、その理由はこれかとやっと気付く。気になっていたのはそういう意味でも、らしい。
 特に感じるほどではないが、どうにもくすぐったい。
「止めろ」
 腕を解き、押しのけようとする。だが隆景はその力に逆らおうとする。元春は呆れた。
「男の胸の何がいいんだよ……」
 ぴちゃぴちゃと音を立てながら舐める様は犬のようだ。
 元春も、酔っているのだし、と止めさせることは諦め、仕方なくまた隆景の頭を撫でた。
 隆景が満足げに顔を上げる。
「美味しいですよ?」
 ――小首を傾げられても、知らんし意味が分からん。
 元々男に興味があったわけでもない元春には、時々隆景が理解出来なくなる。
 そろそろ面倒に思い、片膝を立てて隆景との間を空けようとしたが、隆景がその膝を乗り越えようとする。そこまでしたいか、と元春は眉を顰める。だが不意に隆景の肩がぴくりと跳ね、不信に思った。
「どうし――」
 その理由はすぐに分かる。膝が、股間を擦ったのだ。隆景は酒に酔った顔をさらに赤くし、元春に寄りかかった。ぐりぐりと膝へ熱を持ち始めた屹立を押し付ける。
「おい、っ」
 節制させようと声を上げた元春だが、再度胸の紅を口で摘まれ、たじろいだ。ついでとばかりに隆景の手が残っていた上半身のさらに片側へ引っかかっていた服をずらす。そして今度は露になったもう片方へと唇を移した。その間も元春の膝で自分の昂りを扱くように腰を擦る。
「……服、汚れんぞ」
 兄としてのまともな忠告も耳に入らないようだ。隆景は知ったことか、という風に微笑み、元春の瞳を覗き込んだ。
「――兄上」
 整った顔立ちで、隆景は、熱の籠った音を奏でる。
「ああ、兄上……」
 腰の動きが一層わざとらしく、激しくなった。
 元春とて、家族としての贔屓目を抜いても美しいと思える隆景の虚ろな痴態に何も感じないわけではないが、未だに直接的な刺激がなければ隆景にも反応することはあまりない。
 はあはあと短い呼吸を繰り返して腰を前後させ、舌で元春の乳首をつつく。酔っているとはいえ――ああ、これは明日も覚えているだろうな、と、元春は過去の経験からして思った。
「兄上っ」
 一際大きく名前を呼んだかと思うと、隆景はびくびくと身体を痙攣させた。じわり。服に染みが広がる。
「だから言ったろ……」
 力尽きたように自分へ寄りかかる隆景の頭を撫でながら元春は溜め息を吐く。
「人の身体で自慰すんな」
 ぺしゃりと額を叩くと、隆景は瞬きを繰り返しながら若干光の戻った目を元春に向けた。どうやら漸く酔いから覚醒してきたらしい。――が、すぐにかくんと糸が切れたように項垂れた。寝息が聞こえる。
「……明日どうなっても知らねえぞ」
 酔っても記憶を飛ばすことはあまりない隆景のことだ、翌朝真っ赤な顔で頭を下げるだろう。元春は想像し、また面倒なことになるだろうな、と既に眠った隆景の頭を撫でた。



 広間にぽつりと残された晴賢は、酔った隆元の相手に追われていた。気が付くと家臣も逃げたのか誰一人として居ない。
 ――随分と自分も信頼されていることだ。
 かつて厳島の地で戦った敵軍の大将を処断せず、毛利に加えたのは隆元だった。以来晴賢は毛利の下で絆され、今では隆元と二人きりになることすら出来るほどに信用を得た。それを悪いことだとは、晴賢は思っていない。
だが――取り敢えず今は、後悔している。
「酒臭い」
 隆元が絡み酒だとは知らなかったからだ。
 先程までここに居た元就に酒を無理矢理呑まされた隆元は、案の定酔っぱらい、それからずっと晴賢にぐちぐちと絡んでいる。
 同じような状況にあった隆景は元春が手慣れた様子で連れ出したが、それは隆景が極端に弱かったから出来たことだ。
「……晴賢殿、聞いてますか?」
 普段より饒舌になった隆元が前髪越しに睨んでくるのが分かる。
「聞いてはいるが。さっきから同じ話ばかりだぞ」
「それは、晴賢殿が上の空だからじゃないですか……」
 どうせ延々と自虐しているだけだと知っているのだから、実際のところ晴賢は殆どを聞き流していた。
 この様子だと毛利の家臣も帰ってはこないだろう。面倒なものを押し付けられた、と心底思う。
「というか貴様。まともに喋れるではないか」
 晴賢が睨み返してやると、隆元は首を傾げた。普段はどもっている癖に、と晴賢は言いたかったのだが、どうやら今の隆元には空気を読む能力もあまりないらしい。――読むつもりがないのかもしれないが。
「毛利の当主に向かって貴様、ですか」
 隆元は落ち着いた声で言い、笑った。いつもなら気にも留めない部分だ。表情は見えないが妙に威圧感がある。
「……な、何だ。何を今更」
「いえ、晴賢殿は一度も私に向けて態度を改めて下さったことがありませんね、と」
 思っただけですよ――と隆元がわらう。
 不味い。
 晴賢は本能で得体の知れない恐怖を悟った。歯を食いしばり、何通りもの対策を考え出す。どれも酔っぱらいには焼け石に水でしかなさそうだったが、それでもこのままは、不味い。
「……なら、ご無礼をお許し下さい隆元様――とでも言えばいいと?」
 固い自尊心が引き攣った笑顔を作らせる。隆元は顔を前髪の触れる距離まで近付けた。隙間から見えた猫のような目は飢えているようにも見える。
「ふ、不満ならばそう言えばいいだろう!」
「いえ? ……それもいいなあ、って」
 晴賢は今更、隆元が謀神の息子であることを思い出した。
「別に、立場を変えてしまおうなんて思いませんけど、たまには私を敬ってくれてもいいんじゃないですか?」
「敬えと言われてもだな」
 無茶を言う――と晴賢は思うのだが、今の隆元に口答えするとどうも後が面倒そうだ。
「ええい、仕方のない……。具体的にどうしろと言うのだ」
 待ってましたというように隆元が笑った。にこり。今は、その表情さえもはっきりと見える。
「私の好きにされて下さい」
 鼓膜に直接吹き込まれる言葉は、晴賢にとっては魅惑的でも何でもない。
「は……はあ!?」
 ああ――ろくでもないことに巻き込まれた。
 晴賢が本気で後悔するのはもう少し後のことである。
 隆元の顔がさらに近付いた、かと思えば、耳殻に吐息がかかる。反射的に跳ねた肩を面白がるように、今度は舌を這わせる。
「くっ」
 ぴちゃりと音が立ち、晴賢は呻いた。それを良いことに隆元は耳朶を食み、それから耳の奥へと舌を侵入させる。
「ん……くぅ……」
 ぴちゃり、ぴちゃり。舌は楽し気に舐め回す。いい加減にしろ、と晴賢が言い出そうとしたところで丁度、止んだ。
 赤い顔に向けて隆元は笑う。
「起ってますね」
 隆元の膝が、若干硬くなった晴賢に触れる。普段とはまるで性格が違う。こいつは酔わせるべきではない、と晴賢が思うがもう遅い。
「耳は苦手ですか?」
 そうして隆元は再び耳朶を食み、または舐め回す。ぺろり、恍惚とした表情で舌を這わす。う、と吐息が洩れた。それは肯定を示してもいる。
「い、いい加減にしろ!」
「い、や、です」
「この……!」
「止めて欲しいのなら」
 隆元がにっと笑う。そして再び直接吹き込んだ。
「――ねえ、晴賢殿。私に自慰を見せてくれませんか?」
「は……」
 眉を顰め、信じられないと叫ぼうとした晴賢の首に手がかかる。親指で喉元をくっと押され、晴賢は息を呑んだ。
「聞いて頂けませんか?」
 悦に入っていた瞳が光る。晴賢は寒気すら覚えた。
「……分かったから手を離せ」
 渋々承諾、なんてものではない。晴賢は若干目に涙を浮かべながら自分の槍を着物の隙間から取り出した。磨くうちに硬くなっていくそれを隆元は少し離れて満足げに眺めている。
 隆元は陶然という言葉を思い出していた。
 決して目を合わせようとしないまま、暫く耽っていた晴賢は、声を上げずに吐精した。
 飛び散った白い体液を隆元の白い手が掬い上げる。
「服、汚れましたね」
「……誰のせいだと思っている!」
 顔を真っ赤にする晴賢に向かって、隆元は笑い、耳元にそっと口付けた。



「……き、昨日のこと、ですか?」
「そうだ!」
「な、何も……というか、頭が痛い、んですが……私は……」
 朝から聞こえる、怒声と説教。
「申し訳ありませんでした!」
「あー、いいからいいから。取り敢えず頭上げろって」
「今顔をお見せする事は出来ません……!」
 謝罪と羞恥の籠った拒否。
 騒がしさに身を委ねながら、元就は、再び禁酒を誓うのだった。




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