毛利家2


 海辺ではしゃいでいる弟達を少し離れた位置から眺め、隆元はくすりと微笑んだ。
 次郎もまだ元服前、三男の徳寿丸に至っては隆元の半分の年齢だ。幼い。だが、自分よりは才能があるだろう、と隆元は思っている。次郎は元服前に無理矢理初陣を果たし、徳寿も幼くして兵法を嗜むような子供だ。――自分よりも。普段劣等感に苛まれる隆元を弟達は知らない。
 しかし今はそれも忘れ、水を掛け合って遊ぶ二人を親のような気持ちで見ていた。
「わっ!」
 波に足をとられ、徳寿が水の中に転んでしまった。水と砂でドロドロになった徳寿を次郎が抱き上げる。もう徳寿も大きくなっているが、それを易々と抱き上げるほど次郎の力は強い。
「あー、大分濡れたな。ま、元々濡れてたしいいだろ」
「しかし、こんなに汚れてしまったら、母上に叱られますね……」
「そのときは俺も一緒に謝ってやるよ」
 濡れた徳寿の髪を次郎がわしわしと乱暴に撫でる。徳寿は嫌そうに首を振った。
「そもそも兄上が押すからではありませんか……」
「あれくらいで倒れる方が悪いだろー」
 途端にむっとする顔になる徳寿。隆元はぱたぱたと二人に近寄り、屈んで徳寿と視線を合わせた。
「大丈夫? そ、そろそろ帰りましょうか。風邪をひいてしまうし……」
 自分の弟にまで怖ず怖ずと声をかける長男を見て、弟二人は視線で合図を送った。次郎が漸く徳寿を下ろす。もう一度顔を見合わせ、二人は隆元の背に腕を回し、――海の方へと押し込んだ。
「はわっ!?」
 隆元はそのまま波打ち際へ頭から突っ伏してしまう。後ろで二人が笑っていた。
「こういう日くらい楽しめよ、兄貴」
 呆然と見上げる隆元の前で、次郎は白い歯を見せた。徳寿も黙って頷く。
 ――ああ、気を遣ってくれているんだな。
 隆元はゆっくりと立ち上がった。衣が水を吸って重い。
「ああもう、いっそ脱ぐか? そのうち乾くだろうし」
「……脱ごうとする前に水をかけたのも兄上でございますが」
「お前はいちいち細かいんだよ」
 次郎がまた徳寿の髪を無造作に撫で回す。徳寿はもう諦めたように次郎を見上げていた。
「……遊びましょうか」
 隆元がにこりと笑った。
 日はまだ高く、日差しも、強い。




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