大戦SS
SS武吉×R口羽
ふっと磯の香りがする。
こんなところでも住む場所が違うのだと思い知らされる。
「どうした、坊ちゃん」
戸の傍で煙管を吸っていた武吉が訝しげに見遣る。通良は傍の眼鏡を手に取ってかけ、ゆっくりと首を振った。
「いえ、何でもありませんよ」
丁寧に切り揃えられた髪がぱさりと揺れる。ふうと紫煙を吐いて武吉は嗤った。
「えらく物欲しそうな顔だぜ」
「何を言っているのですか、貴方は」
壁に吸い込まれる煙を見届けながら通良は心底軽蔑したという風に眉を顰める。身の重さが通良の不機嫌を助長する。
「眠らないのですか」
それでも通良はつとめて冷静に言葉を紡いだ。気怠い空気が部屋に満ちている。
武吉は煙管の灰を落とすと、布団に座っていた通良の傍にきて腰掛けた。
「そう急かすんじゃねえよ。歳取ると何やるのも億劫でいけねえ」
「……先程までのご自分を思い出して頂きたい」
「相変わらずご機嫌斜めだな、坊ちゃん」
細い身体に肉付きのいい腕が回される。通良は一瞬眉を顰めたが、背中から抱く腕に手を添わせた。
凭れ掛かると、煙に混じって磯の香りが漂った。
「臭いですよ、貴方」
服の隙間から侵入しようとする手を牽制するよう、ばっさりと切り捨てる。相手は海に住む男なのだと、気付かないように目を瞑る。
「酷ぇ言い草だ」
夜の帳が降りる中、陸と海は静かにその線を交える。
遠くには確かに潮の音が聞こえていた。
2013/11/17
記事一覧へ