吐溜 | ナノ

お慕いSS 4

ざっくり三十二話ネタバレ。玄←徹前提の清玄と一。

 冷たい頬に指で触れる。
「知っていた時間は、俺の方が長かったんだが」
 彼の兄がぽつりと語る。他には何も聞こえない。
「徹は最期まで君を選んだ……んだろうな」
「……そうですか」
 もう涙は浮かびもしない。彼の前で泣くわけにはいかない。
「君が好きだったんだ」
「……言って、怒られませんか」
「もう怒る奴はいないさ。あいつは死ぬまで明かさないつもりだったろうけど、死んだらもう言っていいだろう?」
「そうですかね……」
 互いに、言葉に力が篭もらない。明るく振る舞ってはいるが、この人だって辛いはずだ。もしかすると、俺よりも。
 それでも俺に伝えたいことがあるのだ。
「私に、何が出来るんでしょうか。貴方は何をして欲しいんですか」
「別に。何もないさ。君が思うままにすればいい」
 赤い目元で笑い、その人は出て行った。後には自分と友だけが残る。
「……そうか。お前の中には、変わらないものがあったんだな」
 閉じた瞼を指でなぞり、その手で頭を少し持ち上げた。
「黙っていてくれてよかった。お前を拒むことがなくて、よかった」
 それでも、この身体が残っているうちに、何かを返しておかなければと思う。
 唇は冷えていた。温度は何も感じなかった。
 棺の蓋を閉じた。

2014/02/23


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