吐溜 | ナノ

お慕いSS 3

徹×♀キヨハル

 小さな頃から一緒だった。
 あまりにも長い時間一緒にいたから、相手に恋するより先にそれ以上大事なものになってしまった。
 例えば休日、どんな格好で逢ったとしても徹は気に留めないだろう。勿論あまりに突飛な姿をしていれば眉を顰めるだろうが、精一杯着飾ったところで褒めてもくれない。
 背中まで伸びるこの髪をある日ばっさり切ってしまえば少しは驚くだろうか。そんなことを考えながら信号の変わるのを待っている。
 周囲からは付き合っているものだとばかり思われている。その度に否定してきたが、思えば徹は面倒なのか否定すらしていなかった。肯定もしないが。
「なあ、徹」
 向こう側の信号が赤に変わった。徹の視線が注がれているのを知りながら彼の方は見ない。
「いっそ本当に付き合おっか」
 青の道へ踏み出す。隣にいたはずの男が中々視界に入らないので、横断歩道の半ばで振り返った。徹は立ち竦んでいた。
「……そんな顔しなくてもいいだろ」
 冗談だと言ってまた背中を向ける。道路の真ん中でいつまでも立ち止まるわけにはいかない。
 足音が後ろからついてきた。歩幅の違いか、それはもうすぐ傍にある。
「そうするか?」
 信号が点滅する。
 笑って通り過ぎた徹を、慌てて追いかけた。顔が熱い。道路を渡りきり、手を伸ばして捕まえる。
 時折見せる、意地の悪い笑顔を見上げた。
「冗談だ」
「……あんまそういうこと言うと、本気にするぞ」
「お互い様だろ。好きにしろ」
 手を離し、俯き気味に歩き出した。言葉を頭の奥で反芻する。だがどうも気に入らない。
「冗談じゃないけど」
 前置きをしてから顔を上げた。隣に立っているから相手の表情は伺えない。
 トラックが横を通り過ぎていく。排気ガスを浴びながら首を小さく左右に振る。
「……まあ、これはいっか」
「何だ、それ」
「内緒」
 本心は、抑えられないくらいにお前が好きなのだけれど。
 自分から言うのは負けた気がして、口を噤んだ。中学を卒業しても、高校に入学しても二人は何も変わらないと思っていたが、世の中に変わらないものはないと改めて知らされた。

2014/01/23


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