お慕いSS 2
ほんのり三十話ネタバレ。玄徹。
田園の中を二人で歩いて帰った。数えきれないほど何度も繰り返したことだが、互いの手を引いた記憶は殆どない。
あるとするならば、暗がりに怯えてつい手を取ってしまったくらいだ。
「どうした?」
隣を歩く子供の顔は今もよく覚えている。あの頃は自分も幼く、ただこの友人だけが頼りだった。
「いや……」
俯いて言葉を濁す。小学生の頃だったと思う。まだ、思いは繋がっていなかった。だから一歩引いた関係のままだった。
徹は黙ったまま手を繋ぎ返してくれた。
その手が今はもう骨に皮が張り付いただけになってしまっている。手だけではない。目を背けてしまいそうなくらいに身体は脆い。だがもう背けることは出来ない。今まで散々見ないようにしてきたツケが、襲ってきている。
こいつのことはよく知っているつもりだった。その自負が現実をぼかした。
何度も歩いた道で清徹の腕を引いた。
「どうした?」
変わらない顔で振り向いて、それでも振り解かれない。それをいいことに手をぎゅっと握った。強く、折れてしまいそうなまでに強く。
何処にも行くな。離れるな。俺といてくれ。
言葉にして現状が変わるならいくらでも言葉にしようものだが、生憎そんなご都合主義は存在しない。
「……徹」
やっとの思いで絞り出したのは幼い声だった。清徹は少しばかり眉を顰めた。
「そう呼ぶのはやめろ」
手の痛みだけが不機嫌を起こしているわけではないと知っている。
「俺は最後まで務めを果たすつもりだ」
もう二度と徹に戻るつもりはないと言外に滲ませて、清徹はそれからふっと微笑んだ。
「帰ろう、清玄」
お前のように言葉を扱えたらどれだけ救われるのだろうか。
一緒に、という声を飲み込んで、手を離した。
2013/12/31
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