2話(3/3)

「な、に言ってんの………」
「なァ、アネモネ。お前もう無理しなくてもいいじゃねェか」
「………ごめん、サボ、何言ってるのか私には」
「エースのこと、好きなの知ってる」


ミルクティーを飲もうと伸ばした手がコップにあたり倒してしまう。フローリングに広がる零れたミルクティーを呆然と見つめては(ああ、拭かなくちゃ)と思うけど体が石のように固まってしまい動かない。

少しの間を置いてサボは立ち上がりクローゼットからタオルを取り出してミルクティーを拭く。我に返った私は慌ててカバンからハンカチを取り出す。


「ごっ、ごめ、ミルクティー…零しちゃった。ごめんね、ごめんサボ」
「気にすんなって、これくらい大丈夫だから」
「ごめん、拭かせちゃって…ほんとにごめんね、ごめん」
「アネモネ」
「ごめ、ごめん……ごめん」


グイッと腕を引っ張られサボとの距離が縮まる。怒ってる?何だかサボの顔がほんの少し怖い。掴まれた腕が地味に痛くて私はパッと視線を逸らす。


「………アネモネ、おれの目見て」


聞き慣れない、低い声。
サボってこんな声、低かったっけ。


「好きになったことは、咎めたりとかしない。でも、分かってるだろ?」


なにを。


「エースのやつ、あれだけアネモネのこと大事にしてたのに、今じゃアネモネのこと傷付けてる」
「……そんなこと、ないよ」
「ある。…アイツも、不器用なんだよ。ほんとに。見ててこっちがハラハラする」
「……サボ?」
「アネモネ、もう我慢するなよ。一人でもう泣くなよ」


我慢なんて、してないよ。

エースは、今を楽しもうとしてるだけなんだってちゃんと分かってるよ。ほら、若いうちに経験を積んで、みたいな。そういう感じじゃないの?分かってるよ。大丈夫。


「…泣きそうな顔、」
「してない」
「………………悪ィ、少し言いすぎた」
「……」
「エースのやつ、ろくでもねェけど、嫌いにはならないでくれ」


嫌いになんて、ならないよ。なれるわけがない。

どんなに女ったらしでも、どんなに変わってしまっても、私は何があってもエースのことを嫌いになったりなんて、できないよ。


「…なれ、るわけないよ………。エースは、私の、大切な…ッ」
「うん」
「うえ、っ、エース…エースのこと、好きにならなければッ、こんな、こんな思いしなくてっ、済んだ、のに…!」
「うん」
「でも、でも!エースのこと、好きなの。も、どうしようもないくらい、好きなの」
「うん」
「私のこと、見てほし、い!エースに、ちゃッ、んと、私のこと!見てほしい、よ…!」


目からぽたぽたと雫が落ちるたび、口からもエースへの想いが出てくる。分かってほしいなあ、エースに分かってほしいなあ。

でも、この気持ちを伝えたら今の関係はどうなっちゃうんだろう。私が伝えたことで、3人が仲悪くなったりすることがもしあったりしたらとても嫌だなあ。辛いなあ。

私もエースに、ぎゅってされたい。一緒にどこかへ行きたい。一緒にご飯食べたい。喧嘩は、したくないけど自分の思いをぶつけたい。ちゅーだって、したい。それ以上のことだって!


「でも、叶わないんだろ、うなァ………へへ、辛い。辛い、つら、いよ…」
「……」
「いいなあ、エースと一緒に、いる女の子…。ずるいなあ、ずるいなあ。」
「アネモネ」


名前を呼ばれたのと同時に、サボに引き寄せられる。それと同時にハッとする。いけない、サボに迷惑をかけてしまった。慌てて離れようとするけどびくともしない。


「…泣いて、いいから」


そう言われ頭を撫でられた途端、枷が外れてぶわあっと涙が溢れてきた。ここは甘えてサボの胸を借りよう。

いつもより早めに帰ってきたエースが、私がサボの胸でわんわん泣いてるのをこっそり見ていたなんて知る由もなかったんだ。


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