10話(2/3)

(エース視点)


昨晩は散々だった。早めに家に帰ろうと思った矢先にマルコとサッチに捕まった。どうせまた合コンの埋め合わせだろうとでも思ったがおれの予想は大きく外れた。失恋したサッチを慰めようの会だったのだ。それに何故おれを誘う必要があったのか。いや、まあおれ達は中学ンときからの仲だしこういうときにこそ慰めだとか必要なのかもしれねェが、生憎おれは野郎の失恋事情なんて心の底からどうでもよかった。

実際おれはお前のことよりも自分のことで手一杯なんだ!と思いつつもなんだかんだで帰るに帰れなかったため朝方まで呑み明かしていた。失恋のショックからかサッチの呑むスピードは尋常じゃないほどの早さで、それにのまれたおれとマルコはサッチ同様にべろんべろんになっていた。目を覚ますと、当然頭が痛いわけであって。そんな二日酔いを極めている体にムチを打って家に帰った時間は、お昼を過ぎていた。


家へ帰ると、空気がなんだかいつもと違うことに気が付く。いつもなら家にいないはずのルフィがいるし、サボが珍しくリビングにいる。今までこんなことあったか?と思いつつリビングにいるサボとルフィに声をかけた。


「珍しいな、ここにいるなんて」
「…おう」
「エースおせェぞ!」


なんだろうかこの違和感は。何かがおかしい。いつもならもっと、なんというか騒がしく迎えてくれるはずなのに、なんだこの空気は。ルフィの言葉にトゲがあるのと、サボからの刺さるような目線。


「何だよ、空気悪ィな。何があったんだよ」
「エース、外見なかったのかよ?」
「外? 外がなんだっていうんだ」
「……アネモネ、もういねェぞ」
「?!」


ルフィの言葉を疑う。アネモネがいない?そんなまさか。何を笑えない冗談を言ってやがる。アネモネがいないだなんて、何を! 思わず掴みかかりそうになった体をどうにか抑えて正気を保つ。ソファーの背もたれに顎を乗せながらおれを見てくるルフィのその目に偽りなど微塵も感じ取れなかった。ルフィはそういう嘘をつくヤツじゃないっていうことは知ってる。でも、それでもおれはルフィがたちの悪い冗談を言っているようにしか聞こえなかったんだ。


「アネモネん家、引っ越すんだとよ」
「は…? 引越し?」
「トラック無かったのか? アネモネん家の前に」
「……無かったよ」
「残念だな、それじゃあもう行っちまったみてェだ」


おれを見ないで飄々と喋るサボに怒りが込み上げる。何だよ、何でもっと早くそれをおれに言わないんだ。そうしたら、サッチとマルコなんかほっといてもっと早く帰ってきた。アネモネがいないだなんて、嘘だとしか思えない。


「ま、少し前に帰ってきたとしてもアネモネには会えなかったけどな」
「あ? 何だよそれどういう意味だ」
「そのまんまの意味だよ。アネモネはもうとっくにいなくなってる」


ガタンと音が立ったのと同時にテーブルに置いてあったコップが倒れて、割れた。勿論飲み物も零れて床に広がる。気が付いたらおれはサボに掴みかかっていた。少し驚いた様子のルフィが視界に入るがいつものように騒ぎ立てる感じが見受けられない。掴みかかっているのはおれなのに、サボはただただおれを見下ろしていた。


「……離せよ」


いつもより低いサボの声に我に返ったおれはわりぃ、といい手を離す。未だに思考がついていかないおれを見かねたのかサボはグイッとおれの腕をつかみ自分の部屋へと上がっていった。


「エース」
「な、んだよ」
「アネモネは、朝方に一人で早めに出てったよ」
「…、」
「ん、」
「は?」
「アネモネからだ! お前宛にだよ!」


部屋に突然連れてこられて何かと思えばずい、と目の前に差し出された手紙にクエスチョンマークが浮かぶ。アネモネから? なんでおれに。受け取るのを渋っていればサボに無理矢理手の中に押し込まれた。


「……お前らはさ、すれ違いすぎたんだよ。バカだよな」


そう言い残してルフィのいるリビングへと降りていったサボの背中を見送る。サボの言った言葉が頭から離れなくてその場にしゃがみこむ。すれ違いすぎたって、何だよ。そんなの俺が一番…。
カサリと音を立てたアネモネからの手紙を開けてみた。


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