9話(3/3)

「あ、あは! なんちゃって! クリスマス前ジョーク! みたいな! あはは!」
「…え、」
「んーそうだなークリスマスプレゼントはね〜寒くなってきたし今使ってるストールも古いからストールにしてもらおうかな!」
「…アネモネ」
「色は何でもいいからね〜エースのセンスに任せちゃう!」
「なあ」


今になって恥ずかしさが込み上げてきて爆発しそうだというのに、エースから少し距離をとった瞬間手首を掴まれて引き寄せられた。テーブル越しなのに、エースとこんなにも近い。見つめてくるエースに私はさっきみたいに真っ直ぐ見つめ返すことが出来なかった。


「…アネモネ、さっきの」
「あれ?こんなところにエースがいる〜!やっほー!」
「ッ?」


入口の方から大きい声でエースの名前を呼ぶ女の人達。エースは驚いてパッと私の手を離した。私は女の人の声が聞こえてエースに手を離されたのと同時にバックとブレザーを手に取った。さしずめ、あの人たちはエースのことを追っかけてる人達だろう。関わりたくない。


「エースどうしたのこんなところで〜」
「お前ら…」
「あれ?幼馴染ちゃんと一緒なんだ?」
「何しに来たんだよ」
「エースが見えたから〜私達これから呑みに行くんだけど、どうかなーって!」


私のことを何とも思わない人達でよかった。もしこれがあの過激派な人達だったら今頃酷いことになっていたに違いない。数人の女の人に囲まれて困るエースを、他所に私は「チャンスだ」と思ってしまった。

あんな、エースが欲しいだなんて口を滑らせてしまって! さっきエースはあれはどういう意味だったんだって聞いてこようとしたに違いない。そんなこと言われたって、それは言葉のままだし、説明のしようがない。大体私だって本当はこんなことを言うはずではなかったのに、どうして私はあのときあんなことを言ってしまったのだろうか!


「エース、そろそろ私帰らなくちゃ」
「なっ、アネモネ! お前さっきのッ」
「だから、あれは冗談だってば! このまま呑みに行くんでしょ? 私は大丈夫だから」
「アネモネ!」
「じゃね、お先に失礼」


物凄い剣幕でエースが迫ってきたけどそれを振りほどいて駆け足でお店から出ていった。後ろからあの女の人達がとても焦ったように「幼馴染みちゃんも一緒にと思ったんだけど!」と声をかけてくれたけど、ごめんなさい。


気を遣ってくれたことにはとてもありがたいなとは思ったけれど、自分の好きな人と好きな人を好きな人と一緒になんていられない。ていうかまず私年齢的に呑めませんし!


何も考えたくなくて家の近くまで自転車を漕いだけれど、ふとした瞬間にさっきのエースとのことを思い出す。

もし仮に、あそこで女の人達が現れずにエースがそのまま言葉を紡いでいたとしたら。その先の展開はどうなっていたのだろうか。


エースが、もしかしたら私のエースになってくれていたかもしれない?


その先のことを考えれば考えるほど頭が痛くなってしまって、胸が苦しくて、とても泣きたくなった。家に帰るまでの道のりが果てしなく遠く感じて、今すぐエースが私のあとを追いかけて抱き締めてくれればいいのに、だなんて思ってしまった。


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