9話(2/3)

「いやあにしてももうすっかり寒くなってきたなほんと」
「なァ今日飯どうする? じいちゃん達いるんだろ?」
「ジジイいンのかよ? は〜適当に鍋でいいんじゃねェの?」
「あっ、ねえ鍋と言えばなんだけど私今度闇鍋やりたい! あとタコパもしたいな〜」
「闇鍋! いいなそれやるか」
「タコパすんならついでにチーズフォンデュもやろうぜ」
「えっやだ私チーズもいいけどチョコの方がいい!苺買うからさ〜」


エースが来てから何だかんだで1時間が経った。マックに長居するのが久々で何だか罪悪感があったけれどお客さんもあまりいないし、いいかなーなんちゃって。

それよりもタコパ!闇鍋!チョコフォンデュ!ああ楽しみだなあ。考えるだけでもう楽しい!ニコニコしているとエースが何ならお前今日来るか?と誘ってくれた。行きたかったけど、引越しの準備があるし。その言葉を飲み込んでお誘いを断った。


「今週な、じゃあ今週の金曜に先に闇鍋しようぜ」
「じゃあ今日の鍋やめねェ? 焼肉にしようぜ」
「あーだな、そうすっか。 ていうかアネモネ今週空いてんなら泊まりにこいよ」
「えー、んっと…色々やらなくちゃいけないことあるからなァ」
「何だよやるこ………わり、ちょっと電話出る」


怪訝そうに眉をしかめたサボの言葉を遮ったのはサボの携帯だった。私たちに背を向けて電話に出たサボはダラダラと汗をかき始めた。私とエースは顔を見合わせて首をかしげる。一体どうしたというのだろうか?


「わりぃ! 今コアラから連絡あったんだが大学に戻らなくちゃなんねェ…」
「ばたついてんな、大丈夫か?」
「いや、わりとやべェ…! わりぃなアネモネ、せっかく飯だったのに。エース、アネモネのことよろしくな!」


荷物をまとめてバタバタとお店から出ていったサボに何も言えずに見送ってしまった。どうしたのかな、課題の提出し忘れとか?よく分からない。静まり返ってしまったなか、私とエースはただ目を合わせていた。あ、これ何だかデジャヴ。またエースと2人きりだ。


「ど、どうしたんだろうね、サボ」
「どうせ課題の提出し忘れとかだろ。あいつらしくねェ」
「ふ、ふーん…」


サボがいなくなってしまった瞬間これだ。会話が30秒とも続かない。エースがこっちを見てるというのは分かるのだけれどもどうしても顔を上げられない。は、恥ずかしい!全身の毛穴という毛穴から汗が湧き出そうな感じがした。


「…あー、なァ」
「ん?」
「そういやクリスマス…、近い、よな」


ふい、と視線を逸らしながらいうエースに違和感を抱きつつも言われてみれば、と思う。いやでもクリスマスが近いと言ってもあと2週間くらいはある。ああ、もうそんな季節なのか。通りで寒いわけだ。

今年のクリスマスはここで過ごせるのだろうか。一体いつくらいにこの土地から離れるのだろうか。年明けといえども、もしかしたらもっと早くなるかもしれない。こうしてエースといられるのも今日が最後になってしまうかもしれない。そう考えただけで胸が苦しくなってきた。


「クリスマスね〜、今年はサンタさん来てくれるかなァ」
「…なんだ、アネモネお前サンタまだ信じてるのか?」
「いや、もう信じてないけど夢くらい見たっていいかなー…なんちゃって」
「なんだそれ、変だな」


おかしそうに笑うエースを見て私も笑みがこぼれる。エースの笑った顔、本当に好きだなあ。これからもサボとルフィとエースと一緒にいられると思ったのに。他の女の人達よりも近いところでエースのその笑顔を見ていられると思ったのに。


「おれがサンタになってやるよ」
「え?」


ぼんやりとエースの顔を見ていたら、思ってもいなかった言葉を放たれる。目をぱちくりとさせていると小っ恥ずかしそうにしていたエースがゴホンと咳払いをしてジッと私を見つめる。私は何だか混乱してしまって髪の毛を耳にかけたりを繰り返す。えっ、と。彼は本当に私のサンタになってくれるとでもいうのだろうか?


「エースが、私のサンタさんに?」
「おー、何か不満か?」
「いやそういうわけじゃないけど、」
「まあ、あれだ。高いモンは買ってやれねェかもしれねーがある程度のもんなら何でも買ってやるよ」


得意げに笑うエースに本当に買ってくれるのかなたなんて呆れた笑みが漏れる。頬杖をつきながら私の顔をのぞき込んでくるエースに心臓が出てきそうになるのを抑えながらもチラリとエースを見る。何でも、くれるのかァ。


「な、アネモネ。何欲しい?」


真っ直ぐに私を見つめて尋ねてくるエースに、一瞬だけ言葉が詰まる。その黒い目、ルフィにそっくり。私の苦手なルフィのあの目にそっくり。でも、どうしてだろう。私、本当にエースなら何でも好きだなって思うの。

あのね、エース。私、どんなに高い素敵なアクセサリーや、どんなに高い美味しいご飯でも、どんなに高い綺麗なお洋服も、そんなのいらないんだよ。


私は、ただ、エースがいてくれれば。それでいいの。


「エースが欲しい」


私を見つめるエースを、見つめ返す。ああ、言ってしまった。真っ直ぐ見つめる、真っ直ぐ。真っ直ぐ。どうしてだろう、あんなに向き合うことが怖くて仕方なかったのに、今は何も怖くない。むしろ今が、とても心地いい。胸が軽くなったような感じがする。

エースがピクリと反応した。それと同時に私も我に返る。いけない、困らせてしまった!


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