8話(3/3)

サボのその一言に、ルフィは勢いよく立ち上がりサボへと飛びついた。その反動でお皿が落ちそうになったけど何とかギリギリでキャッチすることが出来た。エースはルフィにゴツンと拳骨を入れると空いているお皿を片付け始めた。あ、私がやろうと思ってたのに。そう思って腰を上げるとお前は座ってろ、とでも言いたそうに顎で私にそう言った。ちぇ、なんだよ。


「悪ィけど、ちょっと行ってくるわ。お前らも何か欲しいのあるか?」
「え!買ってくれるの? だったら私フルーツタルト食べたい!」
「おれは別になんでも」
「分かった。じゃあルフィと行ってくるからよ、戸締りはしっかりしろよな」


ルフィを軽々と抱えてリビングから出ていくサボ。え、そんな!このタイミングでエースと2人きりだなんて、そんな! 酷いよサボ! リビングから出る前に目が合ったサボはまるでエースと2人でゆっくりしてろよとでも言いたそうで。私はため息をつきたくなった。

玄関の閉まる音が聞こえて、ああエースと2人きりになっちゃったという思いが頭の中を駆け巡る。2人きりになった瞬間、どうしたらいいかも分からなくなってしまって私は固まってしまう。さっきみたいに、普通に話しかければいいんだよ。そう、普通に。あれ、でも普通ってなんだっけ?私さっきまでどうやってエースと話してたんだっけ?


「あ、え、エース! ゲ、ゲ、ゲーム、続……」
「あいつら戻ってくるまで、おれの部屋にいようぜ」


やっと発した言葉を遮るかのようにエースの言葉が私の言葉を覆う。気が付くとエースはリビングから出て行ってて、タンタンタンと階段を上がっていっていた。私は急いでエースのあとを追いかけた。



部屋が別々になってから、多分、初めてエースの部屋に入った。サボの部屋とは違って、そこかしこに物が散らばっている。といっても、ルフィの部屋みたいに散らかってるわけでもない。エースの匂いが、する。何考えてるんだ私!頭をぶんぶん振ると「何してんだ」とエースの呆れた声が返ってきた。


「ま、適当に座れよ」


と、言われましてもどこに座ったらいいのやら。机の椅子には物が乗っかってるし、クッションとかも全部ベッドの上に置いてある。そのまま床に座ってしまおうかと思い腰を下ろそうとするとエースがバンバンと自分の横を叩いた。ああ、隣に座れと。少々気が引けたが、エースの隣へ座る。案外いいベッドを使っているのかもしれない。座っただけなのに結構弾んだ。


「あ、あー…あれかも!へへ、エースの部屋、初めて、かも」
「…あァそうかもしれねェな。あまりこうやって顔合わせることも無かったし」
「そ、だね…」


沈黙が流れる。会話が続かない!私、こんなにエースと話ができなかっただろうか?チクチクとエースの視線が刺さる。ごめんなさいごめんなさい!私エースのこと嫌いじゃないの、むしろ好きなの。でも、いきなりこんな、近い距離とか、そんな、慣れてないから!どうしようもなくて俯くと、ギシと音を立ててベッドが弾んだ。何かと思えばエースは立ち上がって私の目の前にしゃがんで顔を覗き込んでいた。


「どうした? ねみぃ?」
「あ、いや、全然!そんなことないよ」
「そうか? 眠かったら横になってていいからな」
「う、ん。ありがとエース」


眠くなんてないよ。寝たりだってしないよ。そんなことしたら、せっかくの時間、もったいないじゃない。寝るくらいなら私、エースと話せなかったこの溝を埋めるくらいお話ししたいよ。また私の隣に座り直しては、壁に背をあずけ携帯をいじるエース。話、したいのに。上手く言葉が出てこない、紡げない。こんなに苦しいとは思ってなかったよ。


「……………アネモネ」
「…」
「アネモネ!」
「ッ!あ、何?ごめんボーッとしてた…」
「…おれと目合わせるの、そんなに嫌か?」
「え、」
「話したりするのも、嫌なのか?」


真っ直ぐ私を見つめるエース。あ、その目。私、その目が。私はぱっと、視線を逸らす。そのときエースがぎゅ、と眉間にシワを寄せた。違うんだよエース、私、もっとエースのこと見ていたいし、もっと話だってしたいけど。でも、出来ないんだよ。好きすぎるから!

好きすぎるからエースと目を合わせるのが恥ずかしいし、口を利くこともなかなかできないの。

そう言えたらどれだけ楽か。もうこのまま勢いに任せていっそのこと私の気持ちを伝えてしまおうか!でも、きっとエースは困るだろうから。できないなあ。好きなのに。他の女の人よりも私のことを見ていてほしいのに。


「違くて、最近…全然話とかできてなかったから、私、なんか、恥ずかしくって…」


あながち間違ってはいない。恥ずかしいのは事実だし、話ができなくて蟠りを感じているのも、事実だ。恐る恐るエースの顔を見てみるとポカンとしていた。ああ、そりゃそうなるだろうなあ。私はいてもたってもいられなくてつい立ち上がる。それと同時にエースが私の手をぐいっと引っ張って私はまたベッドの上に座ることになってしまった。


「エ、エース?」
「ずっと避けられてんのかと、思ってた」


避けてましたごめんなさい!でも嫌いになったとかじゃないの、あ、いやごめんちょっと嘘かも、嫌いになってたときもあった。でもそれは違うんだ、女の人と一緒にいるエースを見るのが嫌で、それでなの。そう言えばいいのに、あまりにも辛そうな顔をしているエースに目が離せなくて私は言葉が出てこなかった。何で、エースがそんな悲しそうな顔をするの。違うの、そう言いかけたのと同時にエースの部屋のドアが勢いよく空いた。


「アネモネ!エース! ただいま! ほらこれ見ろよ〜いっぱい買ってもらったんだぜ!アイスも!ケーキも!早く食おうぜ!!」
「おいルフィ見せるのは別に後ででもいいだろ! 冷やさねェとアイス溶けちまうぞ」


急いで階段を駆け上がってきたのかルフィもサボも少しだけ息が切れていた。サボに言われてルフィはぎゃんぎゃん騒ぐと急いで下へと降りていった。はあ、とため息を付きながらサボはそのあとを追いかけていった。まるで嵐がきたみたいで、エースも私もぽかんとしていた。


「…下、降りなくちゃね。2人とも待ってる」
「そうだな、行くか…」


部屋を出ようとしたところで、エースにまた手を掴まれる。空気が少し、ピン、と張り詰める。


「アネモネ、」


いつもより低く聞こえるエースの声に、自然と背筋が伸びる。


「なに?」


震えてしまいそうになる声を、なんとかバレないように抑える。


「お前、おれに何か隠してることねェか?」


どくり、と胸が大きく跳ねた。掴まれている手から伝わってしまったんじゃないかと焦る。私は振り返りエースの目を見る。


「何もないよ」


そう言い、掴まれている手をやんわりと振りほどく。ああもう、どうして彼は妙に勘いいのだろうか。頭と胸が、ズキリと痛む。振りほどいた手を、今度は私が掴み「早く行こう」と言い2人で階段を降りる。リビングに行けばケーキをカットして用意しているサボと早く食べたくてウズウズしているルフィがいた。エースの方を見ると、何だか難しそうな顔をしていたから、私はにっこりと微笑んでみせた。椅子に腰掛け、4人でケーキを食べながら残りの時間を噛み締める。

私は、年が明けてからこの土地から、大好きな人達から離れることになった。


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