6話(2/2)
時間よりほんの少し早めに着いてしまった。私服に着替える時間が無かったからそのまま来たけど、良かったかな。一応化粧くらいは直しておいたけど…でもまあサボとかとたまに出かけるときは私が制服のこと何度かあったし、別に平気だよね。
それにしても本当に急だなァと再度思う。なんかの罰ゲームなんじゃないのかって思うくらいには驚いてる。でもやっぱり嬉しいもんは嬉しい。
エースのこと、好きなわけだけどなかなか行動に移せない自分がいるわけであって。その中でも今日がきっと特別な日になるんだろうと思う。何かのきっかけにでもなればとても嬉しい!ていうか最高!
まず、エースとそういう関係になったら何がどう変わるんだろう。やっぱり大人なこととかしちゃうわけだよね。想像しただけで顔が熱くなってくる!火照った顔を冷ますためにパタパタと手を動かしてみるけど無意味に等しかった。
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「おっかしいなあ〜…」
約束の時間から10分が経ったものの、一向にエースが現れる気配がしない。エース、ちゃらんぽらんだけど時間は守る人だから何かあったのではないかと思うくらいには心配している。こちらから連絡をしたほうがいいとは思うのだけれども、私から連絡をしたことなんてもうかれこれ数年も無いし、というか誘ってもらった分際としてどこにいるの?何してるの?とか連絡しにくくてたまらない。しかも相手がルフィならまだしも、エースとなってはちょっと、というか大分しんどい。
待ってれば、来るよなあ。そう思いながら壁によりかかりほんの少し空を見上げた。ちょっとだけ雲行きが怪しくて、何だか嫌な気持ちになった。エース早く来ないかなあ。
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あれから2時間近く経った。連絡も来ないし、エースが来る気もしない。何よりも、雲行きが怪しいなと思っていた勘が当たってしまって雨が降ってきてしまった。生憎傘は持ってないし、エースが来ることよりもどうやって帰ろうかなということばかりを考えていた。
駅前にずっと私がいるもんだから、駅員さんに大丈夫ですか?と言われてしまったときの気まずさといったらなかった。本当に恥ずかしい!気を使ってくれたのかココアをくれた。缶越しに伝わるココアの暖かさが雨で冷えきった手に広がる。
「エース、来ないのかなあ…」
ポツリと呟いてみるも、やっぱり来ないのは来ない。もうずっとここにいてもしょうがない。雨も強くなってきたから帰ろうと思ったその時だった。見覚えのある、クセのかかった黒髪が見えた。あれはエースに違いない!声をかけようと口を開いたけど、開いた口から声が発せられることはなかった。
人混みに紛れて見えなかったけど、エースの隣には女の人がいる。何で、どうして?ただその感情しか湧いてこなかった。見てられなくて、パッと視線を逸らした。エース、なんでこんなことするの?私なにかしたのかな、私、そんなに邪魔なのかなあ。
気になるものは、やっぱり気になってしまう。私は恐る恐る顔を上げて二人を目でとらえた。それと同時に、女の人と目が合った。ドキン!と心臓が大きく跳ねたのと同時に、体から大量の嫌な汗が吹き出てきたような感じがした。
だって、あの人、笑ってる。
あの笑顔を私は知ってる。何度も見たことがある。あの笑顔は、人を見下すときときの顔。その瞬間、嫌だけど分かってしまった。私は騙されたのだと。そう分かるともういてもたってもいられなくて、私はその場から逃げるように立ち去った。雨は降ってるけど、そんなの気にしてる暇なんてなかった。
ただ、悲しかった。
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(エース視点)
「何笑ってんだ?」
「ふふ、んーん、なんでもないの!」
雨が降ってるっつーのに、すごい嬉しそうに笑う。おれは雨が嫌いだから、笑ってる女を見てほんの少しだけ嫌な気持ちになる。変なヤツ。
ちょっとごめんね、といい女は携帯を取り出し誰かに連絡をしていた。何がそんなに嬉しいのか分かんねェけど、スワイプする指が異常に早かった。なぁんか、ヤだな。
チラリと女から視線を外して行き交う人々を見る。傘をさしてる人がいる中、一人だけ傘をささずにパタパタと走り去る女がいた。後ろ姿を見て確信した、アネモネだって。
アイツ、こんな雨の日になんで傘もささねェでここにいるんだ?そう考えたらアネモネのことが急に心配になってあとを追いかけようとした。
「ねえエース!これから、ね?行きましょ」
「ッ、あ? …いや、今日は」
「断るつもり? ダメよそんなの。今日は二人でゆっくり過ごすんだから」
追いかけようとした瞬間にグイッと腕を引っ張られる。振りほどくわけにもいかなく、女の言葉におれは丸め込まれてしまった。クソ、こんなことになるはずじゃなかったっつーのに!
グイグイと女に引っ張られながら、おれはアネモネの後ろ姿がどうしても頭から離れなくてしょうがなかった。
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