5話(3/3)

楽しい時間はあっという間に過ぎる。本当に過ぎる。結局海王類水族館にあるレストランは人が多くて入れなかったからまた今度にしようかって話になって、結局私達は家の近くの定食屋さんでご飯を済ませた。


「あー美味しかったね〜」
「やっぱあそこの飯うめーな!でもおれは水族館の飯屋に行きたかったぞ…」
「私も行きたかったけど流石に待ち時間がね〜。1時間ちょいも待ってられないでしょルフィは」
「おう!無理だ!」


何をドヤ顔しながら言ってるんだか。あれすごかったなーあいつかっこよかったなーって目を輝かせながら子供のように話すルフィに自然と笑みがこぼれる。ああ、久しぶりだなあこうやって気も張らずに笑いながら遊ぶの。


「アネモネ、やっと笑えたな!」


突然のルフィの言葉に私はドキンとした。じっとルフィを見つめる。ルフィはいつもと変わらない、あの笑顔を向けてくれている。

何、ルフィどういう意味なの。


「な、何でそんなこと?」
「だってよーこないだ泊まったときといい、なんかアネモネ無理してるようにしか見えなくてよォ」
「そんな、気のせいでしょ…」
「顔引きつってた!あれはおれでも分かるぞ!」
「ッ、」
「サボもアネモネのこと心配してた」


まさかあの鈍感ルフィがここまで気が回るだなんて思ってもいなかった。というか、ルフィに余計な心配をかけさせてしまったことがたまらなく申し訳ない。私は1度俯かせた顔を上げることができなかった。ルフィの顔が見れない。


「アネモネよお」
「…ッ」
「おめー、エースのことで悩んでるんだろ?」


ああ、何でキミは、そこまで頭が回ってしまうのだろうか。エースの名前に反応して上げてしまった顔。私の顔を見たルフィはぎゅっ、と眉を寄せた。何でルフィが、そんな顔するのさ。


「…わ、分かっちゃった? あはは、ルフィには分かんないかなあって思ってたんだけどな〜」
「…」
「え、エースには、秘密だよ!ね!」
「…」
「実は、さ。サボもこのこと知ってるんだよね〜。2人には何でもお見通しみたいな?なんか怖いね〜」
「…アネモネ」
「ルフィも、もう心配しなくて大丈夫だからね!私もなんとか頑張るし…」
「無理して笑うな。おれその顔嫌いだ」


静かなトーンのルフィの声。忙しなく動かしてた私の口も流石に止まった。ルフィが、怒ってる。

だって、私、ルフィには迷惑かけたくないよ。嫌われたくないよ。私の方が、お姉さんだし、心配かけさせてどうするのさ。嫌な汗が止まらない。ルフィと目が合わせられない。怖い。嫌われたくない。


「……………エースのことでそんなに悩むくらいなら、
「お〜いルフィ!こんなところで何してんだ」
あ、シャンクス!!」


ルフィの言葉を遮ったのは、シャンクスだった。言葉の続きが、気になってしょうがなかった。仕事終わりの呑み帰りなのか、どことなく酔っ払ってるように見えた。でも、私ほっとしてる。ほっとしてる自分にもまた、嫌気がさした。


「む、アネモネじゃないか!…おお?ルフィと2人か!そうかそうか〜青春だな」
「シャンクス今帰りか?」
「おう!今日もクタクタだぜ〜〜。もう夜もおせーし、おれが送ってってやるよ!」
「い、いいよシャンクス…うちすぐそこだし」


いいんだいいんだガーハッハッなんて1人で笑いながら私達の肩に腕を回す。これきっと、傍から見たら酔っ払いを歩かせてるように見えるんだろうなあ。

シャンクスの登場に安心したものの、やっぱり居心地は悪い。私は適当に嘘をついてシャンクスをルフィに任せた。ごめんルフィ、今度なんか奢る。


「ルフィ、ありがとね今日。楽しかった!また遊ぼうね」
「…おう!また今度な」


何か言いたげな顔をしてたけど、私はルフィが今度な、と言い終わる前に背を向けて家から反対方向へ歩き出した。




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(ルフィ視点)


「浮かねェ顔してるじゃねェかルフィ」
「シャンクスのせいで言いたかったこと言えなかった」
「なに?!そうだったかすまない」


別に、シャンクスのことはもう怒っちゃいねェけど。でもあんなアネモネのことはもう見たくねェ。

エースより、おれの方がたくさんアネモネを笑わせてやれるし、たくさん飯も食わせてやれる。おれならえみりにあんな顔させねえ。

でも、おれはエースもアネモネも好きだから。どっちにも幸せになってもらいてェな。

あのとき、最後までアネモネにおれの言葉が届いてたらどんな応えをくれたんだろうか。それだけがずっと頭の中に残ってる。


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