「エース、もうそろそろ出るよい」
「…ん?おう」

ぼやーっとする。なんか、大事な何かを忘れてるような気がするんだけど何も思い出せねェ。この島にいた間、おれは何かを思い出そうと必死になって、誰かに会おうと必死になっていた。今となっては、何にそんなに必死になっていたのかすら覚えてない。

「エース!」
「何だよサッチ。なんか買い忘れたとかだったら自分で行ってこいよな」
「違くて!買い忘れたのあるけども!違くて!!」
「じゃあなんだよ?」
「……もう探しに行かなくていいのか?」

その顔。マルコも、ハルタもイゾウもジョズも、他の奴らも、ナースたちも、みんなその顔をおれに向けてくる。だからおれ、何をそんなに必死になって探してたのか覚えてねェんだよ。

返す言葉が見つからなくて頭を掻く。お前ら、おれに何をそんなに見つけてもらいてェんだ。

「…出航までまだあるから、少し外の空気吸ってこいよ。な?」
「…おう」

サッチに背中を押されてとりあえず町をしばらく歩くことにした。やっぱりこの島の飯は本当に美味かった。まだ食い足りねェんだよな〜。次はいつこの島に立ち寄れるのだろうか。

ふと、ある木の前に立ち止まる。

「………ここ、こないだまでベンチあったよな…?」

確かおれは初日にここで少し休憩をしたはずだった。……おかしい、それ以降の記憶がどうしても思い出せない。ここで、何かをしたはずだった。誰かに会ったはずだった。

おれはやっぱり何か大事なことを忘れている。いくら考えてみても思い出せない。

遠くから俺の名を呼ぶ声が聞こえた。もう出航するのか!走りゃどうにか間に合うだろ。そう一歩を踏み出そうとした瞬間に、どこかで嗅いだことのある香りがした。

あれ、この匂いどっかで………。

気に留めてる暇もなかったからおれはそのままその場をあとにした。船に戻ってきてもやっぱりみんなさっきと変わらない顔をおれに向けてくるから居心地が悪くてしょうがなかった。


出航して、小さくなる島をじっと見つめる。あの匂いなんだったかな、気になってしょうがねェ。

「…………あ、マルコー」
「ん?」
「そういやなんだけど、あの島名前なんつったっけ」
「オズマンサス島。また近いうち来ることがあるからちゃんと覚えとけよい」

オズマンサス島、か。やっぱりおれはあのオレンジに染まるときが一番大好きだからまたそれを狙って行こう。

米粒みてェな大きさになるオズマンサス島を指望遠鏡越しに覗いてにぃ、と笑みを浮かべる。

次また行くときには、飯たらふく食ってやるぜ。

20151019end.


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