台風の過ぎ去った島は、あれだけ綺麗だったオレンジからとても殺風景なほんの少しだけ寂しい島になってしまった。建物に使ってる様々な色のレンガで辛うじて色味を感じ取れるが、それでもやっぱりあのオレンジに染まったその島の方が好きだ。

キンモクセイのいるであろう木の所まで行ってみたけど、そこにはもうあのオレンジが何一つ無くて。嫌な汗が止まらなかった。

どこを探しても、どこを探しても、キンモクセイを見つけることはできなかった。サッチは、昼はあちこち飛び回って幸福を〜と言っていたから、きっと夜になれば会えると思った。


夜になるまで町で時間を潰すことにした。すれ違う町の人々はみんな

「秋が終わってしまったねえ」
「今年はいつもより豊作だった分、いなくなるのが早かったんだろうねえ」

と口を揃えて言う。

もう、キンモクセイに会えないみたいじゃないか、そんなんじゃ。おれまだ、何一つアイツに言えてないことがあるンだっての!


夜になってキンモクセイを待っても、現れることはなかった。昼同様探してみるものの、やっぱりどこを探しても見当たらねェ。

「…………あほらし、」

我に返ると、何でこんなに必死になって探しているのかも分からなくなっていた。

「エース、」
「ッ、?!」

不意に名前を呼ばれる。声音からして、それはキンモクセイの声ではないとわかってたがそれでもキンモクセイなんじゃないかと希望に縋ってみたかった。

振り向くと、そこにはサッチが立っていた。

「…………見つかったか?」
「………、サッチ…」

首を横に振ると、サッチは眉を下げて笑った。いくら探してみても見つからないんだ。何も言わずにサッチはおれの頭を乱暴に撫でる。いつもならそんな手は払ってやるのだが、今はなんだかどうしても縋りたくなってしまった。

船に帰る頃には、あの花の匂いを思い出せなくなってしまった。一体おれは、何をそんなに必死になって探していたンだ?


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