島に滞在して3日が経った。結局おれは娼館に行くことはなかった。なんつーか、行く気分にはなれなかった。あの日の、あの女とあの匂い。あれがどうも頭から離れなくてウンウン頭を抱えていた。

書類も手につかないし、お陰でマルコから朝っぱらから怒鳴られる。気が滅入って甲板で佇んでたら朝と昼飯に乗り遅れるし、訳の分からない残り物を食うハメになる。腹が減って力も出ねェし、頭も働かねェ。

夜になって、マルコの目を盗んでおれはモビーから抜け出した。少し気晴らしでもしねェとろくに仕事もできやしねェ!金も持ってきたし、飯もたらふく食っていくことにした。もやもやするし今日は娼館に行こう、そうしよう。…今日もサッチは娼館に入り浸ってンのかな?

「………あれ、」

飯屋に立ち寄ろうとすると、あの日に見た女がまたおれのいたベンチに座っていた。アイツ、こんな時間に何してんだ。いくらこの島の治安が良いと言えど、こんな時間に女一人危ねェな。

「おい、お前」
「………あ、アナタ一昨日ここに座ってた人ね!」

どうせまた無視されるのだろうと思ってたからパッと顔を上げて返事をした女におれは面食らった。何だ、コイツ口きけるんじゃねェか。

口がきけると分かると、おれも単純なのかほんの少し嬉しくなって女の隣に腰をかけた。

「こんな時間に、一人で何してんだ」
「んー、私のこの場所が好きなのよね。だからいつもここにいるの」
「…この間も、そうだったよな」
「そうそう、この間はせっかく話しかけてくれたのに無視しちゃってごめんね」

少し話が噛み合わないことに違和感を覚えるも、舌を小さく出してまるで小さな子供のように笑う女を見てたら何だか可笑しくなった。見た目にそぐわないその反応が何だか弟を思い出させる。

「もう夜も遅ェし、帰らなくていいのか?」
「大丈夫、私ここにいるから」
「? …親とか心配してるンじゃねェの?」
「親はいないの、だから大丈夫!でも私寂しくないのよ!へへへ」

立ち上がってニコニコ笑いながらベンチの周りをクルクル回る女をただじっと見つめる。何だか、不思議な女だ。足元を見てみると靴は履いていなく、素足で紅葉の上を跳ね回っているもんだから、女なのにやっぱりなんかおかしいと思った。

「お前、名前は?」
「私はキンモクセイ」
「キンモクセイ…?変わった名前してンだな。俺はエース」
「えー、エースも不思議な名前してるよ〜」

おれの名前って言うほど不思議ではねェと思うけど。また隣に腰掛けてくるキンモクセイに視線をやる。あァ、またこの匂い。どこかで嗅いだことあるンだよ。どこだったかな、思い出せねェ…

「エース、ばいばい!」
「…あ?あァ、おう。気を付けて帰れよ」

キンモクセイが動くたびに香る懐かしい匂い。ばいばいと言われ顔を上げたときにはもうキンモクセイは居なくなっていた。…ここら辺、家なんて見たところ無さそうだがアイツちゃんと家に帰れてンのか?


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