無我夢中で走っていたら、見知らぬ村まで来ていた。しまった、ここはどこだろう。抑制ソフトを強制シャットダウンして走り出してしまったから、来るまでの道のり、周りの風景など何も覚えていない。自分の勝手な感情で多くの人に迷惑をかけてしまう。どうしたものか、と思いながら私は村を散策した。

「name……?」
「ーーーーーーーーーー…あなたは」

正面から駆け寄ってきた少年、村で見たことがある。確か名は、コリン。

「どうしてここに?」
「道に、迷ってしまい」
「トアルに帰れなくなっちゃったってこと?それは大変だ…レナード牧師にリンクに迎えに来てくれるよう頼んでみるね、一緒に来て!」

そう言うと私の手を握り、歩き出した。彼はほんの少し微笑んでるような気がした。私は黙って手を引かれながら今頃リンクはどうしているのだろうか、とぼんやり考えた。


建物の中に入れられてはレナード牧師と呼ばれる男が鷹に手紙をくくりつけてトアルへと飛ばしてくれた。

コリンは私の傍にいて、果たしてリンクは迎えに来てくれるのだろうか、こんな自分の意思を抱いてしまった私のことなど、もう切り捨ててしまうのだろうか。そう考えると、また胸が苦しくなった。

私に、ココロが、感情が、現れてしまったのだろうか。リンクを守るにあたって、感情というのは必要なのだろうか。こんなに何かを考えるのは、いつ以来だろう。

「やあ、はじめまして。名を聞いてもいいかな」
「………………name、です」

いつだったかに、自分を名乗るときは名前だけでいいとリンクに言われた。名前だけでは私の素性がわからないではないか、と考えたが名だけでいいと言われてしまってはそうするせざるおえない。

名を告げればレナード牧師はほんの少し小難しい顔をして何事もなかったかのようによろしく、と手を差し出してきた。握り返しても、それでもまだ小難しそうな顔をしていた。


オレンジに染まっていた空が藍色に染まりかけてきた頃に、トアルに向かっていた鷹が足に何かをつけて帰ってきた。すかさずコリンが足にくくりつけていたのをとって確認すると殴り書きで「今から迎えに行きます」と、そう書いてあった。

「リンク、今から迎えに来るって!」
「今からですか……だいぶ遅くなってしまいますが大丈夫ですかね」
「マスターならきっと大丈夫だと思います」

マスター≠ニいう言葉に反応して、レナード牧師はまた難しそう顔をした。

「キミと、リンク君の関係は?」
「マスターは私の「nameは!nameは、リ、リンクの家に住み込みで働いてる家政婦さんなんだ!」
「ふむ……」

咄嗟にコリンが口を開いた。気を遣ってくれたのだろうか愛想笑いが気になる。どうも村の人たちは私の正体を隠したがる。何故なのだろうか。レナード牧師はあまり納得がいってないようだが、コクンと頷いた。

「name、僕ちょっと外に忘れ物しちゃったから一緒に来て!」
「ハイ」

手を掴まれれば逃げるかのように部屋から出た。レナード牧師からの視線が痛く、そればかりが気になった。まるで、異物を見るかのような、私に敵意を剥き出しにしている目つきだった。


建物からだいぶ離れた岩場へ腰掛けた。コリンがこちらを覗き込むものだから私も目を合わせると、コリンは驚いたのかピクンと肩を跳ねさせた。困ったように笑うと、また私を見つめてきた。

「レナード牧師、nameのこと疑ってるみたいだね」
「そのようです、とても敵意を感じます」
「事情を説明したら疑わずにいてくれるのかなあ」
「どうでしょう、断言はできません」
「あまり余計なことは言わないほうがいっか」
「ハイ」

私のことでコリンが悩み、リンク達を困らせ、レナード牧師に疑念感を抱かせ、イリアを泣かせて。私はどうして役に立てないのだろうか。どうしていつも、いつも迷惑をかけてしまうのだろうか。

「私は、どうしてこのように迷惑をかけてしまうのでしょう」
「迷惑だなんてそんな!思ってなんかないよ」
「私、まだマスター達と、離れたくない、です」
「name……」
「マスターを、守りたいんです。イリアも、村の人達も。だから、まだ」
「name、誰もnameのこと、突き放したりしないよ」

コリンは立ち上がって私の前に立ち、真剣な面持ちでそう言った。リンクは違う、金色の瞳に偽りはなかった。

「レナード牧師はリンクがきっと説得してくれるだろうし、村のみんなもきっとnameを助けてくれるよ。それに…」
「それに?」
「リンクは、絶対にnameを守ってくれる」

根拠もないのに、確証のあるその目を見ていたら不思議と胸の中の蟠りが小さくなっていくのを感じた。にっこり笑うコリンを見ていると、とても胸が暖かくなった。早く、リンクに会いたいとそう強く思った。

「name、もしかしてリンクのこと好きなの?」

何気なく聞いてきたつもりなのだろう。それでも私はほんの少しだけたじろいでしまった。まただ、また好き≠ニいう言葉だ。好きとはなんだ、一体何なのだろうか。リンクを守るにあたって、好きというのが必要になってくるのだろうか。好きがなければリンクを守ることができないのだろうか。

前マスターとの記憶さえあれば、それさえあれば!

好きという、本当の意味が分かったのだろうか。

「私に、好きという感情が分かりません」
「ああそっか。うーんどうしよう。えっと、それじゃあnameはリンクと一緒にいると胸が苦しくなったり、一緒にいたいって思ったり、暖かい気持ちになったりしない?」
「暖かい気持ち……」

リンクに見つけてもらってから、確かに私は変わった。プログラムだって、以前より大分甘くなったと思う。リンクを守りたいと思うようになってから体が熱くなったり、プログラムの作動がおかしくなったり、苦しくなったり、何よりリンクの傍にいると落ち着くようになった。

「コリンが言ったこと、全てに当てはまります」
「僕もよく分からないけど、ベスが言ってたよ。そういうことを全部ひっくるめて好き≠チて言うんだよ!」

雷にでも打たれたような気がした。

この、胸の苦しみなどが、温かくなる気持ちなどが、好き≠ニいう感情なのか。ああ、思い出した。前にも味わったことがあるこの感覚、好きというのか。これは恋、恋だと、前マスターは教えてくださった。そうか、私、リンクに恋をしているのか。

そうだと分かればコリンはニヤニヤと笑いながら何か言いたげな顔をして私を見てくる。言いたいことがあるなら言えばいいのに、そう思って口を開こうとしたら馬の鳴き声に妨げられた。何かと思い視線を辿れば、そこには月明かりに照らされるリンクの姿が。

「っはあ………ッ。name…っ、迎えに、来た」

肩で大きく息をするリンクの姿を見れば相当急いでこちらへ向かってきてくれたのだということがいやでも分かった。

リンクの方へ歩み寄って頭を下げると、大きな手が私の頭を大きくかき回した。「無事で良かった」というその言葉に顔を上げてみるといつの間にか愛馬から降りていたリンクがとても強い力で私を抱きしめていた。首元に顔を埋めると何処と無く嗅いだことのある懐かしい香りだった。
視線の奥にいたコリンは小さく手を振り、教会へと戻っていった。

「帰ろうか」

そう言ったリンクの声は酷く優しく、それに私はただ「ハイ」と一言返事をして村へと歩みを進めた。特に会話もしない私たちの間には足音がただ響くだけだった。
恋慕

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