name。

イリアがそう言ったのと同時に私に制御がきかなくなった。プログラムが再起動を繰り返している。nameって何?ああ、そうだ。マスターが私につけてくださった名前だ。とうしてこんな大事なものを忘れていたのだろうか。ああ、ダメだ。これ以上再起動を繰り返していたら本当に取り返しがつかなくなる。強制切断しなくては……。

「あ!やっと目が覚めたのね!」

イリアの声にうつらうつらとしていた俺も目がさめる。やけに風呂が長いなと思ったらイリアが半泣きでこっちへ駆け込んできて急いで風呂場に向かったら少女が倒れていたわけであって。とりあえず風呂から出して寝かせて様子を見ていたのはいいけど、丸3日。少女は丸3日眠ったままだった。

「大丈夫か?」
「はい、ご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした」

深々と頭を下げる少女を見てはこちらも胸が痛くなる。

「name、今日は私たちと一緒に街へ行きましょ!」
「name?」
「やだ忘れたの?この間も説明したでしょ、リンク。この子の名前よ」

ああ、そうだった。この間イリアが見たものすべて説明されたんだった。

体は生身の人間が使われていて、体の中は鉄でてきていて武器だらけだということ。どうも信じられないがイリアの酷く動揺していた様子じゃ信じないわけにもいかない。

「マスター、もう一度自己紹介をします。名はname、人間型大量殺「どわー!いいから!nameな!うん分かったありがとう!」……そうですか」

彼女の口から“殺戮兵器”だなんて言葉は聞きたくもない。ため息が出てしまう。俺のそんな様子を見てnameは首を傾げ、イリアは何か言いたげな顔をしている。とんだものを見つけてしまったもんだ、本当に。


俺たちはnameの意識がなかなか戻らず、何日もテルマさんのお店にいるというのも迷惑だからnameを連れてイリアと3人で村に帰ってきた。子供達も村長たちも、俺が女を連れて帰ってきた!って大騒ぎしている。後ろではイリアとnameがワイワイ騒ぎながら(主にイリアだけど)楽しそうに話しをしている。いいよなあ、お気楽で。

「さあリンク!町へ行くわよ!」
「行ってらっしゃい」
「何言ってんのよ」

チラリとイリアに目をやるとエポナに指を差しながらさっさとだしなって目で訴えてくる。どこのどいつだよ、エポナにもっと優しくしろとか言ったやつは!

ウダウダしながらもなんだかんだ町に行く準備をする俺。先に2人を乗せてからそれに続いてエポナに乗る。そういや、町に行くって言ったって何をするんだ?

「イリアー、何しに町に行くんだ?」
「テルマさんにnameの目が覚めたっていう報告と、nameの洋服を買いに行こうと思って」
「イリア、私に服など必要ございません」
「そうだよお前の貸してやればいいだろ」
「それがサイズ合わなくて」
「俺の着せればいいだろ」
「バカ言わないでよいくら兵器でもnameは女の子なのよ誰がアンタのくっっっさい服着たいと思うのよ」
「てンめ…!!」

振り返ってイリアを見るとニタアと笑ってる。この手綱を離して今すぐにでもどついてやりたい。当の本人はぼーっと遠くを見ている。どこを見ているんだか。

「nameだって新しい服欲しいわよねー?」
「兵器に物欲なんてあるわけないだろ」
「何よリンク、nameを兵器扱いするなとか言ったくせに自分が兵器扱いしてるじゃない」
「あ、あーー…」

すごい無意識で言葉を発してた。違う、俺はちゃんとnameを1人の人間としてみてる。そんなつもりはなかったんだ。

「name、ごめん、本当にそう思ってるわけじゃないんだ」

nameはまだぼーっと遠くを見ている。そこには何もないのに。それなのにどうして重点的にそこを見つめる?

「…ーーーリョウ…2……いや、……5………」
「name?」

イリアも心配になったのかnameの顔を覗き込む。すると途端にギョッとして大変!と言ってnameの肩を揺さぶる。俺もチラリとnameの顔を見ると瞳孔が細くなって、例えるなら、そう、敵意剥き出しの猫の瞳。

「斜め左前方に敵確認、数は5、戦闘モードに切り替えます」

何を言ってる?

こんな昼間から敵が出てくるわけがない。出てきたとしてもそれは真夜中だけなのに!

nameと同じ方向を見たら言った通り敵が5体こちらへと迫ってきていた。とっさにエポナから飛び降りた。柄に手を伸ばしたと思ったら空を握っていた。しまった、たかだか町に行くだけだと思って剣を置いてきてしまっていた。

「イリア!小太刀貸して!」
「待ってリンクnameを止めて!」

ハッとした。エポナにnameが乗ってない!もしやと思い敵の方を見ると、ほら言わんこっちゃない。nameが敵に向かって行ってしまっているではないか!

「クソッ、やめてくれよ…!!!」

nameの元へ駆ける。お前は兵器じゃないから、やめてくれよ、殺しなんてしないでくれ。

「nameやめろ!」

言葉が届かない。nameはどんどん敵をなぎ倒していく。胸が痛い。兵器として、これが当然のことなんだろう、本来の使命なんだろう。

でも、女だ、nameは。いくら敵だといえどもこんなことしていいわけではない。

「残り1体。終わります」

nameが腕を瞬く間に大砲へと姿を変えた。あんな小さい体のどこにそんなものを仕込んでいるのだ。残り1体の敵、自分の身に危機を感じたのか、呻き声を出している。自爆でもするのだろう、そう思ったんだ、俺たちは。でも、体から鋭いトゲを放ちながら自爆をした。爆煙が凄くて顔を伏せてしまう。

「name!!!!」

イリアの悲鳴が聞こえる。nameに何があったんだ。煙が晴れてきてnameの姿が見える。シルエットがおかしい。目を凝らすとさっき敵が放ったあのトゲが何本か貫通しているではないか!

「おいname!大丈夫か!!」
「何をそんなに慌てているのですか、お二人とも」
「だ、だって、そんな、身体が…!」
「大丈夫、痛覚はありませんから」

「痛覚はない」という言葉に不本意ながら安心してしまう。だが、あまりにも痛々しい姿を見ていられなかった。本人は本当に何もないのかケロリとしている。心配する俺らをよそに体に刺さっているトゲを引き抜いては修復中…と言いながらみるみるうちに穴が空いた体を塞いでいく。本当に、nameが人間じゃないんだということを今一度思い知らされた瞬間でもあった。それと同時に、どうしてnameがこんなことをして傷付かなくてはならないのだ、と思った。涙を流すイリアの頭を撫でながら、俺はnameに問いかける。

「name、どうしてお前は殺す行為をした」
「どうして?それは私のするべきことだからです」
「俺、最初に言ったはずだ。人を殺すなって」
「はい、確かに仰られました。ですが、さっきの化け物は人間ではありません。人間以外は殺すな、とは言われておりません」
「…それは」
「それとも、マスターはあの化け物を人間とでも仰るのでしょうか?」

何を言い返せなかった。確かに俺は人間を殺すなとは言ったがああいう化け物を殺すなと言わなかった。

「マスターが今ここで殺戮行為をやめろとと仰るのであれば、私は抵抗します。私の本来の使命は殺戮行為ですので」

従いかねます。

そういったnameの目は敵を倒すときのあの目と同じだった。マスターである俺を殺してでも殺す行為をしなくてはいけないのだろうか。一体何にそんな殺すことに執着しているのだろうか。

「………分かった。じゃあ、俺たちを守るために、さっきみたいなやつらを倒して、くれ」
「ハイマスター」

nameが元に戻った、と思う。いつものnameだった。泣きじゃくるイリアを見て不思議そうに首をかしげるname。もしやとは思うけど、痛覚もなければ、感情もないのか?殺すためだけに造られたから、それ以外のものは全て切り捨てられたというのか?

「なんでnameがこんな使命背負わなくちゃいけないのよ…!」

イリアが言う。俺もそう思うよ。何千年も前からたった独りでこんなことをしてきているのだと思うとますます苦しくなる。nameは相変わらず首を傾げている。

君が人間だったら、この苦しさに涙を流すのだろうか。不意にも、俺は君が人間だったらいいのに、と思ったよ。
無痛

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