「なんだいリンク!この女の子は!」

とりあえず酒場まで少女を連れて帰ってきたのはいいけど、兵器探しに行った俺が女の子を連れて帰ってしたことに驚いた3人が、目を丸くした。イリアなんか鋭い目で俺を見てくる。すっごい怖い!ナンパしてきたわけじゃないのに。(ていうか一回もしたことない)

「私は人間型殺戮兵器です」
「おお、喋った!」

あった時に比べたらだいぶ訛りがなくなってるみたいだ。あまりにも完成度が高い少女を見てシャッドは興奮しているみたいだ。イリアもさっき俺に向けていた態度とは打って変わって少女に興味津々みたいだ。テルマさんはなんとも言えない目で俺を見てくるけどそんな目で俺を見ないでくれ。俺だってよくわからないんだから。

「……あなた、ところどころ汚れてるわね。私と一緒にお風呂入りましょ!」
「お、おいイリア!何いきなり……」
「私にお風呂に入るなどという行為は必要ありません」
「いいからいいから!ほら行くわよ!」
「私はマスターの命令にしか従えません」
「マスター…?」

怪訝そうな声を出したのと同時に手をこっちへ向けてきた少女。みんな一斉に俺を見る。軽蔑した目で俺を見てくる。

「リンク!!!!あなたやっぱりこの子連れ去って……」
「違う!誤解だ!俺はそんなことしてない!」
「じゃあマスターってなによ!」
「いやだからそれは……」
「私の前マスターが亡くなったことを思い出し、データには私を見つけた人をマスターに登録するとインプットされています。ですので、リンクを私のマスターに登録しました」

俺らの仲介に入った少女の説明を聞いてイリアは押し黙った。まだこの少女が兵器だと納得していないみたいだからなんとも言えない顔をしている。一気に場の空気が重くなった。少女は何が何だか分からずほんの少し首を傾げた。

「えっと、あ、とりあえず…キミはイリアと一緒にお風呂に入ってきて」
「ハイマスター」

とりあえず少女を入りあとお風呂に行かせることにした。イリアは目で俺にありがとうと言いながら少女を連れて酒場の奥へと消えていった。

張り詰めた空気がほぐれたのと同時に息を吐く。「大変だったねェ」と笑うテルマさんを横目でチラリと見ながら俺はテーブルに突っ伏した。







リンクが連れてきた女の子。人間型殺戮兵器だって自分から言っていたけどそんなの信じられるわけがないわ。こんなどこを見てもただの女の子にしか見えないような子がそんな兵器なわけがない!お風呂に連れてきたのはいいけどどうしよう。もし本当に平気なら壊れちゃうかな…。

「ねえ、あなたはお風呂に入っても平気なの?」
「私には防水プログラムが搭載されていますので大丈夫です」

特に問題はなさそうでよかった。にしても、本当に兵器なのかしら。これで人間だったらこの子もリンクも引っ叩いてやるんだから!

服を脱いで風呂へ行こうとするとまだ衣服を着たままの兵器ちゃん(名前後で聞かなくちゃ)も私の後について入ろうとする。私は慌てて止めた。

「待って待って!服脱がなくちゃ入れないわよ!」
「そうなのですか?ではお風呂に入る際には服を脱ぐということをインプットしておきます。」

ま じ で す か。
どこからか鳴っている電子音を聞きながら兵器ちゃんが脱ぐのを待つ。もしかしてもしかすると常識がない女の子ってだけなんじゃないの?この子。色々と聞きたいことがあるな、今日のお風呂少し長くなりそう。ぼんやりそんなことを考えながら電子音に耳を傾ける。

あれ、そういえばこの音はどこから聞こえてるんだろう。兵器ちゃんのお待たせしましたという声で我に返る。気づけばあの電子音も聞こえなくなっていた。


湯船に浸かると今日1日の疲れがドッと抜けるような気がした。兵器ちゃんはというと息を漏らすでもなく何を言うわけでもなくただ湯に浸かっているという感じ。演技が上手いわね。でも、この子が兵器じゃないっていう証拠は今掴んだわ!さっき脱いだとき見て分かったの。服の下は生身と人間ということがね!確証を得るためにこれからいろいろ聞き出さなくちゃ。

「自己紹介が遅れたわね、私はイリア。あなたのマスターの幼馴染よ」
「イリア、マスターの幼馴染。インプット完了です」
「あなたの名前を教えてくれるかしら?」
「私に名などありません」

手強い。なにこの初っ端からの手強さ。リンクどうやってこんなの攻略したの?

「じゃ、じゃあ昔よく呼ばれてた名前とか…」
「昔、ですか。…………記憶をたどりましたが呼ばれたことはございません」

本当に兵器なの?呼ばれたことがない人間なんているわけがないのに。考え込んでいたら兵器ちゃんの目がチカチカし始めてさっき聞いたあの電子音がまた聞こえる。どこからとかじゃない。兵器ちゃんから聞こえる。

「ちょっと!」
「記憶が消えています。欠陥しています。名を思い出すにはデータ復元が必要です」
「今はいいわよ!今はしなくていいから!」

そういうと兵器ちゃんは大人しくなった。確証を得るどころか、確信してしまった。この子が兵器だということ、人間ではないということに。頭が回らない。こんなことって有り得るの?

「……兵器だって言ってたけど、その体はどう見ても人間だよね?」
「そうです。元は人間の体で造られていますから」
「え?!」

どこからが本当なの?どこからが嘘なの?
じゃあこの子は人造人間だっていうことなの?シャッドさんが調べた情報によれば、何千年も前からある兵器だっていうのに、どうしてどこ一つも腐敗していないの?

「この世界で初めて起こった戦で、一般市民が巻き込まれたのです。その巻き込まれたのがこの身体の娘様なのです。娘様を亡くされた父親は悲しみから機械でもなんでもいい、生かしたいが一心でラネールの船上員に私を造らせたのです。
ですが、その時と同じタイミングで世界が滅びそうになり、それを恐れたラネールの船上員たちは無断で殺戮兵器へと変更し造り直したのです」
「ちょ、ちょっと待って、成り行きを聞いてるんじゃないの!そんな、何千年も前からその体が使われているのにどうしてどこも腐敗していないの?」
「製造工程のことは私のデータにインプットさらていません。ですが、何らかの方法で朽ちない体にしたのではないかと思われます」

はあ、と大きいため息が出た。話し出した内容からするとどうも前に読んだ文献と合点がいくところはある。殺戮兵器のことは記述されていなかったけれど、ここまで詳しいことがわかるのって、もしかしたら本当に……。

「今は生身の人間ですが、モードチェンジすれば鋼の体になることも可能です」
「そうなの?じゃあ体の中はどうなってるの?」

鋼の体とか言われてしまったら見てみたくもなる。リンクやシャッドさんほどではないけど、私だって多少は男の子が好きになるようなものにも興味があるのよ。

不思議ときになっていたからだのなかか、きっと中に鋼の体になれるのが隠されているの、そう思って何気なく聞いてしまったことに私はのちに後悔する。

兵器ちゃんが急に立ち上がったかと思うと急に自分の眼球を押した。驚いた私はその行為をやめさせようとした瞬間、兵器ちゃんのお腹が開いた。中に入っていたのは臓とかそういうのじゃなくて、というか、臓があった面影もなくて、中は全て鉄になっていた。鉄の壁にいくつもの武器が収納されていた。見たことのない武器や、私もたまに扱う小太刀だったり、爆弾だったり。兵器ちゃんの本来の使命であろう、人を殺す、ありとあらゆるものが中には詰め込まれていた。当然、私は言葉を失うわけであって。ただただ呆然とその中を見ていた。

「私のナカに入っているのはこれです」

淡々と喋る。内容が頭の中に入ってこない。見た目が同い年くらいの女の子だったから、何処と無くこの子と仲良くなれるかもしれない、そう思っていた。それを一瞬に打ち砕かれた気分だった。

「ですが、私のここには、ココロがあります」

ココロ、という言葉に反応して顔を上げてみると、その手は確かに自分の胸へと当てていた。

「前マスターとの記憶はありません。ですが、この言葉を言えば人間は安心する、と仰っていました」

そういうと兵器ちゃんは静かに腰を下ろし、湯に浸かった。もしかして、前マスターは兵器ちゃんに人間の心を取り戻そうと…?

「ねえ、前マスターからなんて呼ばれていたか覚えてる?」
「申し訳ございません。記憶が欠陥しておりますので………」

前マスターはきっとこの子に名前だの、生き方だの教えていたはず。でなければ、あんなこと兵器ちゃんに言うようにしたりしないはず。きっとこの子の記憶がなくなるはずだ、とかそういうこともわかっていたはず。

私は兵器ちゃんを立たせると体の隅々を確認した。前マスターとの記憶だけ欠陥するのはおかしい、それはきっと誰かが意図的に消したに違いない。消えてしまったら、兵器ちゃんは自分の名前を忘れてしまう。それを考えた前マスターはきっと体のどこかに名前を残したはずよ。

「あったーーー…!」

首の後ろに、思っていた通り名前が彫ってあった。名は、name、というらしい。私はぽつりと名を呟くと兵器ちゃん(あ、nameか)は急に倒れこんでけたたましく電子音を鳴らした。「欠陥した記憶の一部修復中」だなんて言っては目の色がチカチカと光っている。

不意にもキレイ、だなんてそんな。
想起

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