「あ、ハジメマシテ。ようやく会えたね!」
「……………アナタは?」
「キミの体の持ち主だよ」
目の前に立つ、私と瓜二つの姿をした女の人がそう言う。まあ、姿が同じなのだから答えはきっとそれしかないのだろうが。というか、ここは一体どこだろうか。何故私はこんなところにいるのだろうか。消えきれなかったのだろうか。
「不思議なもんだよね、兵器が人の心、感情を理解して、まさかデータとして消えるんじゃなくて、霊になるんだもん。具現化?具象化?ってやつ?」
「…………何を言って」
「だからつまり!キミに魂が宿ったってことになるの!もーすごいよね!」
ヘラヘラ笑うその少女は私にそう言う。全く理解することができない。私が霊?魂?何を言って…。
「私の体を使って何してくれるのかと思ったらこんなに大変なモノ作っちゃうんだもん。ビックリして何も言えなかったよね〜」
「アナタ………」
「…自分の体の行方が気になっちゃってさ。死んだのに成仏できなくって!だから、この長い間、ずっとキミのこと見てきたよ」
どう言葉を返したらいいのかが分からなかった。ただただずっと笑みを浮かべる少女に、私はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「アナタ、nameっていうんでしょ?」
「……」
「私もね、nameって言うの。だから、ちゃんとあなたに名前が付けられて良かったって思ってるの」
「ッ、!」
「それとね、あなたが好きになった、マスターね。最後のマスターとその前のマスター。リンクって、言うのでしょう?」
「……………ハイ」
「私がね、好きだった人の名前もリンクって言うのよ」
キミの好きになった人が、私の好きになった人と同じ名前で良かったと思ってるの。そういう少女の顔は、とてもとても綺麗で、まるで私とは違うと思った。それにしても、なんという偶然なのだろうか。彼女の名前と、想い人、偶然にしてはできすぎてはいないだろうか。クラクラする頭に手を当てて、息を吐く。
「ねェ、キミ、本当にあんな終わり方で良かったの?」
眉をハの字にさせながら尋ねてくる少女に私はキュッと、口をつぐんだ。ずっと見ていた、というのだからきっと最期も見ていたのだろう。マスター、無事ですか。どうか彼を責めないでやってほしいのです。きっとこれが運命だったのです。
『……レナード牧師、』
『…ッ、』
『お時間を、頂けないでしょうか』
『……何…?』
『マスターと、話がしたいのです。全てを伝えたら、私は、アナタの望む通りにします』
『…………キミは、本当に…それでいいのかい…』
『マスターを苦しめることが、私は辛い。マスターには笑っててほしいです』
『…これを、渡しておく。これを砕けば、キミは』
『砕けばいいのですね、分かりました』
砕けばいいと言われ、渡された石。思えばあれはきっと遠隔操作で爆発するものだったのだろう。言いたいことは、もっとあった。でも、本当に伝えたいことを伝えることが出来たから、悔いなどはない。
ああ、兵器なのに、随分と人間ぽくなってしまったモノだ。元々、人間と、兵器だ。交わることなど許されなかった。好意を抱くことなんて、もっての外だった。これでいい、これでいい。
私がいなくなりさえすれば、国が滅ぶ危険性も無くなるし、何かに怯えずに生きなくたって済む。マスターだって、きっと、苦しまずに済む。きっと。イリアも、コリンも、テルマさんも、村の人や、城下町の人々、マスター。
きっとみんなが、笑顔でいられるようになるはずなのだ。これで良かった。
「あんな小さな爆発で体が吹っ飛んだのも、きっと寿命だったんだろうね」
「…かもしれないですね」
「あれだけ大暴れしてきたのに、すごいよ本当。むしろ今までよく保ったねって感じ」
少女はそう言う。でも、本当は私が自ら修復機能を削除したということ、知っているのではないだろうか。含みのある笑顔を見てると、すべて見透かされているような気がしてならなかった。
「…………望まない終わり方なんてしなければよかったのに。泣くくらいなら、本当にしたかったことしたら良かったのに!」
突然声を荒らげた少女に目をぱちくりさせる。望まない?何を言っているのだ、私はこれでよかった。私はこれを望んでいた。泣いてなんか、いない。私はヘイキだ。涙は出ない設計になっている。そう、自分に言い聞かせても、頬を伝う生暖かい涙を止めることなんてできなかった。
「ねェ、もう、兵器じゃないんだよ。キミは、人間。1人の女の子なんだよ。」
「違う、違う」
「違くなんてないよ。キミは人間なんだよ。ねェ、あんな終わり方で本当に良かったの?」
「良かった、あれで良かった」
「………………そう、そっかぁ…」
小さな、小さな声で言った少女はとても泣きそうな顔をしていた。私が本当に人間だったのなら、きっとあんな終わり方をしなくたってよかったはずなのだ。
あ、私後悔している。どうしてだろうか、私が望んだことなのに。どうしてこんなに胸が苦しいのだろうか。いくら考えても答えが見出せなくて、涙がどんどん溢れてきて、頭も、胸も痛くて。誰も苦しめずにいれると思ったのに。マスターが頭から離れない。マスター、マスター。
「もう、いかなくちゃ」
ポツリと呟いた少女の方を見るとうっすらと身体が透けていっていた。まだ悲しそうな顔をする少女を見つめると、ほんの少しだけ微笑んでくれた。
どうしてだろうか。気が付くと、自分の身体も透けていた。これで、本当にサヨナラだ。
ありがとうマスター。アナタを好きになることが出来て、私は幸せでした。
吐露
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