「リンクくん、辛いのは分かる。だがキミなら分かってくれるはずだ」

辛いのは分かる?俺が分かってやらる?ふざけんな何を言ってやがる。俺の気持ち、レナード牧師に分かるわけがない。分かってたまるか。レナード牧師の気持ちだって、微塵も分からない。分かりたくもない。危険性がどうのとか、ハイラルが滅ぼされるだとか、あーだこーだ熱弁されたけど、それがどうした。nameが仮に暴走したとしても、マスターである俺が止める。それだけだ。

nameが俺の言うことを聞かずに暴走するだなんてこともありえない。俺たちは、信頼し合ってる。きっと。睨み合いも平行線を辿るばかりで一向に折れる気がしない。

「………レナード牧師、俺は、アナタの言うことも、これからしようとしていることも、理解なんてできませんよ」
「それは…残念だ。ても、私の気持ちは変わらないよ」

これ以上近付くのであれば、キミも。と言いたそうな目で困ったように笑うレナード牧師。nameがそっちにいる以上、こっちも下手に手を出せない。

nameはというと、ずっと俯いていて顔が見えない。なあ、お前今何考えてんだ?お前は何一つ悪くない。何も考えなくていい。お前は、俺が守るから。だから何も考えなくていい。俺のそばにいてくれればいいから。この間みたいに、一緒に朝飯食って、洗濯物干して、くだらないことで笑って、何気ない日を、俺と一緒に過ごしてくれればいいから。

「……レナード牧師、」

ポツリ、とnameが口を開いた。二人で何かを話していた。何を話して今のかは全く聞こえなかったが、話に一区切りがついたのか、顔を上げたnameの表情は、出会った当初のあの鉄仮面のような感情一切読み取れない表情をしていた。

レナード牧師から何かを受け取ったnameは俺の方へと寄ってきてエポナをただただ撫でていた。よく分からないけど、一先ずnameがこっちに来てくれたのだから、連れて帰るしかない。グイッとnameの手を引いて、来た道を辿って帰る。帰り際に、横目で見たレナード牧師がとても辛そうで、今にも泣きそうになっていた。泣きたいのはこっちだっていうのに。


nameに頼まれ、イリアとエポナを先に帰らせた。ぎゅ、と俺の服の裾を掴むnameは一体何を考えているのだろうか。顔を覗き込んでみるけど、瞼が閉ざされていて何を考えて、何を思っているのかが分からない。

「マスター、私は……」
「name。お前レナード牧師に感化されて変な事考えてないよな?」

口を開いたかと思ったら、その言葉の先が怖くて、聞きたくなくて俺はnameの言葉を遮った。だから、nameは悪くない。いなくなる必要だって、何一つ無いんだ。

「マスター、聞いてください、マスター」
「……何だよ」
「私が、人間だったら、誰も苦しまず、誰も涙を流さずにいたのでしょうか」

顔を上げたname。なんつー顔、してんだ。

「マスターを守りたい。守りたい。でも、マスターのことを考えるのであれば、私は、私は…」
「何訳分かんないこと言ってんだよ!いいから、いいからもう。何も考えなくていい。お前は悪くない!ただ俺のそばにいてくれれば、それでいいから…!」

このまま、このままだったら、nameが消えてしまう気がする。何も考えなくていいから。俺はただ、nameと一緒にいたいだけなんだ。

「name、もういいよ。俺と2人でどっか行こう。誰も俺らのことを知らない、新しい所に行こう。」
「マスター、それでは、いけない気がします」
「何がいけないんだよ!何もいけなくねェよ!nameと一緒にいたい!nameがいなくなる必要はねェって、言ってるだろ!いいから、俺と2人で行こう、な?2人で暮らそう。誰にも邪魔されないところに…!」

手を掴み引き寄せる。どこが、どこが危ないっていうんだ。こんなにも小さいっていうのに、こんなにも、人間らしいというのに!

戸惑うnameの声が聞こえる。離さない、離してやるものか。やっと分かり合えたんだ。やっと通じ合えたんだ。兵器でも、ロボットでも、なんでもいい。nameには心がある。俺たちと分かり合える。

「name、レナード牧師のところへもう一度行こう。それで説得しよう」

そういって様子を伺うと、どうも動こうとしない。どうしたんだ。

「マスター、私は、前マスターと、マスターから、沢山のことを教わりました」
「……………name…?」
「人としての在り方、人との関わり方、感情、生きるということ。教わっても、私に理解することができなかったこともありますが…、私は沢山のことを教わりました」
「何、言ってんだ…?」
「人間とは、面白いモノです。私が人間だったならと、何度思ったことか」
「…name、レナード牧師ン所、行こう」
「マスターを守りたいです。ですが、マスターを苦しめるのはとても辛いです」
「ッ、name!」
「マスター、……」

顔を上げたnameは何だかいつもと違うような気がして、息を飲んだ。言いかけた言葉を必死に紡ごうとしているnameが見ていられない。聞いたら、もう会えなくなりそうな気がする。もう終わりみたいなこと、言うなよ。俺達、これから2人で、暮らすんだ。まだまだこれから、だろ。

「マスター、ありがとうございます。私は、今までのどのマスターよりも、幸せでした」

name、待って。言わないで。

「ーーーーー…、マスターリンク、好きです」
「name…ッ!」

ゴォォン、と響いた爆発音。初めて見た、nameの笑顔と、涙。爆風に飛ばされた俺の体はピクリとも動いてくれない。ぼんやりと遠のく意識の中、nameの最期の言葉と、爆炎の中に見えた涙を流すレナード牧師の姿が頭から離れなかった。
決別

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