これはリンクくんのためでもあるんだ

彼の言った言葉が消えない。マスター、マスター。私はどうしたらいいのでしょう。マスター、マスター。あなたを守りたい。大切なあなたを、他の誰でもない、私があなたを守りたい。

レナード牧師に連れてこられた場所は、私とマスターが初めて会った所だった。これから何をしようとするのか、分からないわけではない。けど、実感が沸かない。彼をチラリと見ると、酷く悲しそうな顔で私に微笑みかけた。

初めて会ったときから、キミに違和感を感じていたんだ。名前も、どこかで聞いたことがあった。でも、コリンもルダもキミと普通に接する。私の気のせいだ、と思おうとした。

だが、どうしても気になって仕方がなかった。君の名前が。昔見た文献で見た気がしたことを思い出した私はその文献を必死に探し回ったよ。

そしたら、見つけた。
大昔に作られた、古代の殺戮兵器に付けられた名前だった。兵器に関する書物などはずうっと昔に全て破棄されたはずだったらしいが、なぜだかこの文献だけが残っていてね。他の文献とは見た目も違うし、手書きでとても不思議だった。印象がとても強かったんだ。

他のページはどれも染みやらで解読することができなかったけど、平気につけられた名前の1ページだけうっすらとだが残っていてね。

……キミももう辛いだろう。もう終わりにしよう。

リンクくんはキミに危険性は無いと言っていた。だが根拠が無いじゃないか。本当ことを言うと、私はキミが怖くて堪らない。大昔に国を何度も、いくつも滅ぼしてきたという話を幼い頃から聞かされてきたもんだから。ついこの間も、この国だって危険な状態だった。それをリンクくんが救ってくれた。

…そのリンクくんがキミを手懐けているのだから、きっと大丈夫だとは思う。それでも私は、キミが怖い。仮に、リンク君が亡くなったとして、キミはまた新しい主人に従くことになるだろう。その度に、また国を滅ぼすかもしれない。私たちの子孫にあたる人々が苦しむかもしれない。それはあってはならないことだし、もうそんなことをさせてはいけない。今のうちに、芽を摘んでおかなくてはならない。

……話が長くなってしまったね。すまない、機械のキミにこんなことを話したって、分かるはずもないか………。

すまない、私を許してくれ。
すまない、すまない………………。

恐ろしい≠ニいう感情だけ、どうしても私はそれを理解することができなかった。だから、どんな思いで彼は私を終わらそうとしているのかが分からない。第一、マスターでもない彼に従う義務なんて私にはこれっぽっちもない。

それなのに、何故だろう。

マスターのため、マスターが、笑ってくれるのであれば、マスターが、それで幸せになれるのであれば、私は、もう、終わってもいいと思ってしまっている。

でも、マスターを守りたいという意志もあって、さっきから視界がチカチカしたり、歪んだりする。考えたら、いけない。でも、本当にどうしたらいいか分からない。マスターが喜んでくれるなら、笑ってくれるなら、私は…。

キミが、これからの未来、リンクくんの幸せを願うのであれば。これは、リンクくんのためでもあるんだよ

ループされる、彼の言葉。マスターのため、マスターのためとは、いったいなんなのか。

ふと、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。あ、これは、マスターの…。
顔を上げたのと同時に、レナード牧師に手を取られる。そのまま歩を進める。何となく、後ろを振り返る。

もし、これが最期なのならば、マスターに会いたかった。伝えたいことが沢山ある。心なしか、胸が少しチクリと痛んだ。

「ッ、nameーーー!!!」
「マ、スタ…?」

聞こえた。

姿は見えないけど、今、マスターの声が聞こえた。マスター、マスター。レナード牧師にも聞こえたのか、またあの酷く辛そうな顔をする。何がそんなにあなたを苦しめているのか。歩みを止めてレナード牧師は一点を見つめる。私も、そこに視線を送る。

「ッ、はあ…!はあっ、はあ…っ。エポナ、ありがとな。ありがとう」
「………リンクくん」
「レナード、牧師……。nameを、取り返しにきました」

ああマスター。大切なマスター。私は、どうしたらいいのでしょうか。

マスターの後ろにいるイリアと目が合えば、彼女はその大きい瞳から涙を流した。胸がまた、チクリと痛んだ。
到来

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