花火なんてもうとっくに終わっている。nameが意識を飛ばしてから2〜3時間が経った。微動打にしないnameを見て焦る。

どうしよう、もしこのまま目を覚まさなかったら。俺まだnameに何も教えてあげられてないよ。トアルのご飯や、エポナの好きなものや、ハイラル平原にいる変な人のこととか、俺のこととか。まだ何も、教えてあげてないよ。

name、頼むから早く目を覚ましてくれよ。動かないnameの手を握り直したら、まぶたがほんの少し動いた。

「! ………name」

声をかけると小さく呻き声を出しながらうっすらと目を開けた。俺は咄嗟にnameの体を強く抱きしめた。

「……………マスター、苦しい、です」

小さく、細い背中に腕を回す。小さい。どこかへ消えていなくなってしまいそうで、とても恐ろしい。俺の服をクイッと引っ張りながら苦しいというnameに俺はごめんと言いながら、また強く抱きしめ直す。

「マスター、マスター。そのままでも、いいので、聞いてください」
「うん、うん、何?」
「前マスターのこと、失われていた記憶、すべて思い出しました」
「え?」

俺は耳を疑った。nameが、記憶を取り戻し、た?

「前マスターに私は生きるすべて、人としての在り方を、すべて、教えていただきました」
「……」
「記憶を取り戻した私は、人の感情を、理解することができます。嫌なこと、楽しいこと、すべて分かります」
「………name」
「ですが、それでもまだ、私には分からないことがたくさんあります」

背中に回していた手が緩んだのと同時にnameは顔を上げて俺を見る。相変わらずの無表情だけど、ほんの少しだけ表情が柔らかくなった気がする。

思い出してくれたのか、そっか。分からないことがあっても、俺が教えていくから。大丈夫だよname。

「良かった、ほんとに良かった、name、良かった」
「もうマスターに迷惑をかけることもありません、大丈夫ですきっと」
「迷惑だなんて思ったことない、分からないことがあれば聞けばいい。全部俺が教えるから」
「マスター、もっと、教えてください。この街を、世界を」
「もちろん、当たり前だ。俺のことも、教えてあげる」

そういえばほんの少しだけnameが笑ったような気がした。すくっと立ち上がったnameに合わせて俺も立ち上がる。

そうだな、もう時間も遅いし、帰ろうか。
急がなくても時間はまだまだたくさんある。これからゆっくり教えていけばいいし、知っていけばいい。明日からがまた楽しみになってきた。少し雰囲気の変わった彼女をちらりと見ながら帰路へとつく。

さて、朝ごはんは何にしようかな。
変化

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