城下町に来た俺たちはいつもより華やかな城下町に目を輝かせていた。屋台もおおくならんでいる。やっぱり、お祭りなだけあってどこも相当賑わっている。nameの手を引きながらあちらこちらへと見て回る。途中で屋台に寄って塩焼きを食べたり、射的をしたり。nameは射的センスが凄すぎて俺は勝てるわけもなかった。悔しい!

「少し座るか」
「ハイ」

村を出るのが少し遅かったのもあったせいか、大分暗くなってきた。屋台の光が夜の城下町を照らす。色んな色が交差して、綺麗だなあとぼんやりしているとクイッと服の裾を引っ張られた。

「ん?」
「マスター」

そう言って指を差すname。その先を見ると、そこにはシャッドが目を輝かせながら俺らを見ていた。ああ、何だその目は、メンドクサイな…

「やあリンクにname!」
「よおシャッド」
「こんばんは」

相変わらずウザい。物珍しそうな目で俺たちを見てくるあたり話のネタにでもしたいんだろう。やけに興奮して食い気味に絡んでくるシャッドに一発かましてやりたくなった。うーん、少しお酒臭いな。コイツ、酔ってる。

「奇遇だね、君たちもこれから花火を見に行くのかい?」
「花火?」
「あれ、知らなかったのかい?今日はお祭り最終日だから花火が上がるんだよ」
「へえ、そうなのか…」
「これからテルマさんたちと合流するんだけど………………あっ、いいか!君たちで見に行ってくるといいよ!」

ニヤニヤと笑いながら余計なおせっかいばかり焼いてきやがって!親戚のおじさん(っていう歳でもないが)じゃないんだからそういう冷やかしホントにやめてくれ引っぱたくぞシャッド!

なんて、そんなのを行動に移せるわけもなく引っぱたきたい衝動を胸に閉じ込めておく。それじゃあ楽しんでね!だなんて意味深な(あれ、そうでもない?)言葉を残して人混みへとシャッドは消えていった。変にからかわれたせいです本当に顔が熱い。クソ、あいつ覚えてろよ…!

あいつ、最初は処分しなくちゃしなくちゃって騒いでたけど、結局name見てもう随分興味湧いちゃって今じゃあんなだし。都合良すぎるよな、ほんと。俺も人のこと言えたもんじゃねえけどさ!

「マスター、花火」
「お、見たいか?」
「ハイ」

早く行きましょうとでもいいそうな、そんな楽しそうなnameを見ていたら自然と口角があがる。なかなか自分の意思を示したりしてくれないから、こういう意思表示をされるだけでとても嬉しい。俺は重い腰をあげてnameを見て微笑む。ほんの少し嬉しそうな顔をしたnameは自分から俺の手を掴んで歩き出した。

あのな、name。そっちは逆だよ。







良く見えるであろう場所はもう人がぎっしりで俺らもそこに加わって見るのはどうも無理そうに見えた。どこもかしこも人で溢れ返っている。参ったな、そろそろ打ち上げの時間なのに。

「なあname」
「ハイ」
「ここから少し離れた場所からでも大丈夫か?」
「見れるのであればどこでも構いません」

ああなんだ、なら最初からあの場所に行けばよかった。あそこなら誰もいないし、ゆっくり花火を見れる。俺はnameの他を引いて目的地へと向かった。


「ここは?」
「そこそこ良く見れるイイトコ」

俺が旅をしていた時に偶然見つけた場所。ほんの少し丘になっていて、周りは林だらけだけど一部分だけ円の形に空洞になってくつろげるスペースがある。少し休みたいとき、良くここに来たもんだ。

「ここに、こうやって…寝転がって」

寝転がって空を見上げる。円の形に空洞になってるから丸く空が切り取られたように見える。nameも俺にならって横に寝転がる。それと同時に花火が上がった。お、とつい声が漏れる。静かだ、花火の咲く音だけが響く。心地いい。

「綺麗だな」
「ハイ」

チラリとnameに目をやると目をキラキラと輝かせている。赤い目に夜空の色と打ち上がる花火の色が映り込む。不意にも、綺麗だなって。俺は無意識にnameの手を握る。何も言わずに手を握り返してくれるnameに俺は胸が踊った。

「マスター」
「ん」

声が近い、そう思って目だけをnameに向けると、nameは俺の方を見ていた。花火、まだ上がってるのに。

「聞きたいことが、あります」
「…ん?」
「何故、人間は笑うのですか」

え、そう声を漏らして俺は体を起こした。あまりにも真剣な面持ちで聞いてくるからもっと重要なことかと思っていた。や、でもnameにしとっては重要なことだ。俺ら人間を理解しようとしてくれている証拠だ。

に、してもだ。何故笑うか。そんな哲学じみたことを言われたって良く分からない。

「うーん、何故って言われたってもなあ…」

とりあえず、俺が最近笑ったことを思い出してみる。

ファドが羊たちに追いかけられていた。
コリンが俺のためにペーパーナイフを作ってくれた。
ベスが花束をくれた。
タロとマロと水遊びをした。
イリアがトアルパイを作ってくれた。

nameが、俺のことを想ってくれている。

「あれだ、面白かったり、楽しかったり…、嬉しかったりする時だな」
「面白い、楽しい、嬉しい…?」
「そう。んー、例えば今とか」
「今、ですか?」
「うん。nameとこうやって花火を見れる。一緒に祭りに来れた。俺それが嬉しいし、楽しい。だから笑顔になる」

そうやって、にいッと笑ってみせれば、nameは首を傾げながらキョトンとする。あ〜、伝わらないかなあ。なんと言えば伝わるのだろうか。俺が頬をポリポリとかいた。

「nameは今、俺といて楽しくない?」
「ココロが、暖かいです」
「あー、それだ。心が暖かくなったりするとき、俺たちは嬉しかったり楽しかったり、面白いって思うんだ」

それでも表情を変えないname。理解はしてくれているのだろうが、笑い方が分からないのだろう。俺はnameの口角を指でグイッとあげてみせた。ふ、変な顔。

「マスター…?」
「こうやって、口角をあげる」
「口角、をあげる…」

指を離してみるとぎこちないが、口角をあげて笑ってみせるname。ああ、やっぱり、この子は人間だ。

「楽しいときは、笑うもんだよ」

そう言うと、nameはハッとしたように身を固くした。一体どうしたというのだろうか。いくら呼んでも、肩を揺さぶっても、返事が返ってこない。

name、なあname、お前どうしたんだよ。俺の声、聞こえてるか?なあ、name。

頼む、返事をしてくれよ。name。







『name』
『何ですかマスター!今度は何のお話をしてくださるのですか!』

いつかの記憶が蘇る……この人は、誰だ……マスター…?

『君に、後ひとつだけ教えてあげる』
『何を教えてくださるのですか!』
『楽しいときには、笑って』
『楽しいとき…?』
『そう、自分にとって大切な人と一緒にいる時や、暖かい気持ちになったりしたら、こうやって、口角を上げて笑うんだ。じゃないと人間に自分の感情が伝わらないからね』
『こうです、か?』
『そうそう。とっても可愛いよ』
『あ、今あったかい気持ちになりました!ふふ、こういうときに笑うのですね!』
『name、楽しい?』
『ハイ、とっても!』

あ…これは、前マスターとの記憶だ。マスターは、全部私に教えてくれていたではないか。どうして私、私は大切なことを忘れていたのだろうか。リンクも、マスターも、姿が重なる。この二人は似ている。私は知っている。マスターを、リンクを。思い出せない。ああ、マスター教えて下さい。私は本当に大切な何かを忘れている。

遠のく意識の中、リンクの私を呼ぶ声だけが聞こえる。ああ、ごめんなさい。
微笑

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