レンタル彼女の件があってからというものの六つ子の彼女、…いや女性か? 女性に対する願望、女性へ対する欲望、女性への憧れというものがいやーーーに強くなった気がする。童貞にはきっとレンタル彼女刺激は強かったのだろう。トド松に見せてもらったレンタル彼女の写真を見せてもらったけど、だいぶ可愛い。女である私もこればかりは開いた口が塞がらなかった。これがあのイヤミとチビ太? 面影が一つもない。女体化するといえど、まさかここまで変わるとは思うわけがないじゃないか。当人達は六つ子にこっ酷く絞られたらしくレンタル彼女はもう懲り懲りだと言うが、そういう名目ではなくてもう1度女になってくれるつもりはないのだろうか。何なら私がお金を払うからもう1度女になってもらいたい。

そんな私の話はさて置いて、六つ子のことだ。そのレンタル彼女の件から私やトト子が松野家へ伺っても全くの無反応なのだ。私への反応は元々薄かったが、あれだけアイドルだ天使だなんだのと上げに上げまくっていたトト子へすら無反応なのだ。あのトト子だぞ。あの、トト子!(大事なことなので2回言った)

レンタル彼女中に1度トト子は六つ子達と顔を合わせたらしいがそのときも無反応。「私のことよりも他の女をとやかく言うなんて最低! 私の方がずぅっと可愛いのに〜〜! もう知らないんだから!」とぷんぷんという擬音を付けながら私に愚痴をこぼしていた。

レンタル彼女から数週間、彼らはまだ余韻に浸っているのだろうか。そろそろ抜けてきてもおかしくないはずなのだ。一向に自分を褒め讃えない六つ子達にトト子は呆れ果てたのか六つ子達の存在を認識することをやめた。まだいいじゃないか、私に至っては六つ子から存在認識をされていないんだぞ! 全く酷い話だ。同じ幼馴染のトト子と私では顔面偏差値は天と地ほどの差があるが、だからといって彼らは私のことを蔑ろにはしなかったのに。私もトト子のように六つ子のことを放ってはおきたいのだが如何せん幼馴染、子供の頃から育ってきた彼等を気にかけないなんて無理な話だったのだ。


「お邪魔しま〜す」


しょうもないことではあることだが小さなモヤモヤを抱えつつ松野家の扉を開けた。普段なら誰かが今から顔を出すか出迎えてくれるのに今日は何もない。誰もいないのか?と思い靴を確認すればそこには見慣れたサンダル1足しかなかった。


「いーーーちーーまつーーーーーーーーーーいるんでしょーーーーちょっと出てきてーー」


靴を脱ぎながら一応2階に聞こえるようなボリュームで呼び掛けて数分、2階からではなく居間の方からのっそりと不機嫌そうな顔をした一松が顔を出した。


「何しに来たの」
「お裾分け。てかいるならパッパと出てきてよ〜ちょっとこっちの荷物持ってほしいんだけど」
「それくらい自分でやれブス…」
「口の悪さに拍車かかってんね。ぶっ飛ばすよ」


私が松野家へ来たのもこのお裾分けを渡すためなのだ。料理教室に通い始めた母が最近ケーキ作りにハマってしまって家には家族で食べきれない量のケーキがあるのだ。現状のやばさに流石の母もそれに対してお裾分けをしてきて〜と私に頼んだという始末である。自分でやってほしいもんだ。

ああだこうだとは言うものの何だかんだで一松は頼んだ荷物だけではなく持ってきた荷物全部を持ってくれたし結構優しい所があるじゃないか、と感心。居間に持っていくまでにぶつくさと何か言っていたような気がするけど聞かなかったことにしよう。


「何持ってきたのこれ」
「ケーキ。お母さん作りすぎちゃってさ。アンタらいっぱい食べてくれるだろうなって思ったからいっぱい持ってきちゃった」
「へえ…今度はケーキ作りにハマってんだ……」
「いつもいつもお裾分けしてすみませんねえ」
「いえいえとんでもないです」


何のやりとりだこれ。クス、と笑うと何笑ってんだよと脇腹を殴られる。痛いんだよ地味に、殴らないでくれ。袋からケーキを取り出すと一松がキラリと目を輝かせたから食べる?と聞くとコクン、と頷いた。コイツら食べ物のことになると素直だよなあ…。何か飲み物があるなら持ってきておいて、と頼むとペタペタと足音を鳴らしながら台所へと向かった。…紙皿持ってきておいてよかったあ。







「あンま、美味すぎる。これマジで店開けるよ」
「それ何回目なの…」


松野家にお邪魔してから数時間。一向に他の奴らが帰ってくる気配がしない中私達は2人でモソモソとケーキを食べていた。飲み物持ってこいとは言ったけど一松が持ってきたのは緑茶だった。いやいやケーキにお茶って……。この組み合わせがいいんだよなんて一松は言うけどイマイチちょっと良く分からなかった。ずず、とお茶を啜りながら幸せそうな表情を浮かべる一松を見てまあいいか、と私もお茶を啜った。


「…あ、そういえばレンタル彼女のとき何でジュースしか飲まなかったの?」
「ッは?! 何でお前がそんなこと知って……いや、別に関係ないだろ…」
「いやまあそれもそうなんだけどさ、チョロ松とかトド松はデートらしいデートしてもらったわけじゃん? おそ松なんてハグしてもらったみたいだし」
「いやだからお前には関係ないだろって」
「それもそうなんだけどーーー! それもそうなんだけど! 話聞きたいじゃん。イヤミとチビ太相手にどんなデートしたのか〜って」
「煽ってんのかぶっ殺すぞてめぇ」


身を乗り出した一松にあははごめんごめんと言えばチッ、くそ…とボソボソ言いながら彼はまた座り直してケーキをつまんだ。あの闇人形みたいだった顔がケーキをつまんだ瞬間に綻ぶんだからこれはいいチャンスだ、もう少し話を聞いてみよう。


「カラ松と十四松は何したのかイマイチよく知らないけど一松はジュース飲む以外ほんとに何もしなかったのー?」
「もうその話はいいだろ聞くなよ」
「まあまあそう言わずに。他にやりたかったこととかないの? てか別にレンタル彼女しなくたってトト子とかいるんだし頼めばよかったんじゃ…」
「トト子ちゃんに頼めるわけないだろ頭沸いてんのかお前」
「私だっているし、」
「は? ブスに頼むわけねーだろ調子乗るな」
「お前マジで口の悪さの拍車やべえなマジでぶっ飛ばすよ」


こいつどんだけ私のことブス呼ばわりしたら気が済むんだ! 確かにトト子と比べたら天と地ほどの差はあるけどそんじょそこらの女子と比べたら中の上だと思うんだけど私?! ケーキも食べ切ったしちょうどいい、こんなのと話してたらイライラが募るだけだ。ぬるくなったお茶をグッと飲み干して勢いよくテーブルに叩きつける。ビクン、と一松が肩を震わしたのを横目に見て帰りますと言えば気だるげな目を少しだけ開いては?と声を漏らした。いや、は?じゃねーから。帰りますから。


「もう帰るのかよ」
「帰ります」
「まだいれば」
「いいえ帰ります」
「兄さん達に挨拶してけば」
「結構です」
「まだいろよ」
「こんなブスと一緒に一緒にいたって気分良くもないでしょーに! 一松くんは大人しくケーキ食べてましょうね〜」


荷物を持ってサヨナラ〜と爽やかなスマイルを繰り出して居間から出ようとしたら一松が持っていた荷物を思い切り引っ張って私は尻餅をついてしまった。い、痛ェ〜〜〜! 何しやがるんだコイツ! 一言文句を言ってやろうと顔を上げると馬乗りになった一松がにじり寄ってきていた。な、な、なんだ!? 何をしようとするつもりだ? 様子を伺ってるとボソボソと何かを言っている。何?と聞き返すも全く聞こえない。もう少し大きい声で言ってくれ!


「あーん、」


は?

素っ頓狂な声が出た。あーん。あーん? あーんとは。あーんとは何だ。全く理解ができずポカンと口を開けているとチィッと舌打ちが聞こえて肩が大きく跳ねた。


「あーんして欲しいつってンだよ!!」
「はあ?!!?」


あーん、って、あーんか! あのあーんか! あーんしてほしいのか! あ、それにしたって突然すぎやしないか? さっきまで自分でケーキ食べてたのにいきなりあーんしてもらいたいって? 何で?


「…………あ!!! 一松あーんしてもらいたかったって、あれか! レンタル彼女!! え?! あーんしてもらいたかったの?!?」
「うるさいな! いいからあーんしろよ! ほら! 早く!」
「強気?!!?! 頼んでるくせに強気?!」


胸倉を思い切り捕まれ揺さぶってくる一松にギブギブギブ!と声を上げる。そうだったのか、あーんもしてもらいたかったのか。一松に起こしてもらってお互い向かい合って座り直す。何だこの変な状況は! あーんするだけなのに何でこんな向かい合って必死こかなくちゃいけないんだ?
ケーキを掬って一松の方へと差し出す。あ、あれ、なんだこれ、やけに恥ずかしくなってきた。あーんするだけなのに。ぼわっと顔が熱くなるのも分かる。フォークを口元まで持ってきたのはいいけどあーんをさせるのが死ぬほど恥ずかしい!
それを察したのか少し身を乗り出して一松は私の手からケーキを食べた。果たしてこれはあーんと言うのだろうか。チラリと一松を見ると満足そうな顔をしているが顔はほんのりと赤くなっている。何だよお前も恥ずかしいんじゃねーか!


「………あ、あーん、あーんしたよね……も、いい? 満足でしょ?」
「こんなんであーんしたと思ってんの?」
「いっ、いや、それは……」
「……まあ、もう別にいいけど」


一松の言葉にほっと胸をなでおろす。何だ、これで満足してくれるなら良かった。さてもう帰ろう、そう思って立ち上がろうとするとギュッと手を掴まれた。


「な、なに一松」
「………レンタル彼女、で、あーんしてもらうのが……夢だった」
「うん………い、一応してあげ、たよね……」
「………彼女に、あーん、してあげるのも夢なんだよね」


そう言われた瞬間、ニタリと一松が笑って馬乗りになるではないか。驚いて抵抗をすると、彼は口に思い切りケーキを押し込んできた。


「っ、ぶあ! ちょ、何?! きったな! これあーんでも何でもないじゃん! 最ッ悪きったねえ!」
「じゃあほら、ちゃんと口開けてしっかり食えよ」


いつの間にか押し倒されて一松を見上げる。な、なんて悪い顔してるんだコイツ、ゲス顔の域を超えてる。こ、こんなこと彼女にするもんじゃあないぞ! ていうか私お前の彼女じゃない! レンタル彼女でもない! やめてと抗議の声を上げるも一松はヒヒッと笑ってまたケーキを私の方へ持ってくる。


「ちゃあんと口開けろよな」



ほら、あーん


2017.07.16

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