おっ、nameじゃね〜か!という呑気そうな声が聞こえ主を辿る。おーいなんて言うから声の先を見たらそこには仗助がいた。よ!なんて子犬みたいな笑顔でこっちに歩いてくるもんだから思わず仗助!なんて声を上げる。どっちが犬だ。

どうやら母親に買い出しを頼まれたみたいでわざわざ亀友まで来たらしいそれだというのに立ち話もなんだしドゥマゴ行かねえか?と仗助はいう。いいのか、母親に怒られてしまうんじゃないのか?と杞憂したが当の本人はなんてことないような振る舞いで私の前を歩き始めた。し、知らないからな…!とは思うものの意中の相手に誘われてしまっては嬉しくないわけもないので私も軽い足取りで仗助の隣へと歩いていった。


「コーヒーと…、オメーはどうする?」
「ミルクティーで!お願いします」


いつものテラス席に腰をかけてふぅ、と一息。時間は大丈夫なの?と再度問えば仗助はいーんだよとにんまり笑って言った。…
ああ、何だろう、なんてことないのに急に恥ずかしくなってきた。あれ、今までどうやって仗助と喋ってたかな。いやいやついさっきまで喋ってたろーに!頬にじんわりと熱が集まるのを感じる。う、うわ〜今絶対コレ顔赤いやつだ。恥ずかしい!顔あげられない!

そんな私の意図知らずお待たせしましたァ〜なんて語尾にハートが付きそうな言い方で店員が注文した品物を持ってきた。ああもう何だか勘には障ったけどナイスタイミング!奪い取るようにミルクティーを受け取ってぐいっと飲む。ああ〜ガムシロ入れてない!苦さに顔を上げてうえぇと声を漏らすと仗助はアホだな、と笑った。ああ、好き…その顔めちゃくちゃ好き…。苦さで引いていったと思った頬の熱がまた集まってきたような気がした。
豆鉄砲でも食らったような顔をしていたみたいで仗助は小首を傾げた。ああ〜好き!可愛い!そういうとこが好き!なんて死んでも口に出せない。体の底からじわじわと溢れてくる仗助への想いが爆発しそうになるのをグッ、と堪える。

そういえばよー、なんて仗助が口を開くからそれに合わせて顔を上げると遠くから仗助くゥ〜ん!と甘い声。声の方向を辿るとクラスの女子達がそこにはいた。こちらへと寄ってくる彼女達を見てため息が出そうになる。仗助をチラリと見ると唇の形がへの字になっていた。めっちゃへの字。康一が見たらダラダラと汗をかくかもしれない。

仗助の周りに群がってキャイキャイ騒ぐ彼女らをミルクティーを飲みながら眺める。口をへの字にしながらも仗助のやつ満更でもない顔しやがって〜〜!
次は私たちともお茶してねンだなんて言いながら彼女らは去っていった。嵐のようだった…去り際に私にバイバイnameチャンって声を掛けてくれてきたあたりまぁ〜だいい子達なのかもしれない。まァ〜〜だね。逆上タイプじゃなくてよかったと心の底から思う。


「はあ〜〜〜俺あンましああいうの慣れなくてよォ」
「とか言って満更でもない顔してましたよ東方くん」
「な、に言ってんだよ…」
「鼻の下伸びてる」


ヴ!と慌てて口元を手で覆う仗助を見て思わず吹き出す。


「冗談だよ」
「ンな!nameお前なァ〜〜!」


お互いケラケラ笑いながら小突き合う。はあ楽しい。彼女らに絡まれた余韻がまだ続いてるのかほんのり顔が赤い仗助を見て多少腹は立つがまあ、仕方ない。
確かに容姿は抜群にイイし、身長もそんじょそこらの男に比べればずば抜けて高い。高校生だし、ちょっと違う彼に憧れたりするのも分かる。というか普通に抱かれたいナンバーワン。
仗助ファンクラブなんてものも密かにあるらしく、入会(会員制なのかそういうのは詳しく知らないが)している女子生徒たちはやっぱり、まあ、なんというか、それなりに、可愛い。彼女らにとって仗助はアイドル的存在なのかそれともリアコなのか。まあ事情は人それぞれだろうけど、いやあ、仗助のやつ羨ましいなあ。


「仗助は彼女とかには一生困らないね」
「何だよ突然?」
「んや、ほら、ファンクラブの女の子達はそこそこべっぴん多いし、てかまあ普通に仗助モテるし〜…ね!困らないだろうなあって」


笑ってそう言えば仗助は飲んでいたコーヒーを吹き出した。おいおいきったねェなコイツ〜! ゲホゲホと咳き込む仗助に一応大丈夫か、と声を掛ける。じんわりと目に涙を浮かべながら仗助ははあはあと息を整える。


「なっ、ふぁ、ファンクラブ〜?! 何の話だそれ」
「何、知らなかったの? 仗助くんファンクラブあるんでちゅよ〜人気者なんでちゅよ〜」
「何だその喋り方。馬鹿にしてんのかオメー…? いっいやそれよりだ!ファンクラブ…お、俺にファンクラブ…!!」


驚きと喜びが入り混じった微妙な顔を浮かべる仗助に呆れる。やはり男だな。いやまあでも誰だってそうなるだろう。男でも女でも、自分のことを好いてくれてる人がいると知って嬉しくならないわけがないのだ。


「な、あのよ………………」
「ん?」
「そ、そのファンクラブって、あの………いやなんつーか……その…………………」
「何口ごもってんの? ハッキリ喋ってよ」
「…………お、お前もそのファンクラブに入ってんのか?」


何てことを言うんだこの男、今度は私が飲んでいたミルクティーを吹き出す羽目になった。な、な、何を一体…!!! 思わず立ち上がってワナワナ震える。そんな爆弾発言をした仗助はというと顔を真っ赤にし口を真一文字にギュッと結んで私を見ている。上目遣い。ば、ば、馬鹿野郎…!その顔、犬か!そんな目で私を見ないでくれ!


「ばっ、ば、バッカじゃないの?! 入ってるわけないじゃん! アンタ自分でそれ聞いて恥ずかしくないわけ?!?」


早口でまくし立てるといても立ってもいられなくなってひったくるように荷物を持ちその場から立ち去った。仗助が慌てて追い掛けてくるのが見えたけど構うもんか! バーカバーカ!


アンタも大概ね


2017.07.16

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