nameちゃんに抱く想いが歪んでるということは、もうずっと前から気付いていた。気付いたとき、もう何もかもが遅かったような気がする。

そうだな、あれは何年前のことだったかな。10年、前?だったかな。そう、10年前。
僕が学生だった時だ。彼女…もとい、nameちゃんは僕の家の近所に越してきた同い年の子だ。学校も同じで、僕らは年が近いこともあってとても仲が良かったんだ。
まあ、あの頃は僕達もまだ幼かったし、nameちゃんも子供だった。人見知りだったnameちゃんはいつも僕らを避けて学校ではひっそりと生活していたらしい。僕らにはとびきり可愛い女の子の幼馴染がいるけど、また違う可愛さをもった女の子が近所にきて、ちょっかいを出さないわけがなかったんだ。恥ずかしい話僕はおそ松兄さんと学生時代にやんちゃしていたから、うん。nameちゃんには申し訳ないことばかりしていたなあと思うよ。

好きな女の子にはちょっかいを出したくなるのが男、なんてよく言ったもんだ。その通りすぎて返す言葉も見つからない。

nameちゃんが越してきて2~3年経ったとき、少しだけ大人になった僕達は昔みたいにやんちゃすることもなくなったし、nameちゃんもオドオドビクビクすることもなくなった。顔を合わせれば気さくに声をかけるような仲になった。そう、さっき言った仲が良かったっていうのはここらへんで仲が良くなったんだよ。知り合ったばかりのときは仲良くお喋り、なんてしてるどころじゃなかったからね。

あーー、そう、僕がnameちゃんに好意を抱いたのも、ちょうどその頃。たまたま下校時間が重なって一緒に帰るときがあったんだ。その時はすごい雨で、お互い傘を持ってなかった僕達は雨が止むまで待っていた。僕は生徒会、nameちゃんは委員会でお互い下校時間ぎりぎりまで校舎に残っていて、そのとき学校にいたのは僕達だけだったんじゃないのかな。


「雨止まないね、どうしよっか」
「そうだなあ…もう今日は止まないだろうから弱まったときにでも急いで帰ろっか」
「…この気配だと弱まる感じしないけどね」
「あはは、それもそうなんだけどさ」


美化委員だったnameちゃんは外で活動してたときに雨に降られたみたいで大分濡れていた。濡れた髪の毛を鬱陶しそうに耳にかけるその仕草にぎゅうっと胸を鷲掴まれたような感覚がした。それにしたって、濡れたせいなのかシャンプーの匂いが、とても、とても…凄い。甘い。nameちゃんいつもこのシャンプー使ってるのかな?匂いにつられて身体がnameちゃんの方へ傾きそうになったそのとき、nameちゃんが不意に僕の方へと顔を向けたのだ。


「あ、」
「っ」


この時のことは鮮明に覚えてる。
雨の降る下校時間の過ぎた冷えた夕暮れ。近所に住む女の子の濡れた髪の毛から香るシャンプーの匂い。至近距離にあったnameちゃんの顔。

お互いの唇が触れたその瞬間、僕は彼女に恋した。

突然の事に頭が追いつかなかった。だって、今、僕…!咄嗟に距離を取ってごめん、そう言おうと思ってたんだ。すると彼女はふんわりと笑って、


「あは、事故チュ、しちゃった…ね」


なんて、そんな、何をそんな笑って。
ほんのり頬を赤くして、笑ってそういうんだ。こ、こういうときって普通はもっと恥ずかしがったりとか、もしくは嫌悪感剥き出しにしたりするもんなんじゃないのか?僕には分からなかった。拒まれなかったってことは、もしかして僕のことが好きなのか?じゃあこのままもう1回チューしたっていいってことにならない?いやいやいや、待て待てチョロ松。これは事故チュー。nameちゃんは優しいから場を悪くさせないようにああ言っただけなんだ。そう、きっと…きっとそう。そう、僕は必死に自分に言い聞かせた。

目の前にいるnameちゃんがあまりにも、あまりにも、あまりにも女だった。


そのあと、なんとも言えない空気でお互い顔を見合わせながらどちらから言うでもなくしきりと降る雨の中、ずぶ濡れになって帰った。服も、髪の毛も、荷物も全部全部濡れるというのにnameちゃんも、僕も走り出そうとはしなかった。ただお互いの手をきゅっと握って特に会話もせず家まで帰った。

家に帰ってからは、まあそりゃ怒られたよ。
制服も何もかもずぶ濡れだし、それよりもnameちゃんもずぶ濡れで帰ってきたから、兄弟も親も大騒ぎだ。幸いnameちゃんのご両親は僕のことを怒ったりもせず風邪を引かないようにと気にかけてくれた。nameちゃんも、ニコリと笑って「大丈夫だよ」とそう言った。



そしてそれから数年。
僕らはニートに。nameちゃんは大学生に。

あの日からnameちゃんに対する恋心は募り募っている。歪みきった、僕の、nameちゃんへの恋慕。


「おはようnameちゃん。体調はどう?優れないようなら薬とか出すけど…、あ。いや大丈夫そうかな?いつも通りだね。今日講義あるんだったけ?昼には帰ってこれるとか言ってたよね。そのあと出かけない?実は映画のチケット当たってさ。良かったら一緒に行きたいなあって思って。講義終わったらLINEしてよ。僕午前は行く所あるから…うーん、駅前のスタバァで待ってるよ。とりあえず講義終わったらLINEしてね」
「……、ふ、ちょ、ろ…」
「ん?どうしたのnameちゃん。やっぱり具合悪い?そういえば昨日の夜あまりご飯食べてなかったもんね。今日は大学行くのやめた方がいいよ。僕と一緒にいよう?映画もまた今度にしよっか。いつでもいいしね。nameちゃんの体調が優先だよ。何か食べれそう?お粥とか作るけど、どうする?何がいい?とりあえず水持ってくるね」
「ちょろ、まつくん、や、………ん、」



「────ッ、は!」


夢、だ。


「チョロ松兄さん、ちょっと大丈夫?魘されてたよ。やな夢でも見た?」
「………いや、うん……………ちょっと、」
「朝ご飯出来てるから降りてきなよ」
「うん。ありがと………………ヴワッ」
「……………うっっっわ! 何それガッッチガチじゃん……どんな夢見てんのちょっと………」
「いいから下行ってろよ!後で行くから!」
「そのまま来てもいいんだよーシコ松兄さーん」
「トド松コルァ!」


アハハなんて言って部屋から降りてく弟にため息が出た。夢だ。夢だよ。久しぶりにこんな夢を見た。nameちゃんと2人で暮らして、それで、それで…。ギュンと大きくなった下半身に思わず前屈みになる。


「………くそ、」


とりあえず自身をどうにかしなくては。いつものやつ、どこにしまってたかな。箪笥の奥にしまってあるはずのモノを探してみるも見当たらない。どこにやったんだったけ。机の引き出しを開けてみると、ああ何だ、ここにしまってたんだったけ。アイツらにバレちゃうじゃん。何やってんだか僕は…。


「っはぁ〜〜〜…、いい匂い……まだ匂い残ってるよ………………nameちゃん…」


nameちゃんの使っているシャンプーボトル。

あの日嗅いだ匂いが鼻から、頭から離れなくて僕はゴミに出されたnameちゃんのシャンプーボトルを貰ったんだ。あとついでに歯ブラシとか、ティッシュとか。この間なんかもうヨレヨレになった下着を貰ったんだ。案外貧乏性なのかな? ふふ、でもピンクのうさぎがプリントされてるんだよ。何だか幼女みたいじゃない?はあ〜可愛い。かっわいいなあnameちゃんてば、ほんと。

ああ〜〜〜〜テレビとか見てると、こういうことする人って俗に言うストーカーらしいんだよね。知らないけど。僕はただnameちゃんに関わるモノ全てが愛おしくて、愛おしくて、愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしいだけなのに。好きな人のことは全て知りたい、これって万国共通でしょ?なら僕のしてることはおかしくないんだよ。おかしくないはずなんだよ。

ああ、歪んでるnameちゃんへの恋慕。
やっぱりそんなことないのかもしれない。好きな子のことを知りたい、これは自然の摂理。僕は何も悪くない。早くnameちゃんに告白して付き合いたいなあ。付き合ったら、まずは今までの恋愛経歴を教えて貰って、あとはスリーサイズも。出生ももう1度詳しく教えてもらいたいなあ。そうそう、当たり前だけど好きな食べ物と嫌いな食べ物、好きなアイドルとかもいるのかな?地雷踏みたくないし嫌いなものとかも聞いておこう。あ〜、でもどうしよう!nameちゃんの嫌いなものが僕の嫌いなものだったら。うーん、まあでも、愛でどうにかなるよね。ああnameちゃん。好きだなあ。今日は何の服を着るのかな?昨日はスカートだったし、僕としてはあまり足を出してもらいたくないんだよね。スキニーとか履いてくれないかなあ。ああ、そうだ今日は何色の下着を履くのかな?でも昨日はお風呂に入らなかったみたいだし、朝風呂もしてないみたいだから昨日と同じ?てことは黒かあ〜。

なんてことをぼんやり考えてたら手にべったりとまとわりつく白濁色。急に脱力感に襲われた。あーーーー汚い。ティッシュどこだったけ…動くのもめんどくさいなあ。ていうか僕のこれ、nameちゃんにプレゼントしようかな。いつも僕だけが貰い物ばかりじゃ悪いしなあ。でもいきなり精子はやばいか。とりあえずもっと違うものをプレゼントしなくちゃ。あーーーーハロワ行くついでに良さげなプレゼントでも探すかあ。


「おはようチョロ松くん。今日もハロワ?仕事見つかるといいね〜おそ松達もちゃんと引っ張って連れていきなよ」


いつもと同じ朝。9時30分に家を出ると、決まってnameちゃんも家から出てくる。あ、今日はスキニーだ。ていうかちょっと僕と服装かぶってない?うわあ、図らずともペアルック? 結婚だ…結婚するしかない。あ〜〜〜汚したい。その女神のような笑みを浮かべるnameちゃんの顔を、僕が、僕が思い切り、ズタズタに、地の底まで叩き落として、落として、堕としたい。汚してェ〜〜。


「おはようnameちゃん。アイツら言ったって聞かないし、僕だけこの最低カーストから抜け出してみせるよ」


ま、今はまだその時じゃないからこの気持ちあたためておこーっと。僕のnameちゃんへの恋慕は、歪んでなんかない。歪んでなんか、



果たしてその恋慕は


歪んでるわけがないんだ。


2017.07.13

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