彼女への気持ちが分からなくなってしまった。毎日会いに行っても、話しをしても、手を繋いでも、抱き締めても、彼女に触れてみても、以前のような胸の奥からふつふつと込み上げてくる愛おしさというものが無くなってしまった。これが俗に言うマンネリ、倦怠期、というものなのだろう。

最初はそう思っていた。だが、1日、3日、1週間、1ヶ月…3ヶ月。月日が流れても流れても彼女へ対する愛おしさが込み上げてくることは無かった。そればかりか嫌悪感が募ってくるようになってしまったのだ。触れるたび、触れられるたび、重い何かを乗せられていくような、押し潰されていくような感覚に陥る。

あまりのストレスにオレは彼女へ会いに行くことをやめた。そうすると勿論のこと彼女から「どうしたの?」「具合でも悪い?」「今日も会えないのかな」と連絡が来るようになった。返すのも億劫。携帯の通知の音さえ嫌になってしまった。原因は分からない。本当に突然なんだ、自分でもどうしてなのか分からないし、どうしたらいいかも分からない。それと同時に彼女への罪悪感も募る。オレを慕ってくれている彼女にオレはどれだけ失礼なことをしてきているのだろうか。彼女の気持ちを考えると、それだけで胸が張り裂けそうになる。これ以上自分を苦しめるわけにも、彼女にこんな思いをさせるわけにもいかない。けだるい身体にムチを打ってオレは彼女の家へと足を運んだ。

数週間ぶりに会う彼女は何だかとてもやつれていた。力無く笑う彼女の笑顔を見て心臓をぎゅ、と握り締められたような気がして、罪悪感にこれ以上押し潰されたくなかったオレは「別れよう、」と呟く。「え?」とか細い声が聞こえた。
その声にオレは応えなかった。どれだけの沈黙が流れたか分からないがそれを破ったのは彼女の方だった。「分かった、ごめんね」なんて眉を下げ笑いながら言う彼女に掛ける言葉が見つからなかった。

何故オレを責めない?責められてもおかしくない、喚き散らかされてもおかしくない、それなのにどうして彼女は何も言わない?

思わず彼女の名前を口に出そうとした瞬間に彼女が「今まで、ありがとう。大好きだったよ」なんて言って笑うから、オレはまた言葉を失った。酷く疲れた。これでオレ達の関係は終わった。疲れが押し寄せてきたのと同時に安堵。

それなのにオレの胸にはぽっかりと穴が空いてしまったような気がしてならない。目の前でへにゃりと笑う彼女の腕を引いて抱き締めたくなった。オレ達は今終わってしまったのに、抱き締めたくなった。

そっとオレの胸を押して帰らせようとする彼女に笑わないで言いたいことを言ってくれればいいのに、と思う。ひらりと手を振る彼女をじっと見つめながらぽっかり空いた胸の穴を考える。泣き喚いて、怒鳴り散らかしてくれた方が良かった。泣いてオレを困らせてくれた方が全然良かった。



いっそ泣いてくれたほうがマシだった


帰り道、そう考える。思い返してみると、そういえばオレは彼女の泣いた所を見たことがない。ふと空を見上げるとどんより雲が覆って今にも雨が降り出しそうだった。


2017.01.22

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