あァ、なんだお前か。久しぶりだね…おれが何松か分かる?そう一松。全員のことは分かるって?…へぇ、そう。まあ何年も幼馴染してるし、分かんなくちゃおかしいよね。松野家四男松野一松。四の字で不吉な男です。なァところで、今ヒマでしょ?おれの独り言聞いていかない? ヒヒッ、まあ大した話じゃあないから聞き流してもいいケド。


…まァおれの話ってよりも、おれの兄弟のことなんだけどさ。おれの兄弟みんないい歳してニートで、親のスネかじってるようなクズで…、おれもそうなんだけど、ニートでクズでしかも童貞。世の中に出たらまず恥をかくってのが目に見えてるね。おそ松兄さ……長男は…、あ、全員分かるんだっけ? …うん、そうおそ松。 …で、その長男はもう本当にどうしようもないやつで、クズで生きる気力もないおれが言うことじゃあないんだけど本当にどうしようもないんだよね。

……誰が言い出したのか覚えてないけど、童貞こじらせた兄弟が突然セックスしようって言ったんだよね。気持ちは分かんないでもないよ。そりゃおれ達童貞だし、とっとと卒業したいし、出来るもんならセックスしたいよね。でもさっきも言った通りニートだし、外にあまり出ないし出たとしてもパチンコや競馬に行くだけ。おれは…猫に餌やりに行ってる。つまり出会いも友達もアテもないんだよね。それなのにセックスしようだなんてとうとう頭いっちゃったんじゃねーの?って思ったけど、そいつが話し始めた案がまたやばくてさ。

そうそう、そういえば知ってる?最近のニュース。…ちげえよ、それじゃなくて。誘拐のやつだよ。は?知らないの? …じゃあおれが教えてあげる。ここ数ヶ月、この赤塚通りでは何人もの女性が誘拐されてるーって、話。 ヒヒッ、今顔が強ばったね。 誘拐された女性は口々に言うらしいよ、「もう2度とあんな思いはしたくない、いっそ殺してくれた方が良かった」って。殺された方が良かった、なんて…どんなことされてると思う? レイプ?そりゃあされてるだろ。女が誘拐されてレイプされないわけなんてないし、ねェ?それ以上の辱めも受けてるンだろうね。可哀想に。

…あ?なに、さっきの話の続き?……あぁ、出した案ってやつ?


「良さそうな女取っ捕まえてレイプしちゃえばいいんだよ、って案」
「は…?」
「あ、今クズだなって思った? おれも思うよ。ほんとにどうしようもないなって」
「ね、なに、その…。冗談でしょ?」
「………ねえ、おれ、どうしたらいい? 兄さん達も、弟達も止められなかった。おれが、しっかり言わなかったせいで、」
「いちまつ」
「女捕まえるたび、泣き喚くんだよ、…当たり前だけど。その、その声がさ、頭から離れないんだ」
「いちまつ、ねえ」
「もうおれこんなことしたくない、みんなに言っても、もう、聞いてくれない」
「いちま」


ん゛ん゛っ、と苦しそうな声を出す幼馴染を見る。見慣れたその手で幼馴染の口を塞ぐのは我らが兄、おそ松兄さん。ジタバタともがく幼馴染にこらあんまり動くなよなんて軽口で言う。


「ナーイス一松!すげえいい演技だった!カラ松よりも演劇向いてんじゃねーの?」
「やめてよ、おれに演劇なんて無理だから」
「なはは! んまあいっか!とりあえずname確保ーっと」
「んんっ、ん…!!んー!!」
「だぁからもうあまり暴れんなって!」


男に力で適うわけないのに、未だ必死におそ松兄さんの腕から抜け出そうとする幼馴染を見てバカなやつ、と思う。そんなバカな幼馴染の目はおれを捉えたまま逸らす気配がない。何か言いたそうなその目に少し上がる口角を抑える。

口を塞いでいた手を噛まれたのか素っ頓狂な声を出してパッと幼馴染から手を離すおそ松兄さんを横目で見る。バカだな、たかが噛まれたくらいで。口を塞いでいた手は離してしまったが身体を押さえてる腕はしっかりと幼馴染の身体をホールドしてるみたいで何より。そこんところは抜かりない。幼馴染に目をやると顔を真っ青にして今にもおれに噛み付いてきそうな勢いで睨みつけている。


「ッ、演技だったの?!一松!!答えてよ!私、助けようと思ってたのに!!!」


金切り声、響いた頭を少し抑えながら警戒心を剥き出しにしてる幼馴染に1歩、1歩と近付く。


「ぜぇんぶ、ウソでーーーす。信じた?クズのおれの言うこと信じちゃうなんて、お前、救いようのないバカ女だね」


ヒヒッ、と笑えば怒りに染まってたその瞳はみるみるうちに光が失っていった。ぞくぞくする、お前のその顔、絶望したって顔を見れるだなんて思ってもみなかった。だらんと垂れた頭に手を置くとビクンと肩が跳ねた。nameがおれに怯えてる、こんなことがあるのだろうか。たまらない、こんな最高な気持ちを味わえるだなんて思ってなかった!


「にしても本当頭いいよな一松。確か俺ももう女の子捕まえるのめんどくせえなって思ってたんだよね! 身近にこぉんな可愛い俺らのことだーーーーい好きな幼馴染いるのに、全然気付かなかったわ!」
「…」
「最初からname取っ捕まえておきゃあ良かったかもしんねーよな〜そしたらニュースにもならなかっただろうし! ま、一松いるし俺らが捕まることなんてねーか!にっしっし」
「…」
「最初セックスしようなんて言ってきたときはとうとうおかしくなったか?!って思ったっていうのにさーーま〜さかこんないい思い出来ちゃうなんてな! nameこれからよろしくなー?いーっぱい可愛がってやるからよ!」
「…行こ、おそ松兄さん」


少し喋りすぎだぞクソ長男…口に出したら怖いから言わないけど。ゆらりと顔を上げたnameが信じられない、とでも言いたそうな顔でおれを見ていた。ああ、蔑んでる?nameがおれを。いいねェ、もっと蔑んでよ。家に着いたらその表情を崩してやるのが楽しみで仕方ない。


「………name、」
「ッ、ヒ」
「せいぜい、イイ声で鳴いてね」


するりと頬を撫でると同時にうっ、としゃくりを上げたnameを見てまた口角が上がった。




少女はそこで


2016.12.16

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