学生時代からずっと好きだった。

同じ高校になって同学年に六つ子がいると知ってそのときはそんな馬鹿ななんて思ったけど実際その六つ子様とやらを目の当たりにするともう開いた口も塞がらないってやつだ。六つ子で一卵性なんて私には区別も出来るはずがなかった。でも彼らは各々が区別できるように皆に気を遣ったのか知らないがそれぞれの色を身にまとっていた。好きだったのは赤だった。気が付いたら気が付いたら目で追うくらいには、視界に入るくらいには、とても好きになっていた。彼は松野おそ松。六つ子の長男で、誰よりもガキ臭くて、誰よりも感情豊かで、誰よりも、誰よりも優しい。誰よりも、相手のことを考える人。

そんな彼に惹かれるのに時間はそうかからなかった。クラスは3年間違かったけれどすれ違うときや学年集会、行事毎で私たちはそこそこ仲良くしていたと思う。そう、だから、3年間ずっと彼を見てきたから分かる。誰よりも優しく、相手のことを考える彼はトト子のことをよく見ていたと。嫌でも分かってしまった。友人は勿論、弟への視線よりもずっと、ずーーっとトト子へ向ける視線が、慈愛に満ちていた。時々トト子を見てはやんわりと目を細めて、幸せそうに笑うのだ。

それに気が付いたのは私がおそ松のことを好きになって半年が経ったくらいの頃だった。それも、ちょうど文化祭の時期。おそ松がトト子のことを好きだという確証は得てない。だが聞けば六つ子と弱井トト子は幼馴染らしいじゃあないか。そりゃあ、幼い頃から傍に居れば身内も同然だろう。
私のクラスによく遊びに来るおそ松はつるんでる友人達にいつもからかわれていた。「弱井トト子と付き合わないのかよ〜」と。そう言われるたびおそ松はにんまりと笑いながら「トト子ちゃんはそーゆーんじゃあねえの!俺らのアイドルなの!」と言って話題を終わらせていた。

でも、おそ松がトト子を見るとき、その目はどう足掻いたって好きな女の子を見るときの目なのだ。私には分かる。だっておそ松のことが好きだから。おそ松がトト子のことを好きだと分かったときそれはそれは頭を何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も鈍器で殴られてるような気がした。女の勘は鋭いのよ、なんてよく言ったものだ本当に。

入学してすぐに出来た私の友達、それが弱井トト子。とても美人で、それでいて傲慢で自分が一番だなんて声高々にいうようなヤツではあったが、そんなトト子の傍にいるのが何よりも楽で、何よりも楽しかった。趣味や性格はこれっぽっちも合わなかったけど、それでもこうして友達でいられたというのは奇跡に違いないし、大切にしようと思った。だから、おそ松がトト子のことを好きだと分かったとき何度も何度も鈍器で殴られたような感覚に陥ったのだ。私の大切な友達を、私の好きな人が好きなんだ。きっとトト子なら、幼馴染だといえどもおそ松に告白されてしまえば付き合うに違いない。もしそうなった場合私はどうする?私の気持ちはどうなる?そう考えたときに出てきたのは自分の気持ちを殺すことしか出てこなかった。好きな人には幸せになってもらいたい。綺麗事だよ!と誰かに言われたがそれでもいい。私はそれでいい。それでよかった。

そう思って高校3年間という短いようで早い生活を終えたわけだったが、その間に2人がソウイウ関係になることは1度も無かった。トト子自身もあれだけの美貌をもってるというのに誰とも交際をしなかった(いやトト子に関しては性格に問題がある、か)。おそ松も、人気がないわけではなかった。よく後輩や先輩、勿論同級生にも呼び出されては告白をされていたらしい。おそ松に限らず六つ子達は皆そうだったと聞いた。それなのに、誰とも交際しなかったらしい。


さて、思い出に浸るのはここまでとしよう。今の現状を整理しなくてはならない。卒業してから数年の月日が流れた今、私は大学に通っている。歳も歳になっているのは、まあ、察してほしい。
そして私はそんな数年前の淡い恋心を卒業と共に殺したのだ。それなのに、数年ぶりの再会を果たしてしまった。誰かなんてそんなの松野おそ松しかいない。赤いパーカーを着て、随分とラフな格好でタバコをふかしながら彼は「よっ!」だなんて軽く手を上げて私に近付いてきたのだ。あまりにも変わらないものだからすぐにおそ松だと分かった。久しぶり、というのもあって私達は近くの居酒屋に入って少しばかり話しを交わした。高校時代懐かしいな、そうだね、あの先生覚えてる?ちょっとハゲた…、ああうん覚えてる!なんてベタ話しに花を咲かせていた。


「っは〜〜…、めっちゃ笑った、腹いてー」
「あ〜楽しかった! 久しぶりだとは思えないね」
「な!ほんとそれ! いや〜高校の奴らとはずぅっと会ってねーからな〜〜。nameにあえて良かったよ!」
「私も会えてよかったよ。なんか、元気出てきちゃった」
「へへ、そりゃよかった。nameのこと元気づけたってことで…ごちです!」
「は?!ちょ、何それそれは無いわ」
「だはは!冗談だっつーの!今日はね〜お馬さんでガッポリ頂いてきちゃったから俺が奢ってやるよ〜ん」
「ちょちょちょ、奢り?!それも無いわ!いいよいいよ割り勘で!」
「バァカ!好きな女に金出させるわけねェ〜だろ!」

ぺろっと指を舐めて財布に眠ってる諭吉を数えるおそ松をじっと見つめる。コイツ、今、なんて言った?酔ってるんじゃあないよな?いや、顔も赤いし、酔ってる?酔ってる?酔ってるんだよな、これは。そうだ、そうに違いない。じゃなくちゃおそ松がそんな阿呆なことを言うわけがないのだ。そう自己完結してはは、と笑みを浮かべるとだらしなく笑っていたおそ松の笑顔が急に変わった。なんで、そんな顔するの?おそ松らしくもない。アホみたいに笑ってればいいのに、どうして急にそんな、そんな真面目な顔をするの?嫌な汗がだらだらと流れ始める。なに、なに?


「………なに、おそ松?」
「……あーーーーー、いや。別に…何もねェけど………………」
「…お、お金足りなかった?ならいいよ、今日は私が」
「金はあるよ」
「………………う、うん…」
「……お前さ〜、分かんない?聞こえなかったわけじゃないよな?」


何が。


「俺ちょっと今大分心臓バクバクしてんだよね」


呑みすぎなんじゃあないの?


「なあ、name。俺が今さっきなんて言ったか覚えてる?」


覚えてるよ。


「……………俺、告白したつもりなんだけど」


ビクンと大袈裟に肩が跳ねた。くそう、みっともない反応しやがって私め。跳ねたのと同時におそ松の顔を見たのがいけなかった。その目、私知ってる。その目、トト子に向けてたのと同じ。ねえ、それってどういうことなの?私のこと好きだとでも言いたいの?嘘だよ、そんなの嘘に決まってる。だっておそ松はトト子のことが好きなんだから。私のことなんて、私のことなんか!
ねえいつ?いつからなの。私にそんな目を向けてきていたのはいつからだったの。ねえ、おそ松。もしそれが華の女子高生をやってるときからだったら、私は自分の、おそ松への淡い淡い気持ちを殺す必要はなかったってことになるし多くの涙を流さなくても済んだってことになるんだよ。


「分かりやすいように、ハッキリ言わなくちゃダメ?」



恋を殺した代償に拳を


口調は優しいくせに、その目は慈愛に満ちているのと同時にこのまま逃がさねえからなという狂気にも満ちていた。いいよ、いいよ。言ってみてよ、ハッキリと、私にわかるように。もしここで好きだって、ハッキリそう言ったなら気持ちを殺してまで我慢した私が可哀想だから思い切り殴らせてもらうからね。


2016.10.25

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