晩御飯と風呂を済ませた頃だった。 やることも特になく明日の予定も何も無いボク達は寝ることを惜しんで居間でテレビを見ていた。 日付が変わりそうな時間帯のテレビ番組はもう殆どつまらないものばかりでどのチャネルを回してもいいのが見つからない。

携帯を開いてありとあらゆるSNSを見てみるけど某写真SNSでは数時間前の写真しか投稿されていなくて、某呟きサイトでは皆こぞっておやすみと言っている。 早いなあと思うけど、まあ世の人たちは仕事や学業があるんだ。 ボクらニートとは違ってね。

本格的にすることも無くなったから寝よう、そう思って重い腰を上げようとするとガラガラと玄関が開いた。 今この家にいないのは妹だけ。 ボクは玄関の方を覗くとそこにはやっぱり妹がいた。 酷く疲れたような顔をして今にも寝そうになっていた。 きっと他の兄達は妹が帰ってきたことに気が付いていないだろうからボクは仕方なく玄関先で座り込む妹の方へ寄っていく。


「おかえり、遅かったね」
「うん、ただいま。 お父さんとお母さんは? 」
「もう寝てるよ。 兄さん達は起きてるけど」
「そっか、もうみんな寝るでしょ? 」
「まあそりゃあね。 nameもさっさと着替えて寝なよ」


ふわあ、と欠伸一つする妹は「はいはい」と言ってボクの横を通り抜けた。何をしてるのかは知らないけど妹は最近帰ってくるのが遅い。 母さんによるとバイトを始めたとかなんだとか。 高校生のくせに働くとか、何だかいい気がしなかった。 ボクがバイトを始めたときあのクソ兄貴達は邪魔という邪魔をしてきたというのに、どうして妹の邪魔はしないのだろうか。

ふと、気が付く。 こんな時間までバイトしてるってことは晩御飯食べてないのではないのだろうか。 2階へ上がろうとする妹を呼び止める。


「ねえ、ご飯は? 」
「んー? 大丈夫いらないよ〜」


ひらりと手を上げてそのまま部屋へと入っていった妹の背中を見る。 大丈夫いらないよ、と聞いてボクはどこかで軽く済ませてきたのだろう、そう思った。 そう思ったのがいけなかったのかもしれない。 この時ちゃんともっと声をかければよかったと今では後悔している。

この日から、というわけではないのかもしれないけど妹が何かを口にする¥鰍ぱったりと見なくなった。 それに気が付いたのはもう3ヶ月を過ぎた頃だった。 家にいても、どこかへ出かけても、妹は何も口にしなかった。
長男はダイエットかなんかしてんじゃねーの? とへらへら笑いながら言っていたけどボクはとてもそうとは思えなかった。
母の料理が大好きな妹がここ数ヶ月口にしていないのだ。 それに母も最近うっすらと気が付いてきたのか晩御飯を作る時間になると頬に手を当ててため息をついている。 一度だけ、母と一緒に晩御飯の買出しに付き合ったとき「あの子最近ご飯食べてくれないのよねェ」とぼやいていたのを思い出す。 何でだろう、何で妹は何も口にしないのだろう。

この数ヶ月、特に痩せたというのは無いし、もしかしたらどこかで食べているのかもしれない。 でも、それでも母が毎日作ってくれる料理に手をつけないのは、どうなのだろうか。 何か悩んでるのかもしれない、そう思ったけれどボクは母の料理を食べない妹に対して怒りを抱いてしまった。


「ねえ」
「なにトド松? 」
「お前さ、何でご飯食べないの」
「何でって、お腹空いてないから」
「は? お前が? 腹空かない? 何言っちゃってんの、ボクたちよりも食べるときはすごい食べるクセに」
「それはそれでしょ。 なに、怒ってんの? なんで?」
「何でじゃなくて、ボクはお前が何でご飯食べないかが知りたいの」
「だからお腹空いてないからだって」


お腹が空いていないの一点張りの妹に堪忍袋の緒が切れた。 妹の胸倉を思い切り掴んでそのまま壁に体を押し付ける。 ぐ、と苦しそうに呻いた妹を見て舌打ちする。 なんで、なんでだよ。


「お前、ほんとに何考えてんの」
「いや待って、離してよ。 トド松なにイライラしてんの? 」
「してねーよ。 いいから答えてくんない? 」
「だから、お腹空かないからって言って…! 」


まだそれを言うのか、カァッと頭に血が上って妹に向かって思わず手を振りあげる。 それを見た妹が顔を青くしたのが見えた。 あ、まずい、そう思ったけど勢いがついた自分の手を止めることは出来なかった。

ばちん。 鈍い音だった。

勢いで流れるように倒れる妹を横目で見ていた。 殴ってしまった。 タイミングがいいのか悪いのか、出先からおそ松兄さんとチョロ松兄さんが帰ってきて顔を抑えて倒れ込む妹と呆然と立ち尽くすボクを見て何があったんだとでも言いたそうな顔をしていた。

チョロ松兄さんはなに、ちょっと、なにこれ?! とバタバタと騒ぎ立てて妹の方へ駆け寄った。 それでいい、ボクの代わりに妹の赤く腫れ上がってるであろう頬の手当てをしてやってくれ。
おそ松兄さんは騒ぎ立てることもなく、ポケットに手を突っ込んでじぃ、とボクを見ていた。 ああ、その目。 その目の兄さん、ボクはとても苦手だ。

ふい、と視線をおそ松兄さんから逸らすとおそ松兄さんはボクの方へと歩み寄ってきて思い切り胸倉を掴んできた。 ああ、nameもボクに胸倉掴まれたときこんな感じだったんだろうな、怖い。 でもボクに胸倉掴まれるのとおそ松兄さんに掴まれるのとじゃ、やっぱりおそ松兄さんの方が恐ろしいんじゃないのかな。 なんて今の自分に起こってる状況を他人事のかのように考えていた。

おそ松兄さんはボクの胸倉を掴むだけで何も言わない。 チラリと見やれば何か言いたげな顔をしていた。 言えばいい、ボクを責めればいいじゃないか。 兄さんの大事な大事な妹に手を上げたのはこのボクだ。でも悪いのは妹だ。 ちゃんと質問に答えてくれなかったから。 大事な大事な妹の変化に気付いてないわけがないだろう、おそ松兄さん? ボクだけがこのことに気付いているなんて、そんなバカみたいな話。 あるわけないよね? ボクはただ妹の心配をしていただけなんだ。

もし妹の変化に気付いてないってんならこの手を離してくれたら説明するから。 説明した上でそれでも理解できないっていうなら、ボクを責めたらいいよ。 妹を2階へ連れて行って戻ってきたチョロ松兄さんと、何も言わずにただボクを見るおそ松兄さんに何と説明をすればいいだろう。



妹が飯を食わない


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ついったで呟いたものです。シリーズにしたかったけどオチが浮かばないのでお蔵入り。忘れた頃にこれの続き書こうかななんて思ってます。SSSではなく何となくこちらにあげました。


2016.09.10

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