※比較的長男寄りの六つ子

酷く疲れた日だった。何かをされたというわけでもないし、普通に過ごせたことには間違いない。だけど、何故だか酷く疲れたのだ。家に帰るとすぐにベッドに倒れ込んだ。次第に重くなってくる瞼、このまま意識を手放すのもいいなと思ったけど重い体にムチを打って起き上がった。
明日は休み、少しゆっくりしたい。とりあえず携帯を充電してから部屋の片付けをしつつ寝る準備をしよう。


「(…あれ)」


USBを何度差しても携帯が反応してくれない。おかしい。何度も繰り返し差し抜きをしたが反応するのとはやはりなかった。USBが使えなくなってしまった。はあと大きく息を吐くと同時にイライラが募る。今月は無駄なお金を使ってる場合じゃないというのに!予想外の出費に頭を抱えたくなったけど充電できないのは困る、仕方なく外に出てもおかしくないような部屋着に着替えて私はコンビニへと向かうことにした。







「っざした〜」


けだるげな店員の声を聞きながらコンビニをあとにする。USBを買うだけだったのにアイスとお菓子も買ってしまった。というから早くUSBを買って帰って寝たいという思いが強すぎてとんでもない格好で外に出てきてしまったなと今になって思う。痛Tシャツホットパンツ、健康サンダルにヘアバンドでオールバック…それと眼鏡。どこぞの干物女じゃあないんだから、と自分で自分に呆れる。痛Tシャツを見て店員が少し笑っていたような気がする、ああ恥ずかしい。だけど案外この格好が自分に合ってるかも、だなんて。でもこの格好で知り合いには会いたくないなあなんてぼんやり考えながら買ったアイスの封を切る。うん、やっぱりパピコは美味しい。


「あれっ、name?」


聞き覚えのある声に思わずピタリと足が止まる。噂をすればなんとやらというやつか?噂はしてはないけれども。「なーにしてんのこんな時間に!」なんて言いながらてててと歩み寄ってくる幼馴染の方へと目を向ける。


「………チョロ松?」
「ちっげーよ! 俺はおそ松! いい加減覚えてくんね?!」
「あ、ああ…おそ松か。ごめん」


ガキの頃と比べたら大分見分けつくようになったぞー!?なんて頬を膨らましながら言うおそ松にはは、と空笑いをする。そりゃあまあ何十年と付き合ってきてはいるけどやっぱりどうしても六つ子の見分けがつかなかったりすることもある。十四松は間違えずに当てることは出来る。それよりも会いたくなかった奴に会ってしまった。おそ松のことだから別に私の格好を見て気にはしないだろうけど、それでも何か言ってきそうだ。


「てか、うわっ、何そのTシャツ! 暴力?! 怖ッ!!」
「……」
「今日なんかあったのー? すげーラフな格好してんね」
「あ、お前パピコ食ってんの?! 2人用アイスを1人で!?!」
「……」
「ダーハッハッ! さみっっしーーーー女だな!」
「おそ松、怒るよ」


好き勝手喋るおそ松の頭を今すぐ引っぱたきたかったけど「わははごめんってー!」って子供みたいに笑うから手を引っ込めた。寂しい女とか言ってきたくせに当の本人の顔が物欲しそうな顔をしていたから1つ余ってるパピコをチラつかせるとキラキラと目を輝かせた。分かりやす。


「何その顔、あげないからね。寂しい女のアイスひったくらないでよ」
「えーーーいいじゃん! 俺も1人! 寂しい男! ね!いいじゃん!」
「うわ、何待って酒くっさ、酔ってんの?」
「酔ってはねーよ。酒は飲んだけど! いーからちょ〜だいnameちゃ〜ん」
「あっ、ちょっと!」


半ば無理矢理私からパピコを奪って幸せそうに食べるおそ松を見ると何だかどうでもよくなってしまった。


「何でおそ松はこんなところにいんの?」
「んー?大したことじゃねーけどさ。愚弟と大乱闘スマッシュブラザーズしただけ」
「ああ、どおりであっちこっち伸びてるんだね服」


本人は気付いていなかったのか「えっどこどこ!?」とぐるぐるその場で回る。袖と襟元の方だと伝えるとあいつら〜!と地団駄を踏んだ。成人して数年経つ男のやることではないなあと思いながらも違和感を何一つ感じないのは幼馴染補正があるからなのかもしれないなあと思ったり。


「まっ、あいつらは後で負かすとして、久しぶりにnameに会えて良かったー!」
「そうだね、本当に久しぶりだもんね」
「お前さ、最近何か大丈夫? 疲れちゃってるでしょ」
「それはまあそうだけど」
「俺で良かったらいつでもちゅーしてやるからな!」


何言ってんの、ジトリと睨むと「だって!ちゅーするとストレスなくなるって言うじゃん!」と慌てふためながら言う。そうだこいつ酔っ払ってるんだった。適当にハイハイと返すと「俺本気で言ってるからな?!」と声を荒らげた。駄々っ子みたいに騒ぐおそ松をあしらってると前方からぞろぞろと歩いてくる男の人達。あ、と声を出したのと同時に前方の人達も声を上げた。


「いた! おいクソ長男いい加減にしろよ酔っ払い!」
「あ〜? 何だお前ら!やんのかオラ!」
「いいからもー!帰るよおそ松兄さん!」
「nameーーーやだよ俺帰りたくなーーーーーい」
「帰ってくれよめんどくさいから」
「nameか。フッ、久方振りに巡り会ったオレ達の運命の歯車が今また回り…」
「出すわけねーだろ黙ってろクソ松」


嫌だ嫌だとごねるおそ松を引っ張るチョロ松とトド松。相変わらず痛い発言をするカラ松に当たりの強い一松。何年経っても本当に変わらない奴らだ。大分時間は食ってしまったけど私も早く家に帰ってゆっくり休みたい。やいやい騒ぐ六つ子たちの間を抜けて帰ろうとすると十四松が強く私の手を掴んだ。思ってもいなかった行動に私は目を丸くして十四松を見る。他の兄弟は気付いてない。どうしたの、と声をかけてもギュッと口を噤んで私をただ見るだけだった。何をしたいのかよく分からない。


「どうしたのってば十四松」
「…………nameさァ」


やっと口を開いたかと思えば十四松の口から放たれた爆弾に場の空気が一気に凍りついた。


「何で外出てるのにノーブラなの!!?」


悪気があるのか無いのか知らないけど夜だから十四松の声は驚くほど通ってしまった。目を光らせた六つ子が勢いよく私の方へ顔を向けてきたのが分かるとああもしかしたらこれ帰れなくなるかもしれないなあ、と思った。



寂しい女はガードが緩い


(nameノーブラなの?!え!?じゃあなにノーブラなのにふつーーーーに俺と喋ってたわけ?!何で?!、?俺に襲われるとかそういうこと考えないわけ?!やべえよ!ていうかお前無防備すぎねェ?!まじでそういうのやめた方がいいよ!俺らだったから良かったけどまじ知らねー男だったらお前、まじ!にゃんにゃんされちゃうよ!ほんと!!え!ねえnameお願い一揉みだけでいいからおっぱ)
(おそ松、怒るよ)


2016.09.10

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