「あっ、頭おかしいんじゃないの?!!」


そう言い放つと彼、カラ松は小首を傾げた。私の言ってることが理解できないと言いたそうで、激しく頭が痛んだ。ふざけるんじゃあ、ない!
肩で息をしてる私を見てフッ、と息を漏らす。そしてそのままくつくつとおかしそうに笑い出した。
おかしいことを言ったか?私は事実を言っただけじゃないか。頭がおかしい、と。

それもこれも、全部カラ松がいけないんだ。
私たちは血の繋がった正真正銘の兄妹。私には6人の兄がいる。父と母がいる。家族なのだ。
それなのに、カラ松は私のことを好きだ、と。そう言ってきた。ふにゃりと笑って、慈愛に満ちた顔で言うものだから、(ああ私はなんて優しい兄に大切にされているのだろう)と思った。そして私も、好きだよ。と言葉を返したのだ。ただ、それだけだった。それだけだったのだ。


でもカラ松はそうではなかったみたいで。
彼が私に放った言葉は家族として、妹しての好き≠ナはなくて私を一人の女として見た好き≠セったのだ。それで私が好きだよと返したせいで彼の中の想いがおかしくなってしまったのだ。だってまさかそんな、実の兄から一人の女として見られてるだなんて思うわけがないじゃあないか。カラ松は小さい頃から、いつも私を大切に大切にしてくれて、他の兄から意地悪をされたとき助けてくれたのはいつもカラ松だった。小学校のときにいじめられた時も助けてくれたのはカラ松、中学校のときにクラスの男子に言い寄られて困っていた私を助けてくれたのもカラ松、高校のとき変な男にストーカーされてると相談したとき、誰よりも心配してくれて誰よりもそばにいてくれたのは、カラ松なのだ。カラ松兄さんだった。

いい距離感を保っていると思っていた。一松やチョロ松とはまた違う、おそ松ともまた違う、距離の近い十四松やトド松とも違う…、いい距離で保っていると思っていた。それは私だけだったのだろうか。きっとそうだ、そうなのだ。


今の状況も理解ができない。カラ松に呼ばれ部屋に言った途端突然押し倒されて、唇を重ねてきた。意味がわからない。分からない。分かりたくもなかった。必死に抵抗しても、男であるカラ松には全く適わなくて。ぼろりと目から涙がこぼれればカラ松は至極当然かのように私の涙を拭い、また唇を重ねてきた。分からない。どうしてこんなことになったのかが。

助けてほしい、今日に限って家には誰もいない。
おそ松も、チョロ松も一松も十四松も、トド松も。いつもなら家にいるのに。今日に限って。いつもは出掛けているカラ松が、今日に限って家にいる。助けてほしい。誰かこの狂った空間から私を助け出してほしい、狂ったカラ松のことも助けてほしい。兄妹なのに、おかしいじゃあないか。こんなこと、本当に、おかしい。


「何故オレが頭おかしいと、そう思うんだ?」
「オレは何か間違っているのか?」
「nameのことが好きなだけじゃないか。それが、おかしいと言うのか?」
「言ったじゃあないか。nameも、オレのことが好きだと」
「お互い好きなんだ。こういうコトをして、当然だろう?」


笑いながら話すカラ松の言葉が頭の中でぐるぐる回る。ぐるぐるぐるぐるぐる。ぐるぐるぐると、回る。おかしいでしょう?だって、私達兄妹なのに。キンシンソーカン、ていうやつなんじゃないの?何で私が悪いみたいな風に言われるの?何で?私がいけないの?

ボロボロと止まらない涙、もう泣き疲れた。声を上げてみっともなく泣いたわけではないけど、もう疲れた。目を開けるのも億劫だよ。ぼんやりと目の前にいるカラ松を見ると、やっぱり彼はふにゃりと笑っていて。見ているこっちがぐちゃぐちゃになってしまいそうな感じがした。


「なぁ、name。オレは、おかしいのか?」


再度繰り返されるその質問に私はなんと答えたらいい?おかしいんだよ、カラ松兄さん。おかしいんだよ。本当に。実の兄とその妹がキスしたりするなんて。おかしいんだよ。きっと。多分。
カラ松が私に抱くその気持ちこそがおかしいんだよ。私たちは、兄妹なんだから。普通はそんなことありえないんだから。


「おかしいよ、カラ松。おかしい」


そう言えば彼はきょとん、と目を見開いて、しばらくじぃっと私を見つめてきたがフッ、と笑みを浮かべた。


「じゃあ2人でおかしくなろう、な? オレだけがおかしいだなんて、そんなの悲しいじゃあないか」


両手で私の手首を掴んでいたのにいつの間にか片手でいとも容易く私の手首をまとめあげてしまった。あ、これはいけない。そう思ったときにはもう遅くて空いたカラ松の手はするすると衣服の中へと侵入してきた。いけない、これはいけない。必死に身を捻じるもグッ、と力強く抑えられてしまってろくに身動きも取れなくなってしまった。

ねえ、私こんなの嫌だよカラ松。私はおかしくなんてなりたくないよ。私を巻き込まないでよ。ねえ、誰か助けてよ!

また目から涙が零れると、カラ松は「昔っから泣き虫だな、nameは」だなんて言ってまた唇を重ねてきた。3回目だ、やだなあ。



ぐるぐるぐる

ガラガラガラと玄関が開く音が聞こえたような気がした。助けてほしい。兄さん、助けてよ。きっと部屋の扉を開けたら驚くに違いない。助けてほしいなあ。私のことも、カラ松のことも。


2016.08.23

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