「あ!」

お風呂場に響く声。そんな大きな声を出すつもりではなかったのに、と少し反省をする。たまたま一緒に入っていたチョッパーは突然あげた私の声に驚いて滑って転んだ。大丈夫?と一声かけて身体を起こしてあげるとチョッパーの方も私にどうしたんだ?と問いかけてきた。


「あ、いやさ、シャンプーもう無くなっちゃったなあって」
「シャンプー? 石けんじゃダメなのか?」
「ダメダメ。ごわごわになっちゃうし。チョッパーもちゃんとしたソープ買ったほうがすごい毛並みサラサラになると思うよ?」


そういうとチョッパーは何でも同じだ〜と言った。結構違うと思うんだけどなあ、なんて思いながらてててと足音を立てながら先に上がるぞーといったチョッパーにぶらりと手を振りながらさてどうしたものかと考え込む。

毎日お風呂に入るナミ達と違って私は2日に1度のペースでお風呂に入っている。女子たるもの毎日入るべきなのだろうがちょっとそれは億劫で仕方が無い。ルフィやゾロまでとは行かないが5日くらいお風呂に入らなかったときはナミにシャワーだけでもいいから浴びてきなさい!と激しく怒られた。それからはシャワーだけ毎日浴びている。
シャンプーはこの間変えたばかりなのにどうしてもう無くなってしまったのだろうか?無いものは無い、だから仕方ないとは思うが結構気に入ってた匂いだったためほんの少しだけ残念だ。

とりあえず今日は男性陣が使っているシャンプーを借りる(前にナミのを使ったとき結構怒られたから)ことにして、次の島に上陸したときにでもシャンプーを買おうと決めた。







しばらくして島に上陸した私はナミからお小遣いをもらってシャンプーを買った。それもまたとびきりのを!いかにも怪しそうなお店だったけれどそれは見た目だけで、陳列されている品物はどれもこれもいい匂いでパッケージも可愛いものばかりだった。この島の女の子達も愛用しているらしくてついつい多めに同じものを沢山買い込んでしまった。袋に入っているにも関わらずとっってもいい匂いで自然と顔がほころぶ。今日は久しぶりにお風呂に入ろう!と軽快な足取りで船へと戻った。


「ねえナミ!今日は一番風呂させて〜お願い!」
「別にいいけど、何どうしたのいきなり」
「いいシャンプー買えたの! すっごいいい匂いなんだから!」
「通りでさっきからいい匂いするわけね〜いいじゃないそれ、私結構好きかも」


ふわりと笑うナミに貸してあげないからね!と口を尖らせるとあのときはごめんってだなんて言いながらお互いのをたまには使ってもいいという約束をした。ナミのシャンプーも柑橘系のいい香りでたまに使いたいなと思っていたからこれはこれで良かったのかもしれない。
ナミから一番風呂の許可をもらったわけだし、お風呂掃除は念入りにしようと密かに気合を入れた。


「なんかいい匂いするな!」
「あ、チョッパー! 前にシャンプー切らしたから今日新しいの買ってきたの。いい匂いでしょこれ」
「おう! すっげーいい匂いだ!」
「あとねあとね、チョッパーにソープ買ってきたの! 今日一番風呂の許可もらってきたから一緒に入ろ!」
「ええ〜おれは別に石けんでいいしさっき体拭いたんだけど」
「わたあめも買ってきたから〜!ね!一緒に入ろ!」


わたあめというワードに釣られいいぞ!とぴょこぴょこ跳ねながら嬉しがるチョッパーに自然と自分も口角があがる。チョッパーお風呂から上がったら自分の匂いに驚くだろうな、なんていったってチョッパーにはわたあめの匂いがするソープを買ってきたから。お風呂上がったときの喜ぶチョッパーを想像したら早くお風呂に入りたくて夜が早く来ないかなあと思った。


結局我慢ができなかった私はまだ夕方だけど念入りにお風呂掃除をしてチョッパーとお風呂場へ向かった。途中、サンジとすれ違ってもうそろそろご飯だけど、と言われたけど私とチョッパーは先にお風呂に入るから先に済ませておいてと頼んだ。あからさまにショックを受けたような顔をしたサンジに心が傷んだけれど、ごめん!今日は何よりもお風呂が一番楽しみなんだ!



「う、うお〜!なんだこれ!泡もっこもこだ!」
「ちょっとチョッパーあんまり動かないでって!洗えないよ!」
「おれもnameのこと洗ってやるぞ!」
「大丈夫大丈夫、ほら後ろ向いて」


チョッパーに買ったわたあめソープを使うと名前のごとく泡がわたあめのようにもこもこにどんどん泡立っていってチョッパーだけでなく私も感激した。甘い匂いもするし、これもいいかも!匂いがわたあめだということにまだ気付いていないチョッパーはもこもこ泡立つ泡に夢中になっている。泡だけでこんなに喜んでくれるのだから匂いがわたあめだと分かったら本当にどうなってしまうのだろうか!

チョッパーのことを洗い流してあげるとどうしても私のことも洗いたいらしくスポンジを渡してくれなかった。仕方ないな、と思いつつお願いねと言うと目をキラッキラに輝かせて一生懸命洗ってくれた。


「name! このソープ気に入った!ありがとうな〜」
「ううん、いいのいいの。チョッパーもありがとうね」
「いいんだ!おれは男だからな! …なあname、シャンプー使わないのか?おれあの匂い好きだから早く使ってほしいぞ」
「ああ、ほんとに?よーしじゃあ使っちゃおうか!」


チョッパーに洗い流してもらって待ちに待ったシャンプーを取り出した。お風呂場に充満する甘い花の匂いに私とチョッパーはきゃー!と叫んでしまった。思ったよりも大分匂いが濃い!すごいいい匂いだ!チョッパーなんてよっぽどこの匂いが好きなのか目尻が下がりに下がりきっている。これは、本当にいいのを買った!これだったら毎日お風呂入ってもいいかもねだなんてチョッパーに言ったら満面の笑みで頷いてくれた。







「?! name!わたあめの匂いする!どこだ?」
「さっきのソープだよ! あれわたあめソープなの〜いい匂いするねチョッパー」
「わたあめソープ〜?! すげー!おれほんとに毎日お風呂入りたくなるぞ〜!!」
「すごい毛並みサラッサラだねチョッパー!あーほんとにいい匂いだし〜またお風呂入ろうね〜!」


気付かずに長風呂をしていたみたいで早く上がってきなさい!とナミからの叱咤でしぶしぶ上がった。丁寧にチョッパーの身体を乾かしてあげると動くたびに香るわたあめの匂いに思った通り喜んでくれた。

私はというと、髪の毛を乾かしてからもう信じられないくらい甘い香りが持続している。これ、ちょっとやばいんじゃないかと思うくらいいい匂い。ほんの少し動くだけでふわりと香る匂いに自分でもドキドキする。こんなの、すれ違ったときに香ってきたら惚れてしまう!ナミやロビンが使ったらあんな男やこんな男に狙われてしまうのではないのだろうか。そう考えると貸したくないなと思ってしまう。いや、もちろん使ってはもらいたいのだけれど!

チョッパーと2人でキッチンへ行くとサンジがちょうどご飯温めなおしてくれていた。とてもいい匂い、今日はローストビーフなんだ。お風呂も気持ちよかったし、今日のご飯はローストビーフだし、本当に素敵!


「name…ちゃん?」
「ん?なあに」
「すげェ、あの、いい匂いするんだが…」
「ああ多分チョッパーと私かも! 今日シャンプーとチョッパーにソープ買ってきたからさ。いい匂いでしょ?」
「も〜〜〜すっごいいい匂いするよ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「うわーーーー!サンジィ〜〜ッッ!!」


正面にいたサンジが普段より高い鼻血の噴水を出してバタンと倒れた。驚いたチョッパーは医者はどこだ〜!とあちこち駆け回っている。いやいやアンタだよ!と言いたいところだけど目の前で鼻血を出されたのが初めてだったものだから頭が回らなくてわたわたしていた。
我に返ったチョッパーは人型になってサンジを医務室へと運びに行った。運ばれながらも幸せそうな表情でたらりと鼻血を流すサンジくんにお前ってやつは…と呆れ返る。たかだかシャンプーの匂いだけでそんな大袈裟な。チョッパーのあとをついていこうとキッチンを出たらグイ、と後ろに勢いよく腕を引っ張られた。


「name」
「わっ、あ、何だルフィか。びっくりした…いきなりどうしたの」
「おめェ、何か匂う」
「え?あ、えっと、多分シャンプー変えたから…かな」


引っ張られた衝動でよろけたのを支えたのはルフィだった。何か大事な用かと思えば私の匂いのことで、ルフィでもやっぱりこの匂いには気付くんだとほんの少し関心。だが俯きながら喋るルフィに違和感を覚える。


「ルフィ?」


なんだか様子がおかしい、そう思い覗き込むように呼びかけると勢いよく腰を引き寄せられた。突然の行動に私はついていけずえ、え!と声を漏らすばかり。するとルフィは首元に顔を埋めて項付近をすんすんと嗅ぎ始めた。


「えっ、待ってルフィ、ちょっと…!」
「…なんか、」
「なに、なに? くすぐったいってば」
「…あ〜……ッ、name、」
「なにほんと! っ、ひゃ?!」


ぞわりとする感覚につい声を上げてしまった。すんすんと匂いを嗅いでいたルフィは突然顔を上げては壁まで私を追いやりがぶりと首元に噛み付いた。首元に噛み付かれたと認識するのに時間がかかってしまい何が何だか分からなくなっていた。
当の本人は私のことなんてお構いなくさっきと同様にすんすんと匂いを嗅いではまた噛み付いたり、ときたまべろりと舐め出す。突然過ぎる行動に全く理解ができず何度もルフィの名前を呼んで制止させようとするも聞く耳を持ってくれない。


「ね、ちょっと!やめ、やめてって…!」
「…ん、」
「んじゃなくて! やだってば、ねえ! 」


どんどんと胸を叩いても気にも留めず、押してもびくとも動かないルフィにとうとうまずい!と思う。ルフィからの謎の行為にもう限界だとしゃがみこみそうになるとすかさず腰に手を回され立たされる。


「っや、るひ」
「すげェ匂い、これおれ、好きだ」
「っ、え?」
「変な気持ちになる、このままnameのこと食いてェ」


掠れた声にびくりと震える。ルフィがまさか、そんな!目にかかる前髪から覗かれる目はそれはそれは獲物を捉えた獣の目つきで、まさかまさかまさか!と浮かんでしまった考えを否定する。
だって、私のシャンプーの匂いにあてられてルフィが欲情するだなんて、そんな、そんなまさか!
どうしようどうしようと考えてるとルフィはべろりと私の唇を舐めてひょい、といとも簡単に私のことを抱き上げた。これは本格的にまずい!


「ルフィ、ちょっとダメだよ離して降ろして!」
「いやだ」
「いやだじゃなくて、ねえ!自分が何しようとしてるのか分かってんの?!」
「食う」
「もう! しっかりしてよばか!やだやだやだナミ助けてー!」


身の危険を感じた私は大声でナミを呼ぶ。ああでもさっきお風呂に入っていったばかりなんだった。どうしようどうしよう、このままじゃルフィに食べられる!誰か助けて!



匂いにあてられて

私の声を何かと思い駆けつけてきてくれたウソップに助けてもらって身の危険は去った。けれど、ナミがお風呂から上がってから一連のことを説明したらロビンも一緒になってあのシャンプーを使うのはもうやめなさいと言われてしまった。しばらくはナミとロビンのを借りることになってしまった。ああ、あのシャンプー気に入ってたのに、残念だ。


2016.02.24

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