お前、おれの仲間になれ!


そう言われてから数週間が経った。

考古学者のお姉さんは私をよくお茶に誘ってくれる。あの人の入れてくれる紅茶は、とても美味しくて、何だか心が暖かくなる。
航海士のあの子はおさがりの洋服をくれる。たま〜にお金を請求されたりするけど、あっちは冗談みたい。(そうだとは思えないけど)
狙撃手の彼は私のために武器を作ってくれた。戦いなんて知らない私のために初心者でも身体を変に痛めない、そこそこ強い敵が失神するようなのを作ってくれた。
コックの彼は、私の好みに合わせて色んなものを作ってくれる。特に好き嫌いは無いのだけれど、この数週間で私がどんな味が好きなのかを分かって作ってくれる。それがまた、美味しくて。
船大工のあの人は、変態だけど、何だかお父さんみたいな暖かさがあって。温もりはほとんど感じないけど、ときどき撫でてくれるその手はとっても暖かい。
音楽家のあの人は、私の気分が優れないとき、落ち着くような音楽を聴かせてくれる。ときどきパンツ見せてくれだなんて言ってくるけど、それでもやっぱり彼はとっても紳士だ。
船医のあの子は、私が怪我をすると誰よりも心配する。私が具合悪いときや、怪我をしたとき、いつも的確な処置をしてくれる。眠れないときとか、側にいてくれたりする。
剣士の彼は、何だかんだで私のことを気にかけてくれる。体力のない私のためにトレーニングに付き合ってくれたりしてくれる。

船長の、あいつは。いつも私に眩しい笑顔を向けてくれる。


それが私は、とても辛い。


「おいname! 何やってんだお前!」
「name…?! どうしちゃったのよ!」
「nameちゃん!!」
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!」


今日は、やけに星の綺麗な日だ。月だって、いつもより大きい。風のない、何だか不気味な夜。
私の名前を呼ぶみんな、何でこんなことをするの?とでも言いたそうに私を見る。

船長の目が、鋭く刺さる。ねえ、アンタ今どう思ってる?仲間になれ!と言った女に、首元にナイフを突きつけられて。ねえ、どう思ってんの?


「name」
「なに」
「お前、おれに勝てると思うのか」
「知らない」
「勝てるわけねェだろ」
「やってみなきゃわかんない」


腹立つ。淡々としてるのが! 能力者だっていえど、お前はロギアじゃない。物理攻撃は効くんだぞ。私が今、ここで、お前の、その喉元を掻っ切ったら、お前は死ぬんだぞ!


「name! やめてくれよォ!」
「チョッパーうるさい! 気安く私の名前を呼ばないで!」
「name、」
「ロビンも!うるさい!!」


あんたらの言葉で、私の気持ちが変わるとでも思う?私は、コイツを、モンキー・D・ルフィを、殺す。


「ねえ、私が戦えないとでも思った?そんなわけないでしょ!!戦えないふりをしていただけ!!!」
「そうか」
「ルフィさァ、何を思って私のことを仲間にしたのか分かんないけど、私が元々どこにいたとか分かってるでしょ?むしろ、分かんないわけなかったよね?」
「知らねェ」
「知らないわけないでしょ!! 私は!ドンキホーテ一家の!!ドフィの!家族だったの!! それなのに、お前は、私の!!私の家族をバラバラにした!!!ドフィを!ドフィを!もう手の届かないところにやった!!! お前、お前…ッ!!」
「お前の事情なんて知るか。おれはお前を仲間にしたかっただけだ」
「何で私なの!!!何で私を!!!!!」


グッと、切っ先を喉元に近付ける。ザワ、とみんなが構えた。あの優しいゾロも、サンジも、ウソップも、ナミもロビンも、チョッパー、フランキー、ブルック、みんなが構える。今から私はお前らの船長を殺して、私も死ぬから。お前らが動く前に、さっさと殺して、私も死ぬ。ドフィのいない海なんて、私のいる価値がない。お前らの船に乗っていたって、私は、存在価値すらない。


「name、」
「…」
「お前可哀想なやつだな」
「ッ、はあ?!!?」
「まだあんなやつに縛られてるのか」
「お前に…ッ、何が分かる!!!!!!」


何が起こったのか分からなかった。私は、ルフィに、ルフィの喉元を思い切り切りつけたつもりだった。それなのに、何で、私の目の前にはあの暗い暗い、綺麗な星空と、ルフィの顔が見えるの。思い切り身体を甲板に叩きつけられたのか、あとになって痛みがじわじわと襲う。ナイフを握っていた手を思い切り踏みつけられて、力が入らない。ああ、もう、ダメだ。


「………し、…よ」
「ん?」
「………も、殺して…、よ…!!」
「…」
「ドフィのいない…この海に、私の存在価値なんてない………もう、生きていたくない…!」
「…」
「せんちょ、殺してよ…!」


バシン!静まり返った海に乾いた音が響いた。暗い星空からいくつか星が落っこちてきた。目の前がチカチカする。ナミが声を張り上げてる。私、今、殴られた?


「お前よォ、ミンゴがどうだとか、殺してくれだとか、存在価値がねェだとか。そんなんおれが知るかよ」
「…!」
「ミンゴの仲間だった? そんなのおれ知らねェし。あんときまずそーに飯食ってるname見て腹立ったんだ!あのメシ屋、スッゲェうめーのに、失礼な顔すっから!」
「な、にそれ…」
「サンジの飯食えばぜってーあんな顔することねェし、おめー面白そうだし。だからおれが連れてきたんだ」
「…」
「ミンゴミンゴうるせェ! name、お前は今、おれの船に乗ってんだ! 麦わらの一味なんだ! いちいち昔のことあーだこーだ言ってんじゃねーぞ!」


何、コイツ。やっぱり殺したい。こんな、理不尽な、勝手な。別に私、まずそうな顔してないし。あそこのメシ屋が美味しいの、私が一番知ってるし。ふざけんなよ、こいつ。調子乗りやがって!
ギロリと睨みつけると、またあの、目をする。私、その目、嫌いなんだよ。

何が麦わらの一味だ、ふざけんな。無理矢理連れてきたくせに。私は死にたかったのに。勝手に連れてきやがって。


「おれは、海賊だ。ほしいものは力づくで奪う」


すくりと立ち上がったルフィを見上げる。何が海賊だ、私だって、海賊だっつーの。横目でゾロ達を見る。さっきまで敵意と殺意に満ちていた空気が、いつの間にか、いつものあの穏やかな空気に戻っている。なんで、なんでだ。


「name」
「………なに、」
「おめーは、おれらの仲間だからな!」


ししし、と太陽みたいな笑顔を浮かべる麦わらの船長の、顔が見れなくてぎゅっと目を瞑る。その瞬間にルフィに担がれる。やっぱり、殺せないよ。この数週間で、私は麦わらの一味を言葉に表せないくらい大好きになってしまった。


「…る、ひ」
「なんだ?」
「雨、降ってるよ」
「空すげぇキレーなのに、何言ってんだおめー」


ううん、雨降ってるよ。だって、こんなにも止まらない。ごめんなさいと、大好きが。止まらない。



星屑とナイフ

今日のことを、明日にはみんな許してくれるだろうか。ルフィに連れてこられた医務室で、チョッパーに手の処置をしてもらって、代わりがわりに様子を見にくる彼らに。私は許してもらえるのだろうか。窓から見える星空と零れる星屑、ベッドの端っこに腰掛ける船長に気付かないふりをしながら私はそっと目を閉じた。


2016.02.13

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