「……はあ、」


吐き出されたため息は白いもやもやとなって消えて行った。うう、寒い。さっきまで高級レストランにいたことが夢なんじゃないかと思う。身を縮めてブーツをカツカツとわざと鳴らしながら歩く。

今日はクリスマスだ。

それなのに私の彼氏(だった人)は別に今日じゃなくていいものの、今日私に別れを告げた。あまりにも酷で私は堪らず手に持っていた水をぶっ掛けて荷物を持って高級レストランから出てきた。水じゃなくてワインぶっかければよかった。


何となく、別れるだろうなあとは思ってた。連絡もまちまちになったし、会っても前みたいなトキメキを感じなくなっていたし。何より、相手から別の女の臭いがするようになっていた。クリスマスに別れるくらいなら、女の臭いがすると分かった時にビンタでもかまして別れてやれば良かった。とても悔しい。


ふいに、毎年一緒にクリスマスを過ごしていた幼馴染達の顔が頭をよぎる。今年も一緒に過ごそうと言われたけど、なんにせよ初めての彼氏だったために私は長年付き添ってきた幼馴染達よりも、あの男をとってしまった。そのことにとても弟分は怒っていたのを思い出す。兄貴分の方は、何とも言えないような顔をしてそうかよ、とだけ言っていた。…今から行ったら、出迎えてくれるだろうか。


「出迎えてくれる、わけないよなあ…」


通知のない携帯を見てはまたため息をつく。真っ直ぐ家に帰るのもなんだか嫌で、私は夜の街をただただ途方に歩き続けた。







「そこのオネーサン、1人?」


頭の悪そうな男の人に声をかけられる。聖なるクリスマスの夜に1人で歩く女なんてきっと私だけだろう。あたりを見回しても、1人で歩いているのは私だけだった。足を止めて横目でチラリと声の主を確認する。…うわあ、1人だけじゃないんかい、5人もいるんかい。アホか!


「……いや、1人ってわけじゃ」


こんな寂しい男たちと一緒になるのが嫌でつい口からでまかせを吐く。自分で言っておいてとても辛くなる。1人だよこんちくしょーめ!これから行くところはマイハウスだよバカヤロー今頃お父さんとお母さんが仲良くセッセセしてるに違いないんだよもうやめてくれ惨めになる!


「ええ〜でもこんな時間に1人っておかしくない〜?」
「はあ…そうですかね…」
「1人なんでしょ〜?良かったら俺らと一緒にどう?」


俺らと一緒にどう?ってなんだよ。何をするんだよ。どうせあんなことやこんなことしたいだけだろ!どうして聖なるクリスマスに私はこんな低俗な奴らに絡まれてるのかが理解出来なくて頭に手を当てる。参った、これは間違いなく水をぶっかけられたことに怒ったあの男からの呪いのクリスマスプレゼントだ。最悪だ、最悪極まりない。


「ねっ、行こうよ」


頭に当てていた手をグイッと引っ張られてバランスを崩した私は男の腕の中に収まってしまう。う、臭いがきつい。どんだけどぎつい香水使ってんだコイツ…!ま、まずい!これじゃ間違いなく連れていかれるぞ!ど、どうするかここは勢いよく股間でも蹴り上げて逃走するしか…!!


「悪いな、それ俺の連れなんだよ」


聞き慣れた声にハッとする。気が付いたときには男の腕から抜け出していて、別の男の腕の中にいた。「あ、」と声を出したときにはもうその場から離れていた。何で、こんなところに?


「………随分と嫌そうなクリスマス過ごしてんのな」
「…何でこんなところにいるの、エース」


低俗な奴らから私を助け出してくれたのは本来一緒に過ごす予定だった兄貴分のエースだった。今頃ルフィと一緒にいるはずなのに、どうしてこんなところにいるのかが本当にわからなかった。

突然立ち止まっては私の肩をガッと掴み、眉間にシワを寄せながらじいい、と私を見る。な、なんだその顔は…!


「お前!彼氏と一緒にいたんじゃなかったのかよ!」
「フられた」
「あ!?フられた??!」
「そう。酷いよねー、全く。別に今日じゃなくても良かったのに」
「…っとに、お前はよ……」


はあぁ、と深いため息をついて項垂れるエースに首を傾げる。なんだって言うんだ、エースには別に関係の無い話じゃないか。私のことよりも、何でこんな時間にエースがここにいるのかがわからないよ。何でこんなところにいるんだまじで。口を開こうとしたらそれもまたエースに妨げられる。


「帰るぞ」
「…へ、あ、どこに?!」
「家だよ家!アホかおめーは!こんなさみィ中外で1人で一夜明かすつもりか?!!」
「い、いえ…」
「冗談じゃねーよほんと。だから最初っから俺らと一緒にいりゃ良かったのに…」


ぶつくさ言いながら口を尖らせながらもしっかりの私の手を取り歩き出す。…もしかして、エース私のこと心配して迎えに来てくれたり?いやでも私がこんなことになるだなんて予想もつかないはず。


「……ね、エース?」
「……あンだよ」
「何で、あそこにいたの?」
「………………………どっかのアホが、ロクでもねえ奴らに絡まれてるって、シャンクスが」


ボリボリとニット帽越しに頭を掻くエースの言葉に耳を疑う。う、嘘だろ…あの場所にシャンクスがいたっていうの?!あの一部始終を見られてたと思うと恥ずかしすぎて今すぐ燃えて無くなりたい!

「レストランに一緒にいた男に水ぶっかけてたのは傑作だったって」とほんの少しニヤニヤしながらいうエースにもまた顔が燃え上がりそうになった。シャ、シャ、シャンクスのやつ〜!レストランにもいたのか!ということは私がレストランから出てからもしかしたらずっとついてきてたってこと!?それなら声かけてくれたって!


「俺にありがとうは」
「……あり、がと」
「ん」


握り締められる手がどことなく強くなった気がした。チラリとエースを盗み見するとばち、と目が合った。う、何か話題を…!


「…………………あっ、えと、…ルフィは?」
「肉食ってるか、寝てる」
「そ、っかあ…」
「……今日はおれんち来いよ」
「は?」
「だから!今日はおれんち来い!ルフィ起こして、3人でクリスマス過ごすぞ!」


照れくさそうに、顔を赤くしながら言うエースに面食らう。な、なんつー顔してるんだ!唇を尖らせてはそわそわしてる。そんなエースを見てたらやっぱり私にはこいつらしかいないなと。


「へへ、エースありがと大好き!」
「おわっ、あぶねえな!……よし、ならさっさと帰るぞ」


勢いで抱きついたにも関わらずしっかりと受け止めてくれたエースにへへ、と笑ってみせる。ふいに香った落ち着く匂い。ああ、私やっぱりエースが一番好きかも。



君の匂いと聖なる夜

(ルフィー!ごめんね!これからはずっと3人で一緒にクリスマス過ごそうね!)
(何だよ遅ェよ〜!もうnameの分の肉はねえからな!あとエースの分も!)
(なっ、ちゃんと残しておけって言っただろうがルフィ!)
(ししっ、もっかい買いに行こうぜ!)

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どうして季節外れな話しを書いたのかは私にも分かりません。


2015.09.27

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