※下品


「ああ、ねえ確かめたいことあるんだけど…」


ゲラゲラとテレビを見ながら笑うルフィに私は尋ねた。
ルフィはソファーに座っている私の方へ体を向けて「ん?」と間延びをした返事を寄越してきた。ほんの少し間抜けな顔をしたルフィが可愛くて少し笑みを浮かべた。


「ルフィってセックスしたことあるの?」
「セックスぅ〜〜?」


我ながらいきなり突拍子もないことを聞いたと思う。ルフィは意味を分かってるのか分かってないのか首をかしげながら眉間にシワを寄せる。ああほんとごめんいきなりこんなこと聞くもんじゃなかったね姉ちゃん悪かったよ。純粋なルフィにこんなこと聞くもんじゃなかったね!

とは思うけど好奇心の方が申し訳なさを上回ってしまう。きっと私いま悪い顔してると思う。


「そうそう。兄貴達は女経験豊富じゃん」
「エースとサボなあ〜。それは否定しねェ」
「でしょ? そんな兄貴達の弟のルフィくんはどうなのかなーって」


にしし、と笑ってみるけどルフィは表情を崩そうとしない。ていうかアンタ自分のお兄ちゃん達が女遊びすごいの分かってたのね。私はそこに驚いちゃったよ!

ルフィはおもむろに立ち上がって私の隣へドカッと座り込んだ。顔を覗き込んでみるとほんの少し難しそうな顔をしている。目が合うとあの眩しい笑顔を向けてくれるけどやっぱり申し訳ないなあと再確認した。ほんとごめんルフィ。


「どうであってほしいんだ、nameは?」


さっきと逆で、顔を覗き込まれた私はルフィのほんの少し意地悪そうな笑みにドキっとした。いや、ドキッとしたって何!?弟相手にそんな、何を。ドキって何!?

咄嗟に私は顔を背けてバクバクする心臓に手を当てながら静まれ静まれと念じた。


「えっ、そうなる?逆に聞き返しちゃう?え〜そりゃ童貞がいいなあとは思うよ。」
「ふーん…」
「兄貴があんなんだし、せめて可愛い弟だけでもって思うなあ」
「nameは?」
「え?」
「nameはどうなんだ? シたことあんのか?」


どおおおおおおとんでもないこと聞いてくるなコイツ!!

いやまあ流れからしたらそりゃ普通なことなんだろうけどいや待てよすごいこと聞いてくるな!あっもしかしたらルフィからしたら私もこんな失礼なやつだったのかな!?ああもう本当にごめんねこんな姉ちゃんでごめんね!

表情を変えずに尋ねてくるルフィに私の静まりかけた心臓はまたうるさく騒ぎ始めた。まいったなあ、こういう顔のルフィ苦手なんだよな。なんか、なんでも見透かされてるような気がしちゃって。


「ちょ、ちょっとルフィ。そんなこと女の子に聞いちゃいけないんだよ」
「処女か」
「あーーーー!うるさいなァもう!」
「しししっ、別にいいじゃねェか。恥ずかしいことじゃねえぞ!」


何で私ルフィに慰められてるの!?

肘でうりうりしてくるルフィを横目で睨みつけると楽しそうに笑う。もしかして私これルフィに馬鹿にされてたりする?もしかして馬鹿にされてたりするの?

そう思うとなんだか悔しくなったけどこんなヤツ(失礼)に見栄張ったりするのももっと悔しいと思ってはあとため息をついた。あれ、ていうかルフィが結局シたことあるのかないのかあやふやなままじゃん。


「でもさ〜、周りはもうそういうことシてるわけでさ〜。何か置いてけぼり感あるんだよねえ」
「そうなのか?」
「うん。ナミだってこの間サンジくんとシたらしいし、たしぎちゃんだってスモーカー先輩とさ〜」


話が脱線していつの間にか私の不満愚痴を聞いてもらっていた。こういうとき女子だったらあれやこれやと物申してくるんだろうけど相手がルフィだと適当に頷いてくれるから話しやすい。


「俺はnameが処女で良かったって思ってるぞ」
「ビビなんて………、って、え?」


え?

なになになに、なに?ルフィ、えっ、なんで?えっ

突然すぎてついていけない私はポカンと口を開けてルフィを見る。ああその顔、私苦手なんだってば。どうしたらいいの。私の手の上に自分の手を重ねてくるルフィ。その手が案外大きくて男の子なんだな、と思わせる。すっぽりルフィの手に包まれた私の手なんてどれだけちっぽけなものやら。いやそれよりなんだこの空気。ちょっとやばめなんじゃ。


「どこぞの知らねェ奴らに触られてないって分かったから安心した」
「…………やっ、やだ。ルフィらしくなーい! どうしたのさいきなり」


この重めな空気を変えようとわざとらしく喋ってみたけどそんなの全然意味がなくって。どうしたものかと対策をない頭で練ってみるけど全然思いつかなくて困ってる。こころなしかルフィとの距離も近づいてるような感じがするし、これはちょっとよろしくない。


「処女が嫌ならもらってやるぞ」
「ちょっと待ってルフィ」
「童貞じゃなくてわりいけどな、ごめん」
「ち、ちがう。いいの、ルフィ。いいから、ね、聞いて」


こんなのよろしくない!こんなのよろしくない!
いやどさくさに紛れてルフィが童貞じゃなかったことが地味にショックだったけどそんなのはどうでもいい。どうでもいいから!この状況はよろしくない!

ソファーの端まで追いやられた私は馬乗りになってくるルフィから逃れようと必死に身をよじる。足の間にルフィが足をねじ込んでくるから身動きがうまくとれなくて嫌な汗が流れる。

よろしくない、こんなのよろしくないよルフィ。


「優しくすっから」
「そういう問題じゃない、ルフィ、ねえどいて。離れてってば」
「エースやサボにはとっくに手出されてたのかと思ってたけど、そんなことなかったみてェだな」
「るひ、ねえっ!」


近付く顔、薄い唇から漏れる熱い息、熱のこもった目、握り締められる手、詰まる距離。

こんなことになるはずじゃなかった。こんなことになるはずじゃ!
ルフィしっかりして、こんなこと良くないよ。ルフィ、ルフィ。


「俺がnameのハジメテ、もらってやる」


誰かこんなの夢だって言ってよ。







「…い、おい、……おい、name、おいname、起きろよ。name!」


聞きなれた声に私は重い瞼を開ける。そこには呆れた表情を浮かべたサボがいた。私が目を覚ましてやっとか、だなんて悪態を付きながらソファーに横になってる私の上に座ってくる。お、重い。


「お、重いよサボ!」
「お前寝すぎだぞー、夜寝れなくなっても知らねえからな〜?」
「ちょ、いいからどいてってば…!」


上体を起こしてサボが座れるように場所を空けてやるとサボは私の上からどいて隣へ座った。いや、そんなことより、私寝てたの?じゃあさっきの、さっきのは夢?何がなんだかわからなくて私は額を押さえる。


「うわ、すごい汗だぞ。変な夢でも見たのか?」
「………う、うん、そうかも…」
「シャワー浴びてこいよ。大丈夫か?」


心配そうに尋ねてくるサボに私は「大丈夫」と一言言ってソファーから立ち上がって冷蔵庫へと向かった。そう、きっとさっきのは夢だったんだ。そう自分に言い聞かせてながら冷蔵庫を眺める。あ、ラッキー午前のお茶ある。


「あっ!おいname〜〜!」
「ッ、ルフィ」


手に取った午前のお茶を危うく落としそうになった。当の本人は「あぶねえ!もったいないから落とすんじゃねえ!」とオロオロしている。

あれ、案外普通…?

ぼーっとルフィを見つめてると小首をかしげながらルフィが覗き込んでくる。我に返った私は平謝りをする。ルフィは「ちゃんと話聞けよー!」と憤慨してる。ああ、うん、きっとやっぱり夢だったんだ。


「それはそうとルフィ私に用あったんじゃないの?」
「あっそうだ!なあせっくすって何だ〜?」


場の空気が凍りついた気がする。ソファーに座ってるサボからの視線が突き刺さるのが分かる。都合がいいのか悪いのかバイトから帰ってきたエースがちょうどルフィの爆弾発言を耳にしたらしく「コラてめえルフィ!」と般若みたいな顔で拳骨を入れる。ゴツ!だなんて鈍い音を立てたルフィの頭には大きいコブができていた。めっちゃ痛そう。


「な、んでそんなこと聞くの?」
「サンジが言ってたんだよ〜!やっとナミとせっくすできたって!すげえ楽しかったって言ってたんだよ!!」
「そ、そう」
「ルフィ、お前には関係ねえことだ忘れろ」
「楽しいことが俺に関係ないわけねえだろエースのバーーーカ!!」
「ルフィッ!!」


バタバタと家の中を駆け回るルフィとエースを見ながらサボと困ったように笑いあう。
さっきのはやっぱり夢だったんだと思い午前のお茶を口に含む。うん、やっぱり美味しい。


「なァname」
「どうしたの?」


エースから逃げてるルフィが私の背後に隠れながら問いかける。これもしエースがルフィのこと見つけたら私も絶対とばっちり食らうことになるから勘弁してほしいなあ。


「…次は、ちゃんともらうからな」
「え、なに…」
「オラルフィィィィ!!nameも何匿ってんだルフィのことぉぉ!!」
「ギャーー!俺が悪かったエースごめんんん!」


予想通り見つかった私たちはエースの両脇にかかえられブンブン振り回されたりして大変な目に遭う。いやサボ笑ってるけどほんとにこれわりと酔うから見てないで助けて欲しいんだけど!?

ルフィの言った言葉の真意がわからないまま。
ケラケラ笑うルフィ、怒ってるけど笑ってるエース、仕方なく助けてくれるサボ。

ああ、きっと何でもなかったんだなあ。


ルフィのにたりと笑う顔も、きっと気のせい。



きっと気の所為

全部気のせい、全部悪い夢。そう言い聞かせる。


2015.07.16

back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -