嫌なものを見てしまった。

任務の報告をしに行くとき、たまたま食堂にサボとコアラがいて。通り過ぎるときにチラリと様子を見てみたら私の見たことない表情を浮かべていたサボ。仮にも彼女である私には見せたことのないような、もう何と言うか慈愛に満ちたような最早菩薩のような、背後に後光が差し込んできそうな(大袈裟?)くらい優しい眼差しでコアラのことを見ていて。

いやいやいやいやいやいや、何だお前その顔。
え、仮にも私、あなたの彼女ですけど。あなた私に対してそんな顔みせてくれたことありました?これじゃあまるで、サボ、あなたコアラのことが好きみたいじゃない!

確かに私は革命軍に来て間もないし、サボとコアラは古株である存在だし、色んな困難やら苦難やらを乗り越えてきたのかもしれないけど、でも、だって!私のことが好きだって言ってきてくれたのは、あなたじゃないサボ!それなのに何よ、別の女にはそんな顔しちゃって。確かに特別な存在なのかもしれないけど、私、彼女なのに。こんなんじゃもうサボが本当に好きなのが誰か分からないじゃない!

嫌なものを見てしまった、と私はさっさと報告を済ませて自室に閉じこもった。寝たら忘れる、寝たら忘れると自分に言い聞かせて。







「name、name。起きろよ」


誰かに揺さぶられて目を覚ます。いけない、寝すぎた!と思いぼんやりする頭を覚醒させる。時計を見ればもう食堂はしまってる時間で。ああ晩御飯食べ逃したなあとあくびをしながら思った。きゅるる、と鳴るお腹の音を聞いて私を起こしに来た人物がクスッと笑う。ああ、サボだ…。


「飯の時間にいなかったからどうしたのかと思ってさ」
「……ああ、うん。見ての通り寝てただけだから…」


いけない、さっきのことを思い出しちゃってまともに顔が見れないしすごい無愛想になってしまう。つい視線を逸らすと、サボがムッとしたような気がした。う、まずいぞこれは。


「どうしたんだよ?」
「い、いや、なんでもないよ」
「じゃあこっち向けよ」
「や、やだ…」
「なんで」
「ね、寝起きだし、顔…見られたくない」


すごい食いかかってくるんだけどどうしよう!

顔を逸らす私が気に食わないのか、近くの椅子に座っていたサボは私のベッドの方まで歩み寄ってきて私の肩に手を置く。意地でも顔を見せたくない私は必死に顔を逸らすけど肩に置かれたサボの手に次第に力が入ってきて肩がメキメキ言う。

痛い痛い痛い!あんた爪の力人並み以上に強いんだからそんな力入れないでよ!肩壊れる!


「いっ、痛いよサボ!」
「じゃあこっち向けって」
「やだってば!寝起きの顔見られたくない」


痛いと言っても手の力を緩めないサボ。顔を上げない私にしびれを切らしたのかサボは私の両頬に手を添えてグイッと無理矢理顔を上げさせる。いま首めっちゃ変な音したんだけど聞こえた?えげつない音したけど聞こえた?


「……………何で泣きそうな顔してんだ」


眉間に皺を寄せながらそう言う。そんなつもりはないのに、泣きそうだなんて、そんな。そう言われてしまったら何だかほんとに泣きそうになってきて喉がヒクヒクしてきた。視界いっぱいに映るサボの顔。ああ見たくない見たくない。サボの顔なんて見たくないよ!そう思うともう辛くて辛くてとうとう私は泣き出してしまった。

ギョッとしたようにサボは私の頬から手を離す。ああもうごめんなさいねこんな勝手に泣いちゃって!止めたくても止められない涙にどんどんイライラしてきて私はサボのことをドン、と突き飛ばした。ごめん、八つ当たりしちゃった。


「も、ヤダ!サボの顔っ、見たくない…!出てっ、てよ」
「…俺が原因で泣いてんの?」
「うるっ、さい。早く出てって…っ、よ!」


決してこんなことを言いたいわけではないのに口からは酷い言葉しか出てこなくて。チラリとサボを盗み見るととても困惑したような表情を浮かべて申し訳なくなった。


「泣いてるname一人に出来るわけないだろ」


そう言ってサボは私の目の高さくらいにしゃがみポンポンと頭を撫でてくる。ああもう、どこまでいい人なんですかあなた。自分がほんとに心の狭くてちっぽけな人間だと突きつけらたような感じがしてもっと嫌になった。

ついには声をあげて泣き出してしまった私にサボは私の腕を引いてその大きい胸を私を閉じ込めた。子供をあやすかのように、優しい手で私の頭を撫でる。その手に安堵してしまう自分と、その優しさが嫌でたまらない自分がいて余計に涙が止まらなくなってしまった。


「…なァ、なんで泣いてるのか知らないけどさ、俺が原因なら理由話してくれないか?
「うっ、やだ、っよ……」
「って言われてもなあ…俺が原因で泣かれてるのに何もしな言ってわけにもいかないし」
「う、うう〜っ。も、やだ、やめて、優しく、しないでよ!」
「無理。自分の彼女に優しくしない男どこの世界にいるんだよバカ」


デコピンされてひゅっ、と一瞬息が詰まった。だからお前爪の力尋常じゃないんだからやめろってほんと手加減して!


「じゃ、サボっ。コアラと、わたっ、し!どっちが大切なのか、ちゃんと、っ、ハッキリさせてよ!」


ジンジンするおでこに手を当てながらもう我慢の効かなくなった私は思い切りサボを睨みつけて思い切り言い放った。するとサボは豆鉄砲を食らったかのように目をパチクリさせる。

はあ何だよ、その顔!あんたが一体どっちを好きなのから大事なのか私はもう分かってるんだからね。


「…………何言い出すのかと思ったらそんなことかよ」
「っはあ?!そんなことっ、て、何よ!こっちが、どれだけ、モヤモヤしてたか知らないくせ………」
「おう知らねえ」
「っ!」


こ、こいつ〜〜〜ッッ!!!
さも当たり前かのように言ってくるこの顔!もう本当にムカつく!もうやだやだやだ!なんで私がこんな奴のことでこんなモヤモヤして泣かなくちゃいけないんだ!


「俺が大事なのはnameだけだ」
「っ、嘘つき!何でそうやって嘘、つくの!サボ嫌い!離してっ、よ!!」


予想外の言葉に面食らった私は、顔に熱を帯びてくるのを感じた。そりゃ嬉しいけど、嬉しいけど!それでも信じられない私はサボの腕の中から抜け出そうとジタバタともがいてみるけど、びくともしないサボの体。キッ、とサボのことを睨みつけるけど、サボも私のことを睨みつけていて私の体は小さく震えた。


「…………………嫌いかよ、」
「! だ、だってサボ!ハッキリしなっ、いんだもん!」
「今ちゃんと言っただろ!nameのことが大事だって!」
「そんなの、嘘っ、だもん!」
「何でそんなこと言うんだ!何でnameがそうやっておれの気持ちを勝手に決め付けるんだ!」
「だって、だってサボ!お昼、コアラと食堂でっ、おしゃべり!してたじゃない!!その時、サボ、すごい、顔、私見たことっ、ない顔してた、っん、だもん!」


そう言うとサボはピクっと肩を震わせて私を見る。ああ、その反応。図星じゃない!結局あなたは私じゃなくてコアラのことが、コアラのことの方が大切なのよ!

睨みつけてると、どんどんサボの顔が赤くなっていった。私は訳が分からなくなってサボの胸板を叩き続けた。離してよもうバカ!


「お、おま、あのとき、いたのか!」
「そう!任務の報告をしに行くっとき、見かけたの!」
「お、お、おれたちの話の内容も聞いてたのかよ?!」
「はあ!?知らないよ、そんなの!」


何となく食い違う話に違和感を覚えながらも私は精一杯睨みつけて精一杯サボの腕の中から抜け出そうと必死にもがく。すると、頭上から笑い声が漏れて、この後に及んで何笑ってるの!と言おうと口を開こうとすると、コアラに向けていた表情が私に向けられていた。私は何がなんだか分からなくて抵抗していた腕に力を入れるのを忘れてしまい、ただ呆然とサボを見つめた。あ、あれ?なんで。


「クッ、ククク……バカだな、name」
「な、な!」
「あン時、コアラとはnameの話をしてたんだよ」
「………………………、え?」
「話の内容は、うーん…まあ教えられないけど俗に言う惚気話ってやつだな」


照れ臭そうに笑うサボの顔。あ、あれ、これってもしかしてもしかしなくても私のただの勘違い、ってこと?

じゃあ、あの時サボはコアラと私のことを話していたから。今私に向けているような表情を、無意識にサボはしてくれていたっていう、こと?!

ああ、なんだ私愛されてる。そう思うと急に泣き喚いたことが恥ずかしくなって、私はサボの胸に頭をこすりつけた。


「なァ、name、お前妬いてたんだろ?」
「〜っ、るさい!」
「ふは、可愛いほんと。すげえ好き」


コアラに対してではなく、私のことを話しているうちにそんな表情を無意識にしていちゃっただなんて、私愛されすぎ!もう自惚れちゃう!

ニヤニヤ笑っているであろうサボの顔が容易に想像できてしまう。悔しくてたまらないから腹いせに抓ってやったらぐえ、と呻いた(変な声!)。


「確かにコアラは大事だ。でもそれは仲間としても大事であってnameとコアラとの大事は全然ちげえよ」


考えていることを見透かすかのように優しく私の頭を撫でながら言うもんだからまた鼻の奥がツーンとしてきた。サボにまた泣くのかよと呆れ気味に言われたからずずっと鼻を吸って涙を飲み込んだ。うう、やっぱりサボ大好きだよ〜!


「……あァ、でもさっきnameおれのこと嫌いって言ったよな〜?」
「っあ!あれは、その、えっと、勢いっていうか、あの」
「俺すごい傷ついたなあ〜?好きな女に嫌い!って言われてさ〜」
「う、うう…!」


根に持つサボはとてつもなくめんどくさいということは私が一番知っている。いやらしく腰のラインを撫でてくるサボに少し顔を引きつらせながら顔色を窺うとにたり、と笑って私を見つめていた。

あ、やばい。めっちゃやばい。

ギラりと光る目に私はさっきなんであんな思ってもいないことを口走ってしまったのかと激しく後悔をした。とりあえずせめてもの抵抗にいやらしく撫でてくるサボの手を精一杯つねっておいた。



嫌いだなんて思ってません!

(ねえサボくんはnameのどこが好き?)
(全部だな)
(具体的にだよ具体的に!)
(ああ、そうだな…。少しいじめると顔真っ赤にして睨んでくるところだな。あの目を見てると、こう、ムラっとくる)
(…………nameすごい大変そう…)


2015.06.18

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -