3人で過ごさなくなったのは5年前。レッドもグリーンも私が寝てる間に勝手に旅に行って、私にいってくるの言葉一つもなしに、何ヶ月も帰ってこなかった。グリーンがチャンピオンになってすぐにレッドも追いついてグリーンがチャンピオンだった時間は短かったらしい(ナナミさんからそう聞いた)。

そのあとグリーンはトキワジムのリーダーになって、レッドは消息不明。グリーンはレッドの居場所を知ってるらしいけど居場所のいの字も教えてくれない。

グリーンはときどきマサラに帰ってくる。グリーンがジムリーダーになってからはよく会うようになった。と言っても、お弁当を忘れたグリーンにお弁当を届けに行ってくれないかしら?ってあのナナミさんの笑顔を見ては断れるわけがない。それ以外ではグリーンに特に会いにもいかないし話しかけにもいかないし。

2人が黙って旅に行ってから、私と2人の間には変な溝ができてしまった。ただ単に私が黙って行ってしまったショックから素直になれないだけかもしれないけど、2人も後ろめたい気持ちは少なからずあるのかもしれない。


「グリーンいますか」
「あ、nameちゃん!待っててね呼んでくるから」


ヤスタカくんってほんと律儀で偉いしすっごい可愛いなあって思う。本当に思う。弟みたいでヤスタカくんは本当に可愛い。


「name」
「あ、グリーン。これナナミさんから」
「やべ、すっかり忘れてたセンキューな」


私からお弁当を受け取るとくしゃりと笑った。知らないよ、私こんなグリーンの笑顔。たった5年でこんなに人に変化ってあるもんなの?なにこれ知らない知らない。

もやもやしてる私なんかつゆ知らずグリーンは私の腕を引く。


「え、なに?私これからシオン行きたいんだけど」
「行く前にちょっと来いよいいもん見せてやる」
「はい?」
「ていうか暇だし俺もシオン行くわ」


突然何を言い出すのかと思えば、グリーンは驚く私なんか気にせず足をズンズンとジムの奥へと進めていく。

ていうか今暇だから一緒にシオン行くとか言ってなかった?さっきまでめっちゃみんな戦ってたけど何これじゃあ挑戦者さんがグリーンのところまできても戦えないじゃん嘘でしょ?挑戦者さん可哀想すぎじゃないの。

そんなことを考えていたらグリーンが突然止まって引っ張られていたのにもかかわらず私はグリーンにぶつかって間抜けな声が出てしまった。変な目で見てくるグリーンに横っ腹に一発かます。お前のせいだよ。殴られたところをさすりながらグリーンは顎をくいっとドアの方へと向けた。なに、私に開けろっていうのか?言うことを聞くのは癪だったけど断る理由もなかったからドアを開けた。


「name」


ドアを開けた瞬間名を呼ばれた。聞きなれない声だった。声の主はグリーンでもない。グリーンの方を振り向いてみたら気持ち悪いくらい綺麗な笑顔を浮かべている。前を向きなおして少しずつ歩いてみる。

誰だろう?

前に誰かがいるのは分かったけど窓から差し込む光のせいで顔が認識できない。しかも帽子を深くかぶってるみたいだし尚更分からない。


「name」


声の主は彼だった。でも、誰?
埒があかないから誰?と問いかけようとしたらその前に彼は顔を上げた。


「レ、レッド……」


レッドだった。5年も会っていなかったけど、直感でそう思った。知らない、知らないよこんなレッド。身長も昔は同じくらいだったのにいつの間にかぐん、と伸びていて。声も低くなってるし、髪の毛も前と違って伸びてる。知らないよこんなレッド。


「たまたま今日こっちに来てて話ししてたら俺らが旅に出てから一回も会ってないって聞いたからよ」


壁に寄りかかりながら(イケメンぶるな)クスクス笑って話すグリーン。レッドは小首を傾げて私を見るし。知らないよこんなの私。なんなの!


「……おかえり、name」
「…………………バカ!帰ってきたのはお前らだよ!バカ!」


目の前まで立ってポンポンと頭を撫でられる。バカなこと言ってるんじゃないよ、目の奥が熱くなってきてそんな顔を見られたくなくて俯く。腹立つ本当に、何よ今更、ばか。


「ふは、嬉しくて泣いてんのかname」


後ろからレッドと私をまとめて肩を組みにくるグリーン。おいばか顔覗くな今鼻水垂れそうなところなんだから。


5年前に戻ったような気がした。

いつも一緒にいた、何をするときもどこへ行くときも、絶対に2人がいた。2人が戻ってきてくれたような気がした。そう思ったら堪えてた嗚咽も涙も全部出てきて、子供みたいに泣き出してしまった。我ながら情けない。もう大人に片足突っ込んでるというのにどうしてこんなに泣いてしまっているのだろうか。レッドもグリーンも驚いてあたふたしてるのがわかる。ごめんよ、そんなつもりじゃないんだ。


「name〜、ちょ、置いていったのは悪かったって。泣くなよ」


グリーンなんて相当困っているのかそわそわしながら私の様子を伺う。ぽんぽん頭を撫でてくれているレッドの手が妙に心地いい。イケメンだなお前らグリーンは情けないけど、さ!



しばらくして泣き止んだ私はグリーンとレッドとシオンに来た。レッドは私たちが行くというから着いてきたみたいだけど。用も済ませた私たちは空が橙色になるのを見つめながらベンチに腰掛けていた。グリーンは少し休むか、といって飲み物を買いに行ってくれた。イケメンですね。


「………ね、name」
「んー?」


突然、何を思い出したのかレッドが私に問いかけてきた。私はぼんやり空を見つめながら生返事をした。


「………勝手にいなくなって、ごめん」
「ああ、いいよそのことは。もう5年も経ってるしさ。今日3人でまた出かけることできてまた前に戻ったみたいな感じして嬉しかったし」
「…………そう」


そう言うとレッドは顔を伏せた。まあ確かに勝手に、しかも私が寝てる時にいなくなるとは思っていなかったししかもポケモンを貰ったその日にすぐいなくなるとも思っていなかったし(おかげで私は残りものだった)本当はまだあまり許せないけど5年も前のことだからいい加減私も腹をくくらなくちゃなと思っていた。その言葉聞けただけで、2人はなんだかんだで私のこと気にかけてくれてたんだなって思えたし、ちょっぴり満足。


「俺、nameのこと好きだよ」
「…………………………………は?」
「5年も会わなかったけど、ずっと想ってた。勝手に置いていったことも、すっと悔やんでた。会いたくても、行けなかった」
「いや、ちょ、待って待って待ってレッド。待ってよ」


話が飛びすぎなんじゃないんですかね。あの無口くんが何でこんな饒舌になってんのビックリだよ私ていうかそんなことより私のこと、今、す、好きって言った?え?

唐突すぎる出来事に頭が回らずショートしてしまいそうだった。なにこれ、どういうことなの?レッドが、私のことを、好き?


「いや、なんか、そんなこと、いきなり言われても困るっていうか、ていうか、なんか、そんな、え、えっと……」
「大丈夫。すぐに俺のこと好きになるから」
「?!おいレッドてめえ!」


飲み物を買いに行ってたグリーンが帰ってきたのは良かったけど何一つよくない。レッドの俺様発言をちょうど聞いてしまったらしく驚いて買ってきた飲み物を落として掴みかかっていった。

ちょっと待ってよもう本当に、一体何がどういうことなの。よく分からないからとりあえず帰ろうよ。私はショートした頭をフル回転させて掴みかかったグリーンをひっぺがそうと重い腰をあげた。



爆弾発言はお控えください

(ちょっとグリーン掴みかかるのはやめなよ)
(お前やけに大人しいと思ってたら何勝手にname口説いてんだ!抜け駆けすんじゃねえ!)
(……鈍臭いお前が悪いんだろ、人のせいにするなよ)
(てめえレッド!勝負だ!!!)
(いいよ、返り討ちにしてあげる)
(いや待ってよグリーン。お前もなんなんだよ)

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勝負し始めた2人に呆れかえってヒロインはカイリューにでも乗って帰ります。帰ったことに2人が気付くのはとっぷり日が暮れた頃です。


2015.01.18

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