なんの変哲も無い昼下がり。切らした卵を買いに家から出る。おー、さむさむ!一年というのは本当に早いもので、ほんの少し前は薄桃色の花びらが空を舞っていたというのに今は真っ白な結晶がはらはらと空を舞っている。おー、さむさむ!

厚着はしてきたものの、吹く風が衣服のこまっっかい繊維の隙間という隙間から通ってくる。冷風ガードみたいなものはないのかな、あったら絶対身体中に巻いて完全装備するのに、なあ。
吐く息が白い、ついでに鼻から出る息も白い。辺りはもう雪化粧だ。いちごシロップでもかけてお化粧させてあげたいね。

一年が経つのは早いとさっき言ったけども、冬獅郎が死神になってからもう何百年も経ってる。早いね、もう隊長さんをやってるんだからね。一年なんて、冬獅郎からしたら一週間くらいなんじゃないのかな。桃も副隊長さんやってるみたいだし、2人とも元気そうで何よりです。私は1人でひっそりと暮らしています。


目的の卵を買ったら、いつも贔屓にしてくれてありがとうっていってお店のお兄さんが甘納豆おまけしてくれた。やりぃ!ちょうど小腹が空いてたんだ、食べちゃおう。

死神になってからというものの、桃はときたま帰ってきては土産話をしてくれる。といってもたったの3日くらいしかこっちにいてくれない。副隊長って忙しいのね。大変そ、私には無理だわ。
そうしたら隊長なんてもっと大変ね、冬獅郎ったらよく頑張ってくれてるわ。偉い偉い。死神になるっていってここを出てから、何度か帰ってはきてるみたいだけど私には会ってくれないの。酷いったらありゃしないよね、ほんと。


あ、周りが真っ白で全然気付かなかったけど今ウサギがはねた!そういえばウサギって寂しいと死ぬらしいよね。私、さみしいからもう死んじゃおうかなあ。死ぬ前に冬獅郎と桃宛に「会ってくれないし寂しいから死にます」っていう手紙送りつけてから死んじゃおうかなあ!なんちゃって。

バカなこと考えてたらすごい悲しくなってきた。うわー視界が歪む、なにこれ。腹立つ、なにこれ、なんで今更涙なんか出てきてくれちゃってんの。腹立つ。何よこれ、バカ。むかつく。


「うっ、いっぐ、ばかー、くそ、くそ、うえっ」


涙止まらない。もう立つのも億劫だよやだやだ。
なんで私だけこんな寂しい思いしてんの、ありえない、私にだって、霊力の一つや二つあったら2人と一緒に死神になってたのに、ありえない!どうせ私にセンスなんてねーよ、くそ。死んじまえ。


「しね、しねー、くそ!うっ、うっ、うえっ、ううー、」


周りが真っ白だから、しゃがみこんだ私は真っ白な空間にひとりぼっちみたい。もうやだ、卵なんて買いに行かなけりゃよかった。クソ、ウサギさんのバカ。私の目の前で飛び跳ねんじゃねえよ!


「ばか、ばか、とーしろーの、ばか、しね。くそがき、ひっぐ」
「おい誰がクソガキだ」


空から声がした!顔を上げると、あら、何百年ぶりだね冬獅郎!嬉しいけどこんなぐちゃぐちゃな顔で会いたくはなかったなあ。あれ、なんでここに?


「つうか、お前今死ねって言っただろ」
「…」
「おい」
「…」
「何か言え」


出てくるのは嗚咽ばかり嗚咽ばかり。話したいことはたくさんあるのよ?ね、冬獅郎。何で私には会ってくれなかったのーとか、隊長さんのお仕事って大変なのーとか、身長伸びたーとか、なんでここにいるのーとか。たくさんあるのよ、でも嗚咽ばかりなの。分かってちょうだいな。


「久しぶりにこっち来てみりゃ家にお前はいねえわ、どこ行ったのかと思って探してたらこんなとこでうずくまってるわ…何があった」
「冬獅郎」
「なんだ」


やっと喋れた!もうこうなったら私のお話にずっと付き合ってもらうんだからね。もらった甘納豆は私一人だけで食べようと思ったけど仕方ないから冬獅郎にも分けてあげるよ。


「私ずっとずっと、ずーっと寂しかったんだけど」
「…」
「なんとかなりませんか」
「……とりあえず、帰るぞ。冷えた体ちゃんと暖めろ。話し相手はその後でしてやる」


さっすが冬獅郎、私の考えてること分かってる!

何百年ぶりかに会った冬獅郎は、身長はほんの少しだけ伸びてて、髪型が変わってて、眉間にすごいしわがよってて、目つきが悪くなって、口も悪くなって、素直じゃなくなったね。

でも私のこと忘れてなかったから良しとしようかな。さ、冬獅郎に会えて悲しい考えも無くなったし涙も引っ込んだし、お家に帰りましょう。一緒にお茶飲んで、甘納豆食べようね。



気分屋少女と不器用少年

(ところでよ)
(なんだい)
(お前俺に死ねって言っただろ)
(まだ言ってんの?)

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ヒロインを護れるまで強くなってから会いに行くと決めていた日番谷くん。意地はってしまってずっとお家に帰らなかった理由です。帰ってきたのはそこそこ自分に自信がついたから。


2014.12.28

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